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【それは偽りではなく、ノリです。】その16
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「あんたのイメージする“ソラル”だ」
「ああ、そーゆー事ですか・・・てゆーか? ソラルさまじゃないですよソレ」
「・・・・・・魔力はあんたの涙から貰った・・・城の警備も難なく騙せたはずだ」
そうか、やっぱりあの時の涙が、彼を更なる段階に進化させちゃったワケだ。
(ポケ〇ンか? ポケ〇ンなのか? 無意識に育成しちゃったか?)
先ほどまで自信満々だった“ソラルさまもどき”の化けの皮が剥がれたのだ。
「私が強く貴方に理想を求めたから、出来上がったのはソラルさまじゃなくなってしまったんですね?」
「理想? 何の事だ?」
「その生温い白い手で、ソラルさまのように剣を振るって人を殺せますか?」
「手だと?」
彼の両手が緩み、私の首から離れた。
私はその手を両手で包み、そっと頬を寄せた。
「だから最初に言ったでしょう・・・先生の代わり・・・って・・・」
「ソラルではなく・・・先生か?」
「ソラルさまの手は剣だこができるほどかたい手ですが・・・先生の手は筆を持つ為のしなやかな白い手でした」
その言葉を聞いた偽物は、深いため息をつき、一度目を閉じて見せた。
だが、次の瞬間見開かれた瞳は魔力を帯びた金色に変化していたのだ----。
「なるほど、聖女サマの想いが強すぎて、俺は想像上の人物に化けてしまった訳か!」
彼は思い切り私の手を振り払った。
思わず身体ごと後ろによろめくが、引いた左足ですぐに体勢を整え、声色に強い意志を込めて私は言い切る。
「だって匂いがぜんぜん違う!」
「おまえは犬か!?」
(わん!)
これはまさに4Ⅾ! 匂い付きの環境を最大限に“萌え”に生かさずにしてどうするのだ!?
「貴方から油絵の匂いがしたら、マジでヤバかった!」
「くそ・・・香りか、次の課題だな」
彼は慌てて踵を返し、ベランダに向かった。
「待ぁてぇよぉぉぉ~」
私は思わず彼の外套を思い切り掴み、後ろに引いた。
彼はあっけなくひっくり返り、そのまま床に背中を付けた。
「な・・・に・・・」
段々と彼の瞼が痙攣しながらも閉じていくのが月明かりで分かった。
「惜しかったね? 匂いが分かるほど私に近づかなければよかったのに」
「どう、いう・・・」
「あのチョコレート、私が作ったなんて言ってないでしょ?」
「・・・・・・・なんなんだあんた・・は・・・」
眠るまいと彼の意識が抵抗する苦悶の表情が読み取れた。
「私が作ったトリュフチョコレートの効果を、今日遠征から帰ってきたソラルさまが知っている訳ないでしょ?」
因みにイスマエルに聞いたところ、ソラルさまはチョコレートを高カロリーの栄養補給食だと認識しているらしく、好き好んで食べないそうだ。
私が鬱の治療に処方されていた睡眠導入剤は・・・医者から「これは犯罪に使えるものだから取り扱いには気を付けてね」と、散々口うるさく言われていた薬の一つ・・・まさかこちら側の人間に、こんなに効くとは思わなかった。
ものすごくごめんなさい・・・でも、下手したら私の方が殺されていたかもしれないから、正当防衛・・・だよね?
床に仰向けに倒れ、男は心地よい寝息を立てている。
部屋のランプの薄明りの中、私は目を凝らしてその男の容姿を凝視した。
一瞬だけれど・・・先ほど確認した瞳は野性のオオカミを思わせる金色だった。
髪は月明かりに照らされてやっとわかるような不思議な紫色をしている。
何も知らずにこのままの姿のこの男に出会っていたら、多分、かなり、私は気に入っていただろう。
その男らしい物腰と、偽りのない乱暴な言葉遣い・・・絶妙なツッコミ・・・そして化ける才能・・・。
是非ともコ〇ケで出会いたかった人種だよ!
「・・・さて、これどうやって説明しよう?」
どストレートに、正直に話したとしよう・・・まずい! ソラルさまの名誉にかなり影響しちゃうのではないか!?
まさか自分の姿で聖女の私を口説いたヤツが現れたなんて噂が立てば、ソラルさまが悪くなくても・・・彼の名誉に傷がつくだろうな。
「つまり、コイツの狙いは・・・・・・私の誘拐?」
無論、私にも隙がアリアリで猛省しなければなるまい。
深呼吸代わりに大きなため息をこぼし、天蓋付きのベッドのサイドボードに置いてある真鍮の呼び鈴に手を伸ばし、クレーお姉ちゃんに色々とお願いをする事にした。
絶対明日は、イスマエルの説教が待っているに違いない――――。
「ああ、そーゆー事ですか・・・てゆーか? ソラルさまじゃないですよソレ」
「・・・・・・魔力はあんたの涙から貰った・・・城の警備も難なく騙せたはずだ」
そうか、やっぱりあの時の涙が、彼を更なる段階に進化させちゃったワケだ。
(ポケ〇ンか? ポケ〇ンなのか? 無意識に育成しちゃったか?)
先ほどまで自信満々だった“ソラルさまもどき”の化けの皮が剥がれたのだ。
「私が強く貴方に理想を求めたから、出来上がったのはソラルさまじゃなくなってしまったんですね?」
「理想? 何の事だ?」
「その生温い白い手で、ソラルさまのように剣を振るって人を殺せますか?」
「手だと?」
彼の両手が緩み、私の首から離れた。
私はその手を両手で包み、そっと頬を寄せた。
「だから最初に言ったでしょう・・・先生の代わり・・・って・・・」
「ソラルではなく・・・先生か?」
「ソラルさまの手は剣だこができるほどかたい手ですが・・・先生の手は筆を持つ為のしなやかな白い手でした」
その言葉を聞いた偽物は、深いため息をつき、一度目を閉じて見せた。
だが、次の瞬間見開かれた瞳は魔力を帯びた金色に変化していたのだ----。
「なるほど、聖女サマの想いが強すぎて、俺は想像上の人物に化けてしまった訳か!」
彼は思い切り私の手を振り払った。
思わず身体ごと後ろによろめくが、引いた左足ですぐに体勢を整え、声色に強い意志を込めて私は言い切る。
「だって匂いがぜんぜん違う!」
「おまえは犬か!?」
(わん!)
これはまさに4Ⅾ! 匂い付きの環境を最大限に“萌え”に生かさずにしてどうするのだ!?
「貴方から油絵の匂いがしたら、マジでヤバかった!」
「くそ・・・香りか、次の課題だな」
彼は慌てて踵を返し、ベランダに向かった。
「待ぁてぇよぉぉぉ~」
私は思わず彼の外套を思い切り掴み、後ろに引いた。
彼はあっけなくひっくり返り、そのまま床に背中を付けた。
「な・・・に・・・」
段々と彼の瞼が痙攣しながらも閉じていくのが月明かりで分かった。
「惜しかったね? 匂いが分かるほど私に近づかなければよかったのに」
「どう、いう・・・」
「あのチョコレート、私が作ったなんて言ってないでしょ?」
「・・・・・・・なんなんだあんた・・は・・・」
眠るまいと彼の意識が抵抗する苦悶の表情が読み取れた。
「私が作ったトリュフチョコレートの効果を、今日遠征から帰ってきたソラルさまが知っている訳ないでしょ?」
因みにイスマエルに聞いたところ、ソラルさまはチョコレートを高カロリーの栄養補給食だと認識しているらしく、好き好んで食べないそうだ。
私が鬱の治療に処方されていた睡眠導入剤は・・・医者から「これは犯罪に使えるものだから取り扱いには気を付けてね」と、散々口うるさく言われていた薬の一つ・・・まさかこちら側の人間に、こんなに効くとは思わなかった。
ものすごくごめんなさい・・・でも、下手したら私の方が殺されていたかもしれないから、正当防衛・・・だよね?
床に仰向けに倒れ、男は心地よい寝息を立てている。
部屋のランプの薄明りの中、私は目を凝らしてその男の容姿を凝視した。
一瞬だけれど・・・先ほど確認した瞳は野性のオオカミを思わせる金色だった。
髪は月明かりに照らされてやっとわかるような不思議な紫色をしている。
何も知らずにこのままの姿のこの男に出会っていたら、多分、かなり、私は気に入っていただろう。
その男らしい物腰と、偽りのない乱暴な言葉遣い・・・絶妙なツッコミ・・・そして化ける才能・・・。
是非ともコ〇ケで出会いたかった人種だよ!
「・・・さて、これどうやって説明しよう?」
どストレートに、正直に話したとしよう・・・まずい! ソラルさまの名誉にかなり影響しちゃうのではないか!?
まさか自分の姿で聖女の私を口説いたヤツが現れたなんて噂が立てば、ソラルさまが悪くなくても・・・彼の名誉に傷がつくだろうな。
「つまり、コイツの狙いは・・・・・・私の誘拐?」
無論、私にも隙がアリアリで猛省しなければなるまい。
深呼吸代わりに大きなため息をこぼし、天蓋付きのベッドのサイドボードに置いてある真鍮の呼び鈴に手を伸ばし、クレーお姉ちゃんに色々とお願いをする事にした。
絶対明日は、イスマエルの説教が待っているに違いない――――。
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