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第七章 いざ、最終決戦
妥協は一切いたしません
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魔力切れを起こした翌日は、ちょうどいいことに週末で。
これ以上授業を休むと出席日数が足りなくなりそうなんだ。留年なんかになったらやだし、休み明けまでに体力回復しておかないと。
そんなわけで無理しないよう家でのんびり過ごしていたら、アポなしで山田が見舞いにやってきた。しかも転移魔法でいきなり玄関先に現れたし。
王子を追い返すわけにもいかなくって、仕方ないから今こうして応接室で対面してる。
「ハナコ、思ったよりも元気そうで安心した」
「シュン様、先ぶれもなくいらっしゃられると、至らない面も出てきてしまいますので……」
王子が訪問するってんで、いつもなら使用人総出で準備万端にして出迎えてるからね。
今日みたく突然来られると、屋敷中がひっくり返ったように大騒ぎになっちゃうんだよ。
「いや、わたしのことなら気にしなくていい」
「シュン様がお気になさらなくとも、モッリ家としてはそういうわけには参りませんわ」
「過度のもてなしは不要だ。なに、すぐに帰る。今日はあまり時間がなくてな」
だからそういうことじゃないんだってば。
ああもう、王子相手だとストレートに物言えなくて、ほんとストレスたまるんですけど。
顔には出さずにイラついてたら、山田が勢いよく頭を下げてきた。
「昨日はすまないことをした。ハナコにいやな思いをさせてしまって……」
詫び入れるくらいなら、初めからやるなって感じだし。
それに、さ。
「謝れば済むと思っておいでですの?」
「いや、決してそういったつもりは……」
貴族としては、これまで通り礼節を保つけど。
リュシアン様の前でした約束は、また別次元の話なわけで。
この件に関してだけは二度と妥協しないって決めたんだ。どんなに同情を誘われたって、絶対引いてやるもんか。
「わたくし、シュン様には失望いたしました。あれほど適切な距離を保つよう、再三にわたりお伝えいたしましたのに」
「茶会でハナコの手を握った件か? あれはエスコートであって不適切な行為では……」
「席に着くまででしたらそう言えますわね」
すん、と冷ややかな視線を向けると、山田は一瞬言葉を詰まらせた。
「……すまない。ロレンツォに負けたくなくてつい」
つい、じゃないわよ。
王子の立場で素直に謝罪できるのは、山田のすごいところだって思うけど。だからと言って頭下げればいいってことでもないし。
「今度こそこの胸に刻みつけよう。だからまだ答えを出すのは待ってくれないか?」
「ええ、もちろんですわ」
にっこりして頷いたら、山田ってばあからさまにほっとした顔した。
言っとくけど、昨日の件でイエローカード二枚になったからね? 次何かやらかしたら、卒業待たずに見捨てるつもり。
「時間だ。もう行かねばな」
残念そうに立ち上がった山田。無意識のように、指がわたしの頬に延ばされて。
はっとして、山田はその手を引っ込めた。
「なぜなのだろうな……ハナコのことになると、どうしても冷静な判断ができなくなる」
そんな深いため息とともに言われても。
むしろこっちが聞きたいくらいだよ。
「今日はハナコの顔が見られてうれしかった。学園でまた会おう」
それだけ言い残すと、山田は転移魔法を使ってぱっと目の前からいなくなった。
「姉上、シュン王子はもう帰ったの?」
「ええ、お忙しい合間を抜けていらしてたみたい」
週明けには学園で会えるんだから、何をそこまでって思っちゃう。卒業まで時間がなくて山田も必死なんだろうけど。
「ユイナがさ、姉上に話したいことあるって言ってるんだけど。いま時間ある?」
「大丈夫よ、もう体調も問題ないし」
ゆいなの方から話だなんて珍しい。
そう思いながら健太の部屋に移動して。
「ハナコ様、コンニチハ。今日もお邪魔してまぁす」
「御機嫌よう、ユイナ。あなたはもう少し言葉遣いをきちんとしないと駄目そうね」
「えー、これでもユイナ頑張ってるのにぃ」
頑張っててソレなんかい。
モッリ公爵家に嫁ぐなら、徹底的に仕込まないとマズいって感じだな。
「姉ちゃん、とりあえず今日は見逃してよ」
「仕方ないわね。で、ゆいな、話ってなに?」
メイドを追い出して貴族モードを解除した。この使い分けができるように、ゆいなもビシバシ調教しないとね。
「ロレンツォ王子のことなんですけど。ゆいな、ちょっと思い出したことがあって」
え、意外。ゆいなの口からロレンツォ情報だなんてさ。
「留学ってことになってるけど、ロレンツォ王子、本当は人質代わりにヤーマダ国に来てるんですよ。攻略本にそう書いてあったなって」
「人質で? なんでまたそんなことに?」
「ヤーマダ国って魔法が使えるじゃないですかぁ。大昔に魔法使い狩りが行われて、イタリーノ国と大きな戦争があったって、確かそんな感じの設定でした」
「それってもう戦争はしませんって証明に、ロレンツォがヤーマダ国に来てるってコト?」
じゃあ、万が一戦争が起きたときには、ロレンツォ殺されちゃうかもれないんだ。
この平和ボケしたゲームの世界で戦争なんて起こらないと思うケド。
でもそんな立場じゃ居心地悪いだろうな。ロレンツォがヒネた性格してるのも、なんか分かる気がする。
「俺もソレ初耳でさ。念のため調べてみたけど、ロレンツォ王子、この世界でもやっぱりそういう立場みたいだった」
「そう……」
「だから姉ちゃんも一応気をつけて。ロレンツォ王子と親しくなりすぎると、厄介事に巻き込まれるかも」
気をつけろって言われても、すでに全力でそうしてるんデスが。
「まぁ、言っても百年以上は和平を保ってるし、そこまで心配はないと思うけどね」
「了解。ちゃんと気にとめとくよ」
だけどなんか納得って感じ。あの性格悪いロレンツォがどうして攻略対象なのかって思ってたから。
きっと影の部分見て、ヒロインが絆されてっちゃうんだろうな。
ま、わたしは悪役令嬢だし? そんな簡単に陥落しないけどね!
これ以上授業を休むと出席日数が足りなくなりそうなんだ。留年なんかになったらやだし、休み明けまでに体力回復しておかないと。
そんなわけで無理しないよう家でのんびり過ごしていたら、アポなしで山田が見舞いにやってきた。しかも転移魔法でいきなり玄関先に現れたし。
王子を追い返すわけにもいかなくって、仕方ないから今こうして応接室で対面してる。
「ハナコ、思ったよりも元気そうで安心した」
「シュン様、先ぶれもなくいらっしゃられると、至らない面も出てきてしまいますので……」
王子が訪問するってんで、いつもなら使用人総出で準備万端にして出迎えてるからね。
今日みたく突然来られると、屋敷中がひっくり返ったように大騒ぎになっちゃうんだよ。
「いや、わたしのことなら気にしなくていい」
「シュン様がお気になさらなくとも、モッリ家としてはそういうわけには参りませんわ」
「過度のもてなしは不要だ。なに、すぐに帰る。今日はあまり時間がなくてな」
だからそういうことじゃないんだってば。
ああもう、王子相手だとストレートに物言えなくて、ほんとストレスたまるんですけど。
顔には出さずにイラついてたら、山田が勢いよく頭を下げてきた。
「昨日はすまないことをした。ハナコにいやな思いをさせてしまって……」
詫び入れるくらいなら、初めからやるなって感じだし。
それに、さ。
「謝れば済むと思っておいでですの?」
「いや、決してそういったつもりは……」
貴族としては、これまで通り礼節を保つけど。
リュシアン様の前でした約束は、また別次元の話なわけで。
この件に関してだけは二度と妥協しないって決めたんだ。どんなに同情を誘われたって、絶対引いてやるもんか。
「わたくし、シュン様には失望いたしました。あれほど適切な距離を保つよう、再三にわたりお伝えいたしましたのに」
「茶会でハナコの手を握った件か? あれはエスコートであって不適切な行為では……」
「席に着くまででしたらそう言えますわね」
すん、と冷ややかな視線を向けると、山田は一瞬言葉を詰まらせた。
「……すまない。ロレンツォに負けたくなくてつい」
つい、じゃないわよ。
王子の立場で素直に謝罪できるのは、山田のすごいところだって思うけど。だからと言って頭下げればいいってことでもないし。
「今度こそこの胸に刻みつけよう。だからまだ答えを出すのは待ってくれないか?」
「ええ、もちろんですわ」
にっこりして頷いたら、山田ってばあからさまにほっとした顔した。
言っとくけど、昨日の件でイエローカード二枚になったからね? 次何かやらかしたら、卒業待たずに見捨てるつもり。
「時間だ。もう行かねばな」
残念そうに立ち上がった山田。無意識のように、指がわたしの頬に延ばされて。
はっとして、山田はその手を引っ込めた。
「なぜなのだろうな……ハナコのことになると、どうしても冷静な判断ができなくなる」
そんな深いため息とともに言われても。
むしろこっちが聞きたいくらいだよ。
「今日はハナコの顔が見られてうれしかった。学園でまた会おう」
それだけ言い残すと、山田は転移魔法を使ってぱっと目の前からいなくなった。
「姉上、シュン王子はもう帰ったの?」
「ええ、お忙しい合間を抜けていらしてたみたい」
週明けには学園で会えるんだから、何をそこまでって思っちゃう。卒業まで時間がなくて山田も必死なんだろうけど。
「ユイナがさ、姉上に話したいことあるって言ってるんだけど。いま時間ある?」
「大丈夫よ、もう体調も問題ないし」
ゆいなの方から話だなんて珍しい。
そう思いながら健太の部屋に移動して。
「ハナコ様、コンニチハ。今日もお邪魔してまぁす」
「御機嫌よう、ユイナ。あなたはもう少し言葉遣いをきちんとしないと駄目そうね」
「えー、これでもユイナ頑張ってるのにぃ」
頑張っててソレなんかい。
モッリ公爵家に嫁ぐなら、徹底的に仕込まないとマズいって感じだな。
「姉ちゃん、とりあえず今日は見逃してよ」
「仕方ないわね。で、ゆいな、話ってなに?」
メイドを追い出して貴族モードを解除した。この使い分けができるように、ゆいなもビシバシ調教しないとね。
「ロレンツォ王子のことなんですけど。ゆいな、ちょっと思い出したことがあって」
え、意外。ゆいなの口からロレンツォ情報だなんてさ。
「留学ってことになってるけど、ロレンツォ王子、本当は人質代わりにヤーマダ国に来てるんですよ。攻略本にそう書いてあったなって」
「人質で? なんでまたそんなことに?」
「ヤーマダ国って魔法が使えるじゃないですかぁ。大昔に魔法使い狩りが行われて、イタリーノ国と大きな戦争があったって、確かそんな感じの設定でした」
「それってもう戦争はしませんって証明に、ロレンツォがヤーマダ国に来てるってコト?」
じゃあ、万が一戦争が起きたときには、ロレンツォ殺されちゃうかもれないんだ。
この平和ボケしたゲームの世界で戦争なんて起こらないと思うケド。
でもそんな立場じゃ居心地悪いだろうな。ロレンツォがヒネた性格してるのも、なんか分かる気がする。
「俺もソレ初耳でさ。念のため調べてみたけど、ロレンツォ王子、この世界でもやっぱりそういう立場みたいだった」
「そう……」
「だから姉ちゃんも一応気をつけて。ロレンツォ王子と親しくなりすぎると、厄介事に巻き込まれるかも」
気をつけろって言われても、すでに全力でそうしてるんデスが。
「まぁ、言っても百年以上は和平を保ってるし、そこまで心配はないと思うけどね」
「了解。ちゃんと気にとめとくよ」
だけどなんか納得って感じ。あの性格悪いロレンツォがどうして攻略対象なのかって思ってたから。
きっと影の部分見て、ヒロインが絆されてっちゃうんだろうな。
ま、わたしは悪役令嬢だし? そんな簡単に陥落しないけどね!
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