27 / 27
番外編 番犬に注意 ※
しおりを挟む
第二騎士団の新人騎士たちに言い伝えられている、謎の教訓がある。
――番犬を怒らせるな。
番犬? 騎士団に犬なんかいないよな?
彼らは意味がわからず頭をひねるのだった。
***
ライオネルが新人騎士のジャックを連れて街を巡回していると、食堂の店主が血相を変えて走ってきた。
「食い逃げだ!」
「どっちに逃げた?」
「あっちだ! リアンが追いかけていった!」
「あいつ……」
ライオネルは店主の指差す方に猛然と駆け出した。
ジャックも必死についていく。
リアンの後ろ姿が見えた。
男に追いつきざま、思い切りタックルをかまし、前のめりに転んだ男の背中に乗って後ろ手に締め上げている。
「すげえ……」
あまりの手際の良さにジャックが目を丸くした。
追いついたライオネルとジャックが、食い逃げ犯の両手を紐で縛る。
「大丈夫か、リアン? 助かったけど、あまり無茶するなよ」
「これくらい平気だよ。すっかりなまっちゃってるから、たまには身体動かさないと」
「そうか、元気になって良かったな。そうだ、紹介するよ。新人の……」
新人騎士ジャックの目はリアンに釘付けだった。
(なんて美しいひとなんだろう。宝石のように輝く紫の瞳、艶めいた唇、陶器のように白い肌、絹糸のような銀の髪。まるで絵画から抜け出た天使みたいな――)
バシン、とライオネルがジャックの頭を叩く。
「ボーっとするな。リアン、こいつは新人のジャックだ。ジャック、彼は前に第二騎士団にいたリアンだ」
「しっ、失礼しました! ジャックと申します。今後ともよろしくお願いいたします!」
ジャックは顔を真っ赤にして頭を下げた。
「俺はもうやめたんだから、そんなにかしこまるなよ。よろしくな、ジャック」
ジャックは差し出された手を握った。
「……はひ」
すっかりリアンに魅了された後輩を見て、ライオネルは「やれやれ」とつぶやく。
「あとは店主に話を聞くから、リアンはもういいぞ」
ライオネルは食い逃げ犯を縛った紐をぐいと引っ張る。
「じゃあ、俺は買物の途中だから失礼します」
「おう、またな」
「がんばれよ、ジャック」
「はい! ありがとうございます!」
去っていくリアンの後ろ姿を切なそうに見つめるジャック。
「ライオネル先輩――」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「言わなくてもわかるんだよ。あいつと会ったやつはみんな同じ反応をするからな」
「そうですか……俺、あんなに綺麗なひと初めて見ました」
「言っとくけど、あいつは人妻だぞ」
「えっ、結婚してるんですか!?」
「ああ。アイザックとな」
「ええっ! あの無愛想なアイザックさんと!?」
「おい」
「あ、すみません。……でも、男でもいいのか……」
真顔で考え込むジャックを見て、ライオネルはゾッとした。
「おいおい、死にたくなかったら滅多なこと言うなよ。〈番犬を怒らせるな〉って教訓知らないのか?」
「あれって、アイザックさんのことだったんですか!?」
「正しくは〈リアンの番犬〉だけどな」
とライオネルが苦笑する。
ジャックはがっくりと肩を落としてつぶやく。
「どうせなら、もっとわかりやすい教訓にしてくれればいいのに」
***
「今日、ブライアンが新人を連れてきたぞ」
テーブルに皿を並べながらリアンが言う。
「ああ、ジャックか?」
「そうそう。なんかボーっとしたやつだったけど、挨拶はちゃんとしてたな」
「ふうん。ボーっとね……」
アイザックの瞳がギラリと光る。
「どうした?」
「いや、もっと鍛え直さなきゃと思って」
「あんまり厳しくするなよ」
「なんで? 気になるの?」
椅子に座っていたアイザックがリアンの腰を引き寄せる。
「べつに……すぐに辞められても困るだろ。おい、食事の支度をするから離せよ」
「嫌だ。先にこっちを食べる」
「あ、こら。やめろって」
リアンの抵抗を無視してシャツをめくり、ピンク色の胸の突起に吸いつく。
「や……んっ」
もう片方の突起を指でこねくり回しながら、吸ったり軽く噛んだりしていると、リアンの力が徐々に抜けていった。
「あ……やん……」
「ここも、ずいぶん感じるようになったな」
「……おまえが、しつこく……んっ、触るからだろ」
「開発成功だな」
「そういうこというな――あっ……」
「硬くなってきたね。こっちはどうかな?」
下着の中に手を入れ、リアンのペニスを大きな手で握る。
「ああ、こっちも硬くなってるね」
くりくりと親指で先端をこすると、じわりと濡れてきた。
「もう、ダメって言ってるのに」
「だけど、腰が揺れてるよ」
「バカ。もうっ、スープが冷めちゃうのに」
「あとで俺が温め直すから」
「……ここじゃやだから、寝室で」
甘えるように囁かれて、アイザックの下半身が激しく反応する。
「わかった!」
チラリと猫のミミを見ると、夢中でエサを食べている。
(よしっ! しばらくは邪魔されないな)
アイザックはリアンを抱き上げ、足早に階段を上がった。
――――――――――――――
番外編まで読了ありがとうございました!
ここで完結とさせていただきます。
♡やお気に入りの登録、大変感謝しております。
(*‘ω‘ *)
――番犬を怒らせるな。
番犬? 騎士団に犬なんかいないよな?
彼らは意味がわからず頭をひねるのだった。
***
ライオネルが新人騎士のジャックを連れて街を巡回していると、食堂の店主が血相を変えて走ってきた。
「食い逃げだ!」
「どっちに逃げた?」
「あっちだ! リアンが追いかけていった!」
「あいつ……」
ライオネルは店主の指差す方に猛然と駆け出した。
ジャックも必死についていく。
リアンの後ろ姿が見えた。
男に追いつきざま、思い切りタックルをかまし、前のめりに転んだ男の背中に乗って後ろ手に締め上げている。
「すげえ……」
あまりの手際の良さにジャックが目を丸くした。
追いついたライオネルとジャックが、食い逃げ犯の両手を紐で縛る。
「大丈夫か、リアン? 助かったけど、あまり無茶するなよ」
「これくらい平気だよ。すっかりなまっちゃってるから、たまには身体動かさないと」
「そうか、元気になって良かったな。そうだ、紹介するよ。新人の……」
新人騎士ジャックの目はリアンに釘付けだった。
(なんて美しいひとなんだろう。宝石のように輝く紫の瞳、艶めいた唇、陶器のように白い肌、絹糸のような銀の髪。まるで絵画から抜け出た天使みたいな――)
バシン、とライオネルがジャックの頭を叩く。
「ボーっとするな。リアン、こいつは新人のジャックだ。ジャック、彼は前に第二騎士団にいたリアンだ」
「しっ、失礼しました! ジャックと申します。今後ともよろしくお願いいたします!」
ジャックは顔を真っ赤にして頭を下げた。
「俺はもうやめたんだから、そんなにかしこまるなよ。よろしくな、ジャック」
ジャックは差し出された手を握った。
「……はひ」
すっかりリアンに魅了された後輩を見て、ライオネルは「やれやれ」とつぶやく。
「あとは店主に話を聞くから、リアンはもういいぞ」
ライオネルは食い逃げ犯を縛った紐をぐいと引っ張る。
「じゃあ、俺は買物の途中だから失礼します」
「おう、またな」
「がんばれよ、ジャック」
「はい! ありがとうございます!」
去っていくリアンの後ろ姿を切なそうに見つめるジャック。
「ライオネル先輩――」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「言わなくてもわかるんだよ。あいつと会ったやつはみんな同じ反応をするからな」
「そうですか……俺、あんなに綺麗なひと初めて見ました」
「言っとくけど、あいつは人妻だぞ」
「えっ、結婚してるんですか!?」
「ああ。アイザックとな」
「ええっ! あの無愛想なアイザックさんと!?」
「おい」
「あ、すみません。……でも、男でもいいのか……」
真顔で考え込むジャックを見て、ライオネルはゾッとした。
「おいおい、死にたくなかったら滅多なこと言うなよ。〈番犬を怒らせるな〉って教訓知らないのか?」
「あれって、アイザックさんのことだったんですか!?」
「正しくは〈リアンの番犬〉だけどな」
とライオネルが苦笑する。
ジャックはがっくりと肩を落としてつぶやく。
「どうせなら、もっとわかりやすい教訓にしてくれればいいのに」
***
「今日、ブライアンが新人を連れてきたぞ」
テーブルに皿を並べながらリアンが言う。
「ああ、ジャックか?」
「そうそう。なんかボーっとしたやつだったけど、挨拶はちゃんとしてたな」
「ふうん。ボーっとね……」
アイザックの瞳がギラリと光る。
「どうした?」
「いや、もっと鍛え直さなきゃと思って」
「あんまり厳しくするなよ」
「なんで? 気になるの?」
椅子に座っていたアイザックがリアンの腰を引き寄せる。
「べつに……すぐに辞められても困るだろ。おい、食事の支度をするから離せよ」
「嫌だ。先にこっちを食べる」
「あ、こら。やめろって」
リアンの抵抗を無視してシャツをめくり、ピンク色の胸の突起に吸いつく。
「や……んっ」
もう片方の突起を指でこねくり回しながら、吸ったり軽く噛んだりしていると、リアンの力が徐々に抜けていった。
「あ……やん……」
「ここも、ずいぶん感じるようになったな」
「……おまえが、しつこく……んっ、触るからだろ」
「開発成功だな」
「そういうこというな――あっ……」
「硬くなってきたね。こっちはどうかな?」
下着の中に手を入れ、リアンのペニスを大きな手で握る。
「ああ、こっちも硬くなってるね」
くりくりと親指で先端をこすると、じわりと濡れてきた。
「もう、ダメって言ってるのに」
「だけど、腰が揺れてるよ」
「バカ。もうっ、スープが冷めちゃうのに」
「あとで俺が温め直すから」
「……ここじゃやだから、寝室で」
甘えるように囁かれて、アイザックの下半身が激しく反応する。
「わかった!」
チラリと猫のミミを見ると、夢中でエサを食べている。
(よしっ! しばらくは邪魔されないな)
アイザックはリアンを抱き上げ、足早に階段を上がった。
――――――――――――――
番外編まで読了ありがとうございました!
ここで完結とさせていただきます。
♡やお気に入りの登録、大変感謝しております。
(*‘ω‘ *)
391
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
平凡αは一途なΩに愛される
マイユニ
BL
子供の頃一度だけ会った男の子の事が忘れられず、その子に似た雰囲気の子と付き合っては別れるを繰り返してきた響介。
ある日全国にホテルを展開している会社の御曹司とお見合いをすることに。
どことなく初恋の人に面影が似ていて気になったが、相手は終始俯いていて乗り気に見えない。これは無理だなと思っていたのに何故か縁談はまとまり、結婚することに。
甘い結婚生活を期待していた響介に待っていたのは、甘いとは程遠い日常。相手の男は自室に引き籠もったまま出てこない。家事は完璧だが彼が行っているのか、人を雇っているのか定かではない。
この結婚生活に意味があるのか分からなくなり、離婚届を用意するまでに。
そんな時長年付き合ってきた人と結婚した大学時代からの友人の幸せそうな姿を目の当たりにする。彼と話をしようと決意して、帰宅すると彼は発情を起こしていた。
オメガバース設定です。
薬の開発が進んでいて発情を抑制できている世界です。
*マークは背後注意シーンがあります。
後半はずっといちゃついております。*マークずっとついています。
『初めてを君と』に出てきた理仁の友人で、二人も出てきます。
前作を読んでなくても大丈夫ですが、合わせて読んで頂けると嬉しいです。
【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末
竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。
巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。
時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。
しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。
どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。
そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ……
★『小説家になろう』さんでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる