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第三章
聖剣の間
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「ここが…聖剣の間のようね…」
扉の上に書かれた古代文字を見上げながらメイリスは呟いた。
「『そなたの願いはここにある』…か…」
「はー…ようやくね…」
額の汗を袖で拭い、ビオラは溜息をついた。通路いっぱいに転がる大岩、ランダムに開く落とし穴、火を吐く石像、吊り天井。ここに着くまでに三人は多くの罠をかいくぐることになった。
「メイリスさんがいなかったら危なかったわね」
「そうね。二人だけだったら今頃大腸丸出しになってたところだわ」
これまでの罠のほとんどはメイリスが事前に察知してくれたおかげで回避することができた。冒険者としての経歴がまだ浅いリエルとビオラは、この遺跡に来る前から冒険者の先輩であるメイリスの知識と経験、直感に何度も助けられてきたのだ。
「本当に助かったわ。ありがとう、メイリスさん」
「いいのよこれくらい。そのかわり、無事帰ったら美味しいお肉たくさんおごってね」
礼を述べるリエルに対してメイリスはウインクしながら答えた。
「うん」
リエルは笑顔で頷いた。
「僧侶が肉好きってのも変な話ね」
「ふふ、そういうの気にしない宗派だからいいのよ」
ビオラの疑問に対してメイリスは笑いながら答えた。
「じゃあ、開けるわよ」
リエルは扉をゆっくりと開いた。部屋は広いようだが薄暗く、手持ちのカンテラでは手前しか照らすことができない。
「今照らすわ…『ライト』…!」
メイリスは照明魔法を唱えた。彼女を中心に光が広がり、部屋は瞬く間に明るくなった。
何もない大広間の中心に巨大な柱を背にした台座が一つ。そこには黄金色に輝く煌びやかな剣が突き刺さっていた。
「おお、すごい!あれが伝説の聖剣ってヤツ?」
「いえ、あれは泥棒除けの囮よ」
聖剣に駆け寄ろうとしたビオラをメイリスは制止した。
「え?あれも罠なの?」
「ええ、大概の冒険者はあれで満足して帰ってしまうでしょうね。そのためにあんな派手で価値のありそうなデザインの偽物が置いてあるのよ」
「あー…確かにあのバカ勇者あたりなら引っかかるでしょうね…」
ビオラは納得して頷いた。
「それに…あの聖剣はあんな悪趣味な輝きをしていないわ…」
メイリスは顔をしかめながら呟いた。
「ホント詳しいのね、メイリスさん。王様達もそこまで知らないはずなのに…」
「そうね。まるで本物を見てきたかのような言い方だわ」
突然後ろから聞き覚えのない声が響いた。三人が振り向くとそこには赤いローブを纏った黒髪の少女が立っていた。
「だ、誰よアンタ?」
ビオラは訝しんだ。
「え?」
少女は後ろを振り向き、背後を確認した。
「アンタよアンタ!」
「あ、私?」
ビオラのツッコミを受け、少女は自分のことであることに白々しく気づいた。彼女が知るつまらないジョークの一つだ。
「見ての通りの通りすがりよ」
少女は鼻で笑いながら答えた。
「どこがよ!」
杖を少女に向けてツッコミを入れるビオラの前にメイリスが立ち塞がった。
「あなた…サンメート騎士団の一員ってわけでもないわよね…?」
メイリスは警戒しながら尋ねた。
「騎士団…?私はてっきりあなた達がそうだと…」
少女はわざとらしく首を傾げた。
「あぁ?あたし達をあんなバカ勇者達と一緒にするんじゃないわよ!」
ビオラはけんか腰で答えた。
「騎士団じゃないってことは…あなたは冒険者なの?」
割って入ったリエルが尋ねた。
「冒険者ならば、ペスタ王国から許可証をもらっているはずよね?」
「許可証?そんなもんないわよ」
少女はきょとんとした顔で答えた。どうやら本当に知らないようだ。
「…ということは…!」
盗掘者…そんなワードがリエルの頭に浮かんだ。彼女は腰の剣の柄に手を掛け、臨戦態勢を整えた。
「さぞかし、あの警備を潜り抜けるのには苦労したんじゃないかしら?」
メイリスは厳しい表情に反して穏やかな口調で質問をした。
「ええ。とても便利な道具を持ってきていてホントよかったわ」
少女は微笑みながら答えた。
「なるほど……道理で今まで匂わなかったのね……身の毛もよだつような魔族の臭いが」
「……!」
少女がどんな道具を使ったのか見当はつかない。しかし、メイリスは嗅ぎ付けていたのだ。人間にとって忌まわしい臭いが目の前の少女から漂っていることを。そう指摘された少女の表情が一瞬で厳しくなった。
「魔族ですって?じゃあ、こいつは…!」
ビオラは杖を構え、魔法を唱えようとした。
「…ビオラ!」
何かを察したリエルはビオラに足払いをかけた。
「ちょ……うぇっ!?」
仰向けに倒されながらビオラが頭上を見るとさっきまで首があった場所を少女の短刀が空振りしていた。
「へぇ…よくわかったわね…」
少女は感心していた。もしリエルが足払いをしていなければビオラの首は一瞬で距離を詰めてきた少女の手によって飛ばされていたであろう。ビオラはゾッとしながらもリエルの機転の効いた行動に感謝した。
反撃を警戒した少女は飛び退いて距離をとり、短刀を二本構えていた。
「…あなた…何者なの…?」
剣を構えながらリエルは目の前の少女に問いかけた。
「…私は皆川静葉…いや、ここではシズハ・ミナガワだったかしら。くそったれな魔王に渋々従うしがない魔勇者よ…」
シズハと名乗った少女は不敵に笑いながら答え、両手に持った短刀に黒い炎を宿した。
扉の上に書かれた古代文字を見上げながらメイリスは呟いた。
「『そなたの願いはここにある』…か…」
「はー…ようやくね…」
額の汗を袖で拭い、ビオラは溜息をついた。通路いっぱいに転がる大岩、ランダムに開く落とし穴、火を吐く石像、吊り天井。ここに着くまでに三人は多くの罠をかいくぐることになった。
「メイリスさんがいなかったら危なかったわね」
「そうね。二人だけだったら今頃大腸丸出しになってたところだわ」
これまでの罠のほとんどはメイリスが事前に察知してくれたおかげで回避することができた。冒険者としての経歴がまだ浅いリエルとビオラは、この遺跡に来る前から冒険者の先輩であるメイリスの知識と経験、直感に何度も助けられてきたのだ。
「本当に助かったわ。ありがとう、メイリスさん」
「いいのよこれくらい。そのかわり、無事帰ったら美味しいお肉たくさんおごってね」
礼を述べるリエルに対してメイリスはウインクしながら答えた。
「うん」
リエルは笑顔で頷いた。
「僧侶が肉好きってのも変な話ね」
「ふふ、そういうの気にしない宗派だからいいのよ」
ビオラの疑問に対してメイリスは笑いながら答えた。
「じゃあ、開けるわよ」
リエルは扉をゆっくりと開いた。部屋は広いようだが薄暗く、手持ちのカンテラでは手前しか照らすことができない。
「今照らすわ…『ライト』…!」
メイリスは照明魔法を唱えた。彼女を中心に光が広がり、部屋は瞬く間に明るくなった。
何もない大広間の中心に巨大な柱を背にした台座が一つ。そこには黄金色に輝く煌びやかな剣が突き刺さっていた。
「おお、すごい!あれが伝説の聖剣ってヤツ?」
「いえ、あれは泥棒除けの囮よ」
聖剣に駆け寄ろうとしたビオラをメイリスは制止した。
「え?あれも罠なの?」
「ええ、大概の冒険者はあれで満足して帰ってしまうでしょうね。そのためにあんな派手で価値のありそうなデザインの偽物が置いてあるのよ」
「あー…確かにあのバカ勇者あたりなら引っかかるでしょうね…」
ビオラは納得して頷いた。
「それに…あの聖剣はあんな悪趣味な輝きをしていないわ…」
メイリスは顔をしかめながら呟いた。
「ホント詳しいのね、メイリスさん。王様達もそこまで知らないはずなのに…」
「そうね。まるで本物を見てきたかのような言い方だわ」
突然後ろから聞き覚えのない声が響いた。三人が振り向くとそこには赤いローブを纏った黒髪の少女が立っていた。
「だ、誰よアンタ?」
ビオラは訝しんだ。
「え?」
少女は後ろを振り向き、背後を確認した。
「アンタよアンタ!」
「あ、私?」
ビオラのツッコミを受け、少女は自分のことであることに白々しく気づいた。彼女が知るつまらないジョークの一つだ。
「見ての通りの通りすがりよ」
少女は鼻で笑いながら答えた。
「どこがよ!」
杖を少女に向けてツッコミを入れるビオラの前にメイリスが立ち塞がった。
「あなた…サンメート騎士団の一員ってわけでもないわよね…?」
メイリスは警戒しながら尋ねた。
「騎士団…?私はてっきりあなた達がそうだと…」
少女はわざとらしく首を傾げた。
「あぁ?あたし達をあんなバカ勇者達と一緒にするんじゃないわよ!」
ビオラはけんか腰で答えた。
「騎士団じゃないってことは…あなたは冒険者なの?」
割って入ったリエルが尋ねた。
「冒険者ならば、ペスタ王国から許可証をもらっているはずよね?」
「許可証?そんなもんないわよ」
少女はきょとんとした顔で答えた。どうやら本当に知らないようだ。
「…ということは…!」
盗掘者…そんなワードがリエルの頭に浮かんだ。彼女は腰の剣の柄に手を掛け、臨戦態勢を整えた。
「さぞかし、あの警備を潜り抜けるのには苦労したんじゃないかしら?」
メイリスは厳しい表情に反して穏やかな口調で質問をした。
「ええ。とても便利な道具を持ってきていてホントよかったわ」
少女は微笑みながら答えた。
「なるほど……道理で今まで匂わなかったのね……身の毛もよだつような魔族の臭いが」
「……!」
少女がどんな道具を使ったのか見当はつかない。しかし、メイリスは嗅ぎ付けていたのだ。人間にとって忌まわしい臭いが目の前の少女から漂っていることを。そう指摘された少女の表情が一瞬で厳しくなった。
「魔族ですって?じゃあ、こいつは…!」
ビオラは杖を構え、魔法を唱えようとした。
「…ビオラ!」
何かを察したリエルはビオラに足払いをかけた。
「ちょ……うぇっ!?」
仰向けに倒されながらビオラが頭上を見るとさっきまで首があった場所を少女の短刀が空振りしていた。
「へぇ…よくわかったわね…」
少女は感心していた。もしリエルが足払いをしていなければビオラの首は一瞬で距離を詰めてきた少女の手によって飛ばされていたであろう。ビオラはゾッとしながらもリエルの機転の効いた行動に感謝した。
反撃を警戒した少女は飛び退いて距離をとり、短刀を二本構えていた。
「…あなた…何者なの…?」
剣を構えながらリエルは目の前の少女に問いかけた。
「…私は皆川静葉…いや、ここではシズハ・ミナガワだったかしら。くそったれな魔王に渋々従うしがない魔勇者よ…」
シズハと名乗った少女は不敵に笑いながら答え、両手に持った短刀に黒い炎を宿した。
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