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第一章 乙女ゲームな世界

とりあえず現状把握1

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「ジュリエッタ、よく来てくれたわね」
「お呼びいただいて光栄ですわ」

 あの日、泣きながらすがりつくわたしを面倒くさそうにあしらいつつも、未希はわたしのために時間を取ってくれた。

 怪我のこともあり、学園はしばらく休むことにした。ちょっと頭を整理したかったし。
 そんで今日は未希が放課後に、見舞いがてら家まで来てくれたってわけ。

 家と言っても貴族の屋敷だからバカでかい。社長令嬢だったころのわたしの部屋が、クローゼットの広さって感じだ。

「まずはゆっくりお茶でもしましょう」
「ありがとうございます、ハナコ様」

 公爵令嬢と伯爵令嬢の仮面を張りつけて、部屋へと招き入れる。
 メイドたちを下がらせると、ジュリエッタこと未希は部屋の中を物色し始めた。

「さすが公爵家、インテリアもキンキラキンでいらっしゃること」
「でしょ? なんかわたしも落ち着かなくてさ」

 華子時代にも通いのお手伝いさんくらいはいたんだよね。
 だけど今は着替えから何から、全部世話してくれる使用人が山ほどいる。常に誰かに見張られててヤな感じだ。

「にしてもこの部屋、花多くない? においがこもって逆に臭いんだけど」
「あー、山田がね、しつこく毎日贈ってくんのよ」

 花瓶に生けられた花が、ところ狭しとあちこち並べられている。
 王子からの花束をポイ捨てするわけにもいかず、仕方なくこうして飾ってるんだけど。
 日増しに増えてく花の山に、わたしも頭を抱えていたところだ。

「クサい。ムリ」

 未希は清掃魔法を使って次々と花を消滅させていく。

 この世界は便利魔法がいっぱいあるんだよね。でもハナコは魔力が弱くって、魔法がろくに使えないから残念過ぎる。

「こんなの律儀に飾らなくたって、枯れたって言えばどうにでもなるじゃない」
「いや、花に罪はないっていうか……」

 わたしもわりとドライな性格だけど、未希の容赦なさには時々オソロシサを感じてしまう。
 絶対に敵には回しちゃいけないという見解は、弟の健太と子供の頃から一致していた。

「で、どう? 調子は」
「うん、回復魔法のおかげで体の方は問題ないかな」

 でも頭ん中は絶賛混乱中。
 この先ギロチン行きが待ってるかと思うと、安眠なんかできるはずないじゃん。

「とりあえずゲームの内容を踏まえて、現状を整理していこうか。華子はこのゲームのことどれだけ覚えてるの?」
「正直言ってあんまり……やったような気はしてるんだけど」

 好感度上げとかがメンドウで、乙女ゲームとかほぼクリアしたことがない。未希にすすめられてどれもちょっとやってみただけの感じだった。

「だと思った。じゃあ登場人物のおさらいから。まずは主人公のヒロインね。この世界ではユイナ・ハセガー男爵令嬢が担当」

 白い紙を広げて、未希が分かりやすく書き込んでいく。

「次は攻略対象でメインヒーローの王子。これはシュン・ヤーマダが担当」
「山田の下の名前ってなんだったっけ?」
「日本でもしゅんだったよ。瞬間の瞬で山田瞬」
「ふうん?」
「あんたってほんと昔から山田に興味ないよね」

 だって瓶底眼鏡だし。
 ま、この際山田はどうでもいいから置いといて。

「ユイナ・ハセガーってさ、どう考えても長谷川ゆいなだよね……」

 前世でわたしを突き落とした張本人だ。故意じゃなかったとしても、十分悪意はあったはず。

「ハナコはあのときユイナ・ハセガーに『どうして自分を突き落とさないんだ』って言われたんだよね?」
「うん、確かにそう言ってた。あと悪役令嬢はちゃんと仕事しろとかなんとか……」
「そう、じゃあユイナは前世の記憶あり確定ってことで」

 やっぱりか。
 でないとあんなセリフ出ないもんね。

「ハナコがゲーム通りに動かないから、あっちから接触を図ってきたってとこだろうね。悪役令嬢の嫌がらせでヒロインを突き落とすイベントがあったから」

 言いながら、ゲーム設定と現状の比較を記入する。

「自作自演でハナコわたしに突き落とされたことにしようとしたってこと?」
「多分ね。でもユイナを助けようとしたハナコが、逆に転げ落ちてしまったと。あんたバカでしょ?」
「しょうがないじゃん! とっさに体が動いてたんだからっ」

 うう、未希ってばホント言葉に容赦ない。

「ま、おかげでぎぬを着せられずに済んだよね。ショックで記憶も戻ったしさ、ここはユイナGJグッジョブってことで」
「うん、まぁそうだよね。わたしが軽傷で済んだのも、ユイナが魔法で防御してくれたからだし……」

 元々ユイナは自分にその魔法を使うつもりだったんだろう。でないと自分から階段を転げ落ちようだなんて、怖すぎてできっこない。

「でもハナコとの転落イベントを起こそうとしたってことは、ユイナは王子ルート狙ってるってことだよね」
「それって……」
「そ、あんたがギロチン断罪の目にあうコース」

 ぎゃっ、なんでそんな楽しそうに言う!?

「だけどなんで山田はわたしにちょっかい出してくるんだろ? ゲームだと王子はヒロインに惹かれていくんでしょう?」
「そこなのよね。ずっと見てたけど、シュン王子はユイナにまるで興味を示さないのよね」
「そのおかげでルートを外れるってことは……」
「分からないよ。ユイナは生徒会に入って王子にべったりだし」
「まだ安心はできないってわけか……王子とユイナが親密になると、この先ヤバイってこと?」

 むしろ好きに乳くりあってくれって思うけど。

「あんたが王子と結ばれるか、ユイナを応援して穏便おんびんに済ませるか。結局はこの二択なんじゃない? ユイナをおとしめようとさえしなければ断罪も避けられるだろうし」
「後者一択で!」
「華子ならそう言うと思った。ま、それならそれでわたしもできる限り協力するよ」
「わーん、ありがとうっ未希!」
「ウザい。やめろ」

 お願い、抱き着いたところにカウンターパンチしないで。
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