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「エミィ、今日は綺麗な薔薇が咲いていたから持ってきたんだ。エミィは薔薇が好きだったろ?棘は危ないからとってあるぞ」

「…………」

エミィ・クルール……皇后である俺の妻が表情を変えなくなってからどれほど経つのだろうか。エミィの部屋は表情があったあの時とは大違いなくらい殺風景で、寂しい。それもこれも油断すればエミィは命を投げ出そうとするから。しかし、これを責められる人はいない。

寧ろ一番に責められるべきは俺だ。エミィを自分勝手な理由で追い詰め、そんなエミィを死なせてこの世から逃げ出すことすらさせてやれず、エミィの笑顔を奪った俺は皇帝でなければエミィを知るものたちに責め立てられても仕方ない。

寧ろ身分関係なく責め立ててきたなら俺は潔くその言葉を受け入れるつもりだ。それだけのことを俺はしたのだから。

今だって昨日のことのように思い出せる人生最大の後悔をした一年前のことを。















「ルーラを殺害しようとしたのは本当か?」

エミィとは違う女性ルーラを肩に抱きながら大勢の貴族に囲まれ、ただ一人エミィだけは俺と向かい合って俯いていた。そして俺がエミィに向けたその言葉。もちろん、これはこのルーラという女の嘘というのはわかった上で言っていた。それでもあえてこの場で問い質す形をとったのはルーラをいじめているというエミィの噂により、誰もがエミィから離れていった今、唯一味方になれるのは俺だけだと認識させるため。

そもそも俺がこんなくだらないルーラに気にかける素振りを見せているのは、エミィが俺を誰よりも愛しているんだと実感したかったから。そのきっかけは我ながら女々しいと思う。

最初こそ互いに相思相愛と自信を持って言える関係だった。おかしくなったのはエミィが俺の役に立ちたいと俺の皇帝としての仕事を少しでも減らすためにと手伝いだしてから。始めはもっと俺との時間を増やしたいと可愛い理由だったから微笑ましく見ていたし、自分のやる気にも繋がった。だが、エミィは慣れ始めると仕事に目覚めたとばかりに仕事を探しては俺より忙しそうにし始めたのだ。

そこからだった。俺がエミィへの愛を疑い出したのは。俺は仕事以下なのか?仕事を理由に他の男と話したいだけなのでは?疑い出せば止まらず、エミィに愛される実感を得るためにとった手段が不貞という手段。ルーラという女は正にちょうどいいタイミングで隣国からの人質として現れた。

最初こそ罪悪感はあったが、ルーラに偽りの愛を伝えればエミィは泣きながら私だけを愛してほしいとすがるものだから可愛くて可愛くて、久々に愛されている実感も得て罪悪感など吹き飛んでもっともっとと欲が深まった。

そしてそれを繰り返すうちにエミィがルーラをいじめているという噂が広まったが、それはそれでエミィが孤立するきっかけとなればエミィは俺だけを見るようになるとあえてそのままに。そしてついにエミィがルーラを叩いたところに出くわし、俺はエミィが俺を愛するあまり怒り狂ったのだと喜びが沸き上がった。その一回で噂も真実味を帯びて、ついに俺に愛されていると勘違いし人質なのも忘れているルーラはエミィに殺されかけたのだと言い出し、ついに最終段階なのだとその時の俺は浮かれていた。

これを最後にエミィが俺だけを見るようになればこんなルーラは切り捨てて周りが噂に踊らされて何か言うようならルーラが裏で何をしていたか証拠を見せることで全てが終わる。人質だろうが容赦なく殺せるほどの罪も既に集めてあった。

なのに………

「ええ、本当です」

俯いた顔をあげたエミィは泣きもせず虚ろな目で殺害未遂を認めた。

「み、認めるのか?」

何故?エミィがそんなことをしていないのはわかっているからこそエミィが何を考えてそう言っているのかわからず再び問いかけた。

「はい」

変わらぬ返事に、まさか何かこの隣にいるルーラがエミィに薬か何か仕込んだのか?と思い隣を見たが、仕掛けた本人が驚いている様子を見せていたので本当にエミィ自身がそれを認めているということになる。

「認めれば死ぬことになるぞ?」

予定外だが、脅すようにそう言えば慌てて意見も変えることだろう。そうすれば後は予定どおりにと考え直したが………

「はい、殺してください。慈悲をいただけるなら陛下の手で」

「な………っ」

そこでエミィは虚ろな目はそのままににっこりと口角をあげて笑った。それが望みですとばかりに。なぜ?なんで?どうして?頭が混乱の渦に巻き込まれる。エミィを殺すなんて予定はあるはずもなく、誰にも殺させる気なんてない。

「陛下?」

エミィの虚ろな目が、殺さないのですか?とそう問いかけられているようでどくどくと嫌な胸の音が自分の中で鳴り響く。

頼むから……

「お、お前が死んだら新たな皇后はルーラになるんだぞ?いいのか?」

頼むから嫌だと言ってくれ………

「そうですか。けれどもう私には関係ありませんので」

それで全てが終わるというのに。

「え、エミィ………もう俺を愛していないのか?」

「へ、陛下………?」

震える声で問いながらルーラから手を離し、驚く様子を見せるルーラを無視して、変わらずこちらを虚ろな目で見るエミィに恐る恐る近づく。

「愛しています」

「そ、そうか………!なら」

真っ直ぐと伝えられた言葉に安心したのも束の間

「だから陛下の手で殺していただければ」

再び言われたその言葉。

「は、はは………何故?エミィは何も悪くないだろう?」

言外に俺は知っているから……助けてやれるからすがればいいとそう伝える。

「私がルーラ様をいじめました。殺そうとしました。殺せなくて残念です」

「貴様!皇后といえどなんという……!こんなもの陛下の手を煩わせる必要はありません!他の罪人と同じ処刑にすべきです!やはり皇后に相応しいのは………!」

「黙れ!」

「ぐ………っぁ、へ、いか………?」

エミィの言葉に絶望していればそれを後押しするようなあのルーラの共謀者に、怒りのままに剣を投げつけた。そして見事狙いどおりに共謀者の腹に剣を貫通させる。共謀者は血を吐き、何故?とばかりにそのまま崩れ落ちた。それを見ていた貴族たちは咄嗟に悲鳴を押し殺すように口を抑えるのを確認しつつ再び動揺した素振りもないエミィに向き直る。

「怖くないのか?」

「ええ」

「………っなら、これでどうだ!」

いつまでもすがらぬエミィに痺れを切らし、いざというときのための懐に隠してあった小型ナイフをエミィの首に突きつける。死にたくないと叫ぶことを期待して。

「陛下、私はもう疲れました」

「…………………え?」

エミィが私の手に自らの手を添えたかと思えば次の瞬間、エミィの首からは血が流れ、エミィは倒れていた。

「やっ………と………」

何がやっとなのか………それを最後にエミィの目は閉じて………

「ああぁああああああぁぁ…………っ」

城には俺の叫び声が鳴り響いた。

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