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【それは偽りではなく、ノリです。】その15
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黒と白のトリュフチョコレートを小皿に乗せ、冷えた紅茶のグラスを寝室のテーブルに置いた。
ベランダの外で律義に待っている彼を部屋に招き入れ、恐る恐る私の支配領域へと足を踏み入れる彼の姿をじっくりと眺めていた。
「冷たい紅茶はいかがですか?」
ぶちゃっけ、ほぼ出涸らし状態だ。
「まあ、紅茶ぐらいなら・・・」
私は何も知らぬような笑みを浮かべて、トリュフチョコレートの乗った小皿を手に持って近づいた。
「ソラル様、このチョコレートは疲れが取れるらしくて、好評なんですよ!」
無邪気な素振りで、黒いトリュフチョコレートを手に取り、彼の唇に近づけた。
パクリ、と、彼の唇は私の指ごと頬張った瞬間・・・小さな水音を立てて、私の指を離れた。
背筋がゾワリとして、微弱に感じた羞恥心を悟られないように努めた。
「少し、苦いな・・・酒が効いている」
小皿を左手に持ったまま、彼と距離を取ろうとしたが、躊躇いもなく片腕で私の腰を引き寄せた。
「あの・・・白い方も召し上がりますか?」
「戴こうか、今と同じスタイルで食べさせてくれるか?」
「あの・・・紅茶は・・・」
「先にチョコが食べたい」
私の頬が熱を持ち始めたが、気にせずに白いトリュフチョコレートを彼の唇に近づけた。
ぱくり・・・。
指から唇を離す瞬間、彼は上目使いで私の指をぴちゃりと舐めとる。
「あの、紅茶は?」
「飲まなきゃダメなのか?」
彼と物理的に距離をおこうと必死で抵抗するが、気が付けば・・・片手だったはずの彼の腕が、いつの間にか二本揃って私の腰をホールドしていた。
「あの・・・近いんですが・・・」
「ダメか?」
既に彼の息が顔にかかる程の距離にあった。
「う~ん・・・ダメですね」
「何故だ?」
人懐っこい困ったような表情を浮かべて顔を寄せて来る。
「何故って・・・・・・あなた、ソラルさまじゃないですし?」
「――――っ!!」
瞼を見開き、まさに“鳩が豆鉄砲を食ったような”わかりやすい表所を浮かべた。
両手で彼を押し退けようとしたが、その両腕は更に力が入っていた。
なんだが相撲かプロレスの締め技に近い体勢になり、少し焦った。
(うをぉっ! まわしを取られている!)
「あのぅ・・・離して?」
「どうしてそんなひどいことを言うんだ?」
彼は悲し気に目を細めて見せた。
ああ・・・愁いを込めたイケおじ・・・萌え!
・・・じゃなくって。
しっかりしろ! 私の“推し”は本物のソラルさまだ!!
「最初から違和感はあったんですよ」
「・・・・どんな?」
「あの、暑苦しんで放してくれません?」
するりと腰を放してくれたが、直後にその両手は私の首を押さえていた。
けれど私は怯まずに、彼の瞳を直視する。
「どこが違った?」
「違うと言うより、あなたは誰に化けていたつもりなんですか?」
ベランダの外で律義に待っている彼を部屋に招き入れ、恐る恐る私の支配領域へと足を踏み入れる彼の姿をじっくりと眺めていた。
「冷たい紅茶はいかがですか?」
ぶちゃっけ、ほぼ出涸らし状態だ。
「まあ、紅茶ぐらいなら・・・」
私は何も知らぬような笑みを浮かべて、トリュフチョコレートの乗った小皿を手に持って近づいた。
「ソラル様、このチョコレートは疲れが取れるらしくて、好評なんですよ!」
無邪気な素振りで、黒いトリュフチョコレートを手に取り、彼の唇に近づけた。
パクリ、と、彼の唇は私の指ごと頬張った瞬間・・・小さな水音を立てて、私の指を離れた。
背筋がゾワリとして、微弱に感じた羞恥心を悟られないように努めた。
「少し、苦いな・・・酒が効いている」
小皿を左手に持ったまま、彼と距離を取ろうとしたが、躊躇いもなく片腕で私の腰を引き寄せた。
「あの・・・白い方も召し上がりますか?」
「戴こうか、今と同じスタイルで食べさせてくれるか?」
「あの・・・紅茶は・・・」
「先にチョコが食べたい」
私の頬が熱を持ち始めたが、気にせずに白いトリュフチョコレートを彼の唇に近づけた。
ぱくり・・・。
指から唇を離す瞬間、彼は上目使いで私の指をぴちゃりと舐めとる。
「あの、紅茶は?」
「飲まなきゃダメなのか?」
彼と物理的に距離をおこうと必死で抵抗するが、気が付けば・・・片手だったはずの彼の腕が、いつの間にか二本揃って私の腰をホールドしていた。
「あの・・・近いんですが・・・」
「ダメか?」
既に彼の息が顔にかかる程の距離にあった。
「う~ん・・・ダメですね」
「何故だ?」
人懐っこい困ったような表情を浮かべて顔を寄せて来る。
「何故って・・・・・・あなた、ソラルさまじゃないですし?」
「――――っ!!」
瞼を見開き、まさに“鳩が豆鉄砲を食ったような”わかりやすい表所を浮かべた。
両手で彼を押し退けようとしたが、その両腕は更に力が入っていた。
なんだが相撲かプロレスの締め技に近い体勢になり、少し焦った。
(うをぉっ! まわしを取られている!)
「あのぅ・・・離して?」
「どうしてそんなひどいことを言うんだ?」
彼は悲し気に目を細めて見せた。
ああ・・・愁いを込めたイケおじ・・・萌え!
・・・じゃなくって。
しっかりしろ! 私の“推し”は本物のソラルさまだ!!
「最初から違和感はあったんですよ」
「・・・・どんな?」
「あの、暑苦しんで放してくれません?」
するりと腰を放してくれたが、直後にその両手は私の首を押さえていた。
けれど私は怯まずに、彼の瞳を直視する。
「どこが違った?」
「違うと言うより、あなたは誰に化けていたつもりなんですか?」
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