異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第三章

外の様子

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 太陽が西に傾き、空が少しずつ赤く染まり始めた頃。聖バーニィ騎士団に所属する門番の兵士達は相も変わらず遺跡の入り口を見張っていた。

「あー…暇だ…」
「今日は客がほとんど来ねぇな…」

 この日、遺跡の探索に訪れたのは女性の冒険者の三人組とサンユー王国の勇者率いるサンメート騎士団のみである。多い日は入り口の前に行列ができるほどに冒険者達が押し寄せるが、それでも聖剣は見つかっていない。数多の罠によってこの遺跡は侵入者の介入を拒んでいるのだ。

「まぁ、もう少ししたら交代の時間だ。気楽にやろうぜ」
「そうだな」
 兵士は遠くを見渡すが、新しい来客が来る気配はない。遺跡の裏側も異常なしという報告を先ほど受け取ったばかりだ。
「そういえば最近、マーフィーの奴見かけないな」
「ああ。オアシス付近の偵察に行ってそれっきりらしいな」
 兵士二人は気分転換に雑談を始めた。
「案外、オアシスで水浴びでもしてサボってんじゃね?」
「いやいや、あの信仰深くてクソ真面目なアイツに限ってそんなことは――おわっ!」

 突如、入り口の奥の方から大量の水があふれ出した。

「な、なんだこの水は?」
「こんな罠があったのかよ?」

 この遺跡は危険な罠が多く設置されており、聖バーニィ騎士団でさえその全容は解明できていない。ゆえに冒険者ギルドを通じて冒険者達に遺跡の調査の支援を依頼しているのだ。
「おい!何か出てきたぞ!」
 勢いこそ弱まったものの、いまだに川のように流れ続ける水に乗せられて何者かが遺跡の入り口から放り出されてきた。
「だ、誰だ?」
 
 流されてきた男は金色が目立つ鎧を身に着け、頭に派手な頭飾りを被っている。その顔を兵士二人はよく知っていた。
「この人…勇者様じゃねぇか!」
 
 この勇者本人はおろか兵士達は知る由もないが、勇者とサンメート騎士団は遺跡の探索中に突如現れた水流に全員巻き込まれたのだ。当然ながらその水流は静葉が水責めの部屋の壁を破壊したことによるものであることも知らない。

「だ、大丈夫ですか?勇者様!」

 兵士二人は仰向けに倒れている勇者に駆け寄った。

「く…くそ…!この勇者に恥をかかせやがって…」
 どうやら息はあるようだ。リョーマは起き上がり、唾を吐いた。
「おお、よくぞご無事で…」
「うるさい!さっさとどけ!」
 リョーマは兵士を目前から追い払い、敵がいないにもかかわらず剣を抜いた。
「どこの誰だ?こんなくだらない罠を作動させやがって…うちの部下共か?それともあの女共かくそっ!水属性の防具じゃなかったら溺死していたぞ!」
 悪態をつきながらリョーマはズカズカと入り口へ向かっていった。流れ続ける水の流れに逆らいつつ、通路の奥へ進み、やがて入り口からは見えなくなった。
 
「罠を作動させた奴は勇者権限で斬り捨ててやるからな!オラァ!」
 奥の方から怒号が響いた。

「…めっちゃキレていたな…勇者様…」
「あぁ…他の連中は大丈夫かな…?」
 入り口を恐る恐る覗きながら兵士二人は呟いた。
「それにしても、すげぇ流れているな、この水」
「あぁ、ちょっとした川だなこりゃ」
 水流から足を離し、兵士二人はそれを眺めていた。

「うぎゃあああああぁぁぁぁあ!」

 通路の奥から絶叫が響いた。

「こ…今度はなんだ?」
「お、おい待て!」
 入り口に近づこうとした兵士をもう一人は制止した。足元の水流をよく見ると、強力な電流が走っている。このまま足を突っ込んでいたら間違いなく黒焦げになっていたであろう。

 水面の電流が収まり、ほどなくして通路の奥から入り口に黒焦げになった勇者が流れ出て来た。辛うじて息はあるようだが身体はビクンビクンと震え続けている。

「……こんなやべぇ罠があるのかよこの遺跡…」
「…門番担当でラッキーだったな。お互い…」

 兵士達は戦慄しながら恐る恐る遺跡の中を覗いた。
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