上 下
5 / 78
第一章 乙女ゲームな世界

悪役令嬢だなんて聞いてない

しおりを挟む
 心配する山田を説得して、屋敷に帰り着くまでジュリエッタが付き添ってくれることになった。
 あのウザい山田を振り切ってくれて、マジでありがとうジュリエッタ!

 歓喜に沸くわたしの心とは裏腹に、ふたりきりの馬車の中はやけに静かだ。

「ジュリエッタ……今日は迷惑をかけたわね」
「いいえ、ハナコ様がご無事で何よりでしたわ」

 恐る恐る話しかけるも、にっこりと返される。
 そこで会話は終了してしまった。

 ジュリエッタは伯爵令嬢で、公爵令嬢であるハナコの取り巻きのひとりだ。かといって特別に仲がいいわけでもない。

 他の令嬢のように媚びへつらうこともしてこないし、いつも物静かにハナコのそばにいるだけだった。

 きっと立場上、仕方なくハナコの取り巻きやってんだよね。
 記憶を思い出した今、そう客観視できる。

(にしても、やっぱり未希そっくり……)

 ジュリエッタと呼ぶには、もはや抵抗感がありすぎだ。それでなくても日本人形のような顔立ちだし。

「わたくしの顔がどうかいたしまして……?」
「な、なんでもないわ」

 びくっとして、ガン見していた視線を逸らした。だって、機嫌を損ねた未希ほど怖いものはないんだよ?
 そりゃ、ジュリエッタは未希じゃないって分かってるけどさ。

 ハナコとして生きてきた記憶はしっかりある。
 だけど華子わたしの意識が邪魔をして、これまでのように公爵令嬢の態度がうまく取れそうもないんだけど。

(山田も普通に王子してて記憶とかなさそうだったな……)

 あー、頭痛い。
 ついさっきまで何の疑問もなく過ごしていた日常が、疑問ありまくりで一体どうすりゃいいんだ。

「せめて未希がなぁ……」
「わたしがどうしたって言うのよ?」
「うん、未希だけでも記憶があればすっごく心強いのに……って、え?」

 なんか今、何気に会話してなかった?

 ぽかんと顔を上げたわたしを見て、ジュリエッタがにやりと笑い返してきた。

「華子、あんたやっぱり思い出してたんだ」
「み、未希……? ほんとに未希なの!?」

 頷く未希に、思わずがばっと抱きついた。
 とたんにいやな顔をされ、ぐいっと肘で押し戻される。

「ちょっとやめてよ、暑苦しい」
「あああっ、やっぱ本物の未希だっ」

 幼馴染にすら容赦のないこの塩対応、まさに未希って感じだわ。感激しすぎて涙出そう。

「でもどうして今まで黙ってたのよ」
「言えるわけないじゃない。だってあんた普通に高慢ちきな悪役令嬢やってたし」
「あー、まぁそりゃそうか……」

 記憶が戻る前のハナコわたしにそんなこと言おうものなら、ジュリエッタの立場は悪いものになってただろう。不敬だなんだと責め立てる自分の姿が目に浮かぶ。

 公爵令嬢なんだから人より偉いのは当たり前。ちょっと前まで本気でそう思ってた。

「うわ、ハナコ激ヤバじゃん」
「そうなんだよねぇ。でもよかった、華子が正気を取り戻してくれて。このままじゃ、あんた断罪コース一直線だったし」
「え?」
「わたしもそばにいてずっと忍びなかったんだよね。いくらゲームの悪役令嬢って言ってもさ、幼馴染とおんなじ顔した人間がギロチンに掛けられて首飛んじゃうなんて」
「は? ゲーム? 悪役令嬢?」

 っていうか、首飛んじゃうってなにっ。

「華子、覚えてないの? この世界、昔プレイした乙女ゲームのまんまじゃない」

 じゃない、と言われましても……。
 情報量が多すぎて、ぱちくりと未希の顔を見た。

「未希、変な冗談……」
「こんな冗談言うくらいなら、さけるチーズを裂けるだけ裂いてホウキでも作った方が一億万倍マシよ」

 どんな例え?
 てか、確かに未希はこんなくだらない嘘をつくようなやつではないか。

「じゃあ、ハナコわたしが悪役令嬢って言うのは……」
「うん本当の話。今まで見てきた感じだと、あんたゲームのストーリー、八割がたなぞってるよ?」

 前世、恨まれて転落死。
 今世、うとまれてさらし首。

 ってか、何それ、あーりーえーなーい――――っ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

転生ガチャで悪役令嬢になりました

みおな
恋愛
 前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。 なんていうのが、一般的だと思うのだけど。  気がついたら、神様の前に立っていました。 神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。  初めて聞きました、そんなこと。 で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

処理中です...