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第108話 ミリア・ハイルデートはミリアである29
しおりを挟む「──ねぇ、クレハ! 今ので〝空間移動〟のスキルでの、飛ぶ距離の記録、更新したんじゃない?」
「うん。目視圏内しか移動できないから、高い所からだと、やっぱ長く移動しやすいね。まあ、今回は〝空竜〟に乗りながらの条件下からの移動だったけどね」
あはは……と少し苦笑いのクレハ。
記録の更新は嬉しいが、全てが自力の条件下での記録では無いので、それを記録更新と言うのはあまり納得がいかない様子だ。
「あ、あれ? エメレアちゃん、お家があるよ!」
スッとクレハが指をさす。
「え、どこ? あ、本当ね」
エメレアが頷き、返事を返した、その時……
──ビュン! バサリッ!!
「──グウアアアアアアッ!!」
物凄いスピードで、クレハとエメレアの目の前に、空竜の〝変異種〟である──タケシが現れる。
「「!!」」
「わっ!? な、何なの、この青い竜!?」
「く、クレハ危険よ! 早く私の後ろに下がって!」
明確な敵意を持って現れた、大きな青い竜に二人は困惑し、エメレアはクレハを庇うように、青い竜とクレハの間に立つ。
「ダメだよ、エメレアちゃん! 逃げるよ!」
──ヒュン! パッ!
クレハはエメレアの手に触れると〝空間移動〟を使い、目の前の青い竜から急いで離れる。
次の瞬間、ドバンッ! ──と、今まで二人のいた場所に、タケシの尻尾による、叩きつける攻撃が放たれる。大きな岩ぐらいなら簡単に粉砕できる威力だ。
「あ、危かった。本当に間一髪だよ。とにかく今は逃げよう! エメレアちゃん、しっかり掴まってね!」
──ヒュン! パッ!
クレハはタケシの攻撃のタイミングに合わせて〝空間移動〟をし、攻撃を避けながら着実に距離を取る。
「待って、クレハ! あ、あれ! あそこに人がいるわ! しかも、小さな女の子よ!」
移動はクレハに任せて、青い竜の攻撃と、辺りの森や湖を警戒しながら、クレハが避け損じた場合の〝防御魔法〟をいつでも撃てる態勢のエメレアが、湖の湖畔に小さな人影を発見し、慌てて声を上げる。
「嘘!? 早く、その子も一緒に逃げなくちゃ!」
エメレアの視線の先を、クレハもチラリと横目で確認する──だが、その一瞬が命取りになる。
その隙を見逃さなかった、青い竜の大きな前足による攻撃が、二人の上から振りかざされる──!
「──私のクレハに何するのよ! 《生なる樹木よ・我らに守りの加護を授けよ》──〝木の壁〟!!」
結構本気で怒ったエメレアが、絶妙なタイミングで魔法を放ち、太い樹木のような木の壁が現れ、青い竜の攻撃を防ぐ。
先程クレハはエメレアを信じ、危険を承知で青い竜から目を離し、次の行動の算段を立てていた。
互いの強い信頼があってこその絶妙な連携である。
だが、エメレアのその魔法も、攻撃を防いだ後──直ぐに放たれた、青い竜の次の攻撃で粉々に破壊されてしまうが、魔法を貫通し、2回目の攻撃が当たったその場所には二人の姿はもう無い。
──ヒュン! パッ!
二人は〝空間移動〟で少し先に移動済みである。
「ガウ!?」
青い竜は少なくない驚きを感じていた。
そして焦ってもいた。
それもそうだ。自分の守る敷地内に、こんなにも何者かの侵入を許した記憶は今までに無い。
そしてその侵入者は、パッパ、パッパと消えるように移動し、完全に捉えたと思った攻撃を避けるのだ。
──ヒュン! パッ!
クレハは次の〝空間移動〟で、湖の湖畔にいた、小さな女の子のすぐ隣へと移動する。
「よかった、間に合った! 怪我はない? 君! 早く逃げるよ! ──私の手に掴まって!」
クレハはエメレアと繋いでいた反対の方の手を、その少女へと真っ直ぐに伸ばす。
「──ふ、ひゃふッ!?」
だが、その女の子は目を真ん丸に見開いて、自分の目の前に差し出された掌を見て、物凄く驚いている。
「クレハ! 不味い──来るわ!」
慌てた様子のエメレアがクレハに声をかける。
「ごめんね! 怖くないから安心して!」
がしっと、急いでクレハは女の子の手を握る。
「エメレアちゃん、飛ぶ……」
クレハがエメレアに声をかけ〝瞬間移動〟をしようとした、その時──手を繋いでいた、水色の髪の女の子の発した声で、クレハの声が中断される。
「──タケシ! ストップ! この人達は悪い人じゃないから大丈夫だよ!」
「え、え? 知り合い!?」
「というか、タケシって、この青い竜のこと!?」
状況がよく飲み込めないクレハとエメレアは、水色の髪の少女と青い竜を交互に見つめる。
「グウ!」
そしてさっきまで敵意を剥き出しだった青い竜は、水色の髪の少女の一言でピタリと攻撃を止め、バサリと高く飛び上がり、何処かへと飛んで行ってしまう。
「え、えっと……ありがとう。一先ず、あの竜は大丈夫ってことでいいのかな?」
まだ手を繋いだままの水色の髪の少女に、クレハが少し困惑気味に話しかける。
「あ、えと、ふぁ、ふぁい!」
対する水色の髪の少女の返事は噛み噛みである。
「──ッ!? あ、す、すすすすいません!」
繋いでいた手を見て、水色の髪の少女は慌ててその手を離すが、勢い余ってその場にドスっと尻餅をついてしまう。
「だ、大丈夫!?」
「ちょ、ちょっと、あなた怪我は無い!?」
直ぐにクレハとエメレアが心配して声をかけるが……
「は、はい、だい……だいじょぷです……あっ……」
立ち上がろうとする途中に、言葉の間違いに気づいた水色髪の少女は、つるんっと今度は足を滑らせ、バタンと背中から真後ろに転ぶ。
「お、落ち着いて──私達は敵じゃないわよ!」
見かねたエメレアが、優しく声をかけながら水色の髪の少女に手を伸ばし、起こしにかかる。
だが、水色の髪の少女は一瞬ビクッ! とした後に、地面に倒れたそのままの状態で、ゴロゴロと鉛筆みたいに横に転がりながら、その場を去っていく。
「え、転がってっちゃったよ!?」
「何あれ、かわいい」
何処までも転がっていく水色の髪の少女にクレハは驚き、エメレアは目をきゅんっとさせている。
すると、転がっていく水色の少女が、転がりながら、二人へと何かを叫んでいるのが聞こえる。
「──わ、わた、私も敵じゃないですーー!!」
その後もミリアは上り斜面も下り斜面も全く気にせず、何処までもゴロゴロと転がっていくのだった。
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