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「エミィ、今日は綺麗な薔薇が咲いていたから持ってきたんだ。エミィは薔薇が好きだったろ?棘は危ないからとってあるぞ」

「…………」

あの日、エミィに俺の姿が見えなくとも無意識に俺から逃げようとしただけで死のうとまではしなかった意味に気付き、俺はエミィを自由にすることにした。あくまでエミィの行きたいように、したいようにと。

しかし、そうしようとしたとたん、エミィはただじっと何かを待つようにベッドから出なくなったのだ。とはいえ、それに油断すると時折命を投げ出そうと動くので家具が必要最低限と部屋が殺風景になるのは仕方がなかった。そうして一年が経った今、俺にできることとして毎日花を替えている。

時折花を替える時、エミィがなんだろう?とばかりにこちらを向く時があるから、花を見ているだけとわかりながらも俺が見られているような気がして嬉しくなる。

しかし、今日は残念ながら目を向けられることはなく、約一年前からあった辛い日々を思い馳せてしまった。それでもあれから命を投げ出そうとはしても何故か部屋から逃げ出そうとはしないためエミィがよくわからなくなる。

もはや生きるのが嫌になり、逃げる気力もないのだろうか?どこに逃げようと自由にして俺は見えない亡霊としてついていく覚悟もあるというのに。国王としての責務を任す人物だってなんとか見つけ、いつだって代われる準備すらした。

なのに、とたんに逃げ出さずときどき思い出したかのように命を捨てようとする行動には毎度ひやひやさせられて、唯一自由にしてやれないその行動が怖くてたまらず、寝不足の日々。花を摘みに行く時間だけはカーンに頼み、エミィを見てもらっている。

しかし、頼むというよりカーン自身がそれを提案してくれた。

『皇后様に何かしたいのならお花を毎日替えてはいかがですか?元々それで告白をし続けて叶った結婚でしたでしょう』

『だが、また他にエミィを頼んで消えたりでもしたら気が気じゃないんだ』

『仕方ありませんね。それくらいの時間なら私が見ましょう』

『しかし………』

『確かに私は陛下に今じゃ信用されにくいでしょうが、自分から言ったことを裏切った試しはないでしょう?』

その通りだった。決してカーンは俺の命令に背いたわけではない。それに言ってちゃんと返事をしたものに関しては必ず遂行してくれている。だからこそ信じたし、エミィに何かしたい気持ちがあったのも事実だったので、頼むことにした。

実際カーンはちゃんと見ていてくれて、ほっとしながら花を替える日々。花を見繕う時間は婚約前の純粋な気持ちでエミィを想っていたあの日を思い出しながらも、やはりエミィが見えるところにいないと不安で花を見繕えば急いでエミィの元へ行くのはもはや日常。

そしていつか花と一緒に届けばいいなと俺は花を替えた後、毎日ひとり話すのだ。

「エミィ今日はあの日のことを思い出したんだ。あの日実は………」

昔のこと、花を見繕う時に考えたこと、エミィへの変わらぬ想いなど毎日話を変えて。
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