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【本物って誰のこと?】その17
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ちょっと立ち止まって、状況を確認しよう!
その1・・・厨房に随時、注文されている食事が10人前である。そして、その料金がそのまま請求され、聖女の予算から支払い続けてしまっていた。
(なんだって? 私が10人前食べてるって? そんなワケがないだろうっ!)
その2・・・何故か手数料が毎回加算されている。
(ふざけんな! 個人経営の高級レストランじゃないんだよ?)
その3・・・料理長が聖女の為に作った大量の食事がどこかに消えている。
(おかわりすると、イスマエルが愚痴るのに・・・)
私は、いつもより豪華な夕食でイスマエルとミーティングしながら、美味しく頂いた。
「すごい、グレードアップしている・・・」
「そうだな、これでやっと貴族レベルだな」
そう言いながら、イスマエルは昼間に納品された白ワインを冷やしながら、チビチビ飲んでいた。
「イスマエルさんや? その白ワイン・・・」
「うんうん、今テイスティングした所だぞ? クレー、ヒロコにもグラスを頼む」
「・・・・・・まあ、いっか、ふふふっ!」
(誰かとお酒を飲むなんて、久しぶりで嬉しいなぁ・・・)
一番最初の自己紹介で、イスマエルは酒が好きだと言っていたのを思い出した。
(もしかして、酒に関しては図々しい?)
今頃、厨房担当の会計係はお粗末なニセの注文書を前に、みんなに無視されている頃だろうか。
それとも、いい格好をして食事を奢っていた舎弟や、手を出していた下働きの女の子達に軽蔑の眼差しを受けている頃だろうか。
自滅コースまっしぐら・・・しかしながら、なかった事にされるのも腹が立つので、今まで誤魔化されていた“横領した食事代の全額返金、および聖女を語った名誉棄損による慰謝料の請求”の書類を正式に作成する事にしたのだ。
私はイスマエルと一緒に、ワイングラスをかかげ、悪い顔をしながら微笑んだ。
昨夜の軽い晩餐のおかげで、ぐっすり眠れたし、何だか体がすっきりしていた。
「ん~、何だか体調がいいなぁ~!」
ベッドから私は起き上がり、思いっきり伸びをした。
室内用のスリッパを履き、大きなカーテンを開いた。
外は爽やかな青空だ、今日はノエミちゃんとのお茶会が午後に控えているので、ご機嫌なのである。
すると、寝室の扉に、軽いノックが響いた。
「クレーでございます」
「起きています。どうぞ」
クレーが寝室内に入り、私の身支度を手伝ってくれた。
今日の朝食のトースト・サラダ・スープと、ダージリンティーとオレンジジュースと水がダイニングテーブルに並べられている。
その準備をしてくれていたのは・・・なんとギヨムさん本人だった。
「おはようございます。ヒロコ様」
優雅な物腰で、熱々のベーコンエッグを目の前で焼いてくれていた。
「お、おはようございます! ギヨムさん・・・て、あれ? ヒロコで会ったのは初めてだよね?」
クレーにエスコートされるまま、私は席に着いた。
「あのチョコは・・・ミリアンちゃんが丁寧に丁寧に、中身のガナッシュをこねていたね」
「あ・・・はい・・・」
「あのトリュフチョコレートは、休みなく働き続ける俺にある事を気がつかせてくれた」
「え~と、はい?」
「あのチョコを口にした途端、頭の中がクリアになり、疲れが取れ、漲る体力が復活した」
「私・・・やっちまいました?」
横でクレーが静かに頷いた。
「まあ、後ろにイスマエル坊ちゃまが護衛についているんだから、こりゃ只者じゃないな? とは、思ったけどね」
「あの程度の変装では、知り合いには効きませんよねぇ・・・」
「しかもそんな奇特なものを作れる女性なんて・・・ねえ? 今のこの城内じゃ、聖女様ぐらいです」
「そうですか・・・」
「俺はね、もうこんな年だし、あんなガヤガヤしたご立派な厨房は好きじゃないんですよ」
「ひゃう?」
「自分のペースで、生きて行きたいと気が付きました」
湯気の立つベーコンエッグの皿を私の前に、出してくれた。
私はその時気が付かなかった、その言葉に、どんな含みがあったかなど・・・。
ニセの注文書を出していた会計係は、証拠隠滅の為に書類を隠そうと自分の机に走り戻った。
元々、高位の文官職を希望していたメタボな男だった為、体力が若い頃の様に全回復していたギヨムの速さには敵わず、証拠品の帳簿と領収書などは処分される前に押収された。
逃亡を防ぐために、犯人は城内の牢屋に叩き込まれた。
その騒ぎを聞きつけたネレが、急にその帳簿と領収書と偽の注文書を見比べて、計算を始めたのだと言う。
「何事か?」と、様子を見に来た他の事務員に、聖女の為に食事を準備してきた期間の合計損失を提出したというのだ。
その金額は・・・ギヨムの給与の倍額を越えていたとの事だ。
その1・・・厨房に随時、注文されている食事が10人前である。そして、その料金がそのまま請求され、聖女の予算から支払い続けてしまっていた。
(なんだって? 私が10人前食べてるって? そんなワケがないだろうっ!)
その2・・・何故か手数料が毎回加算されている。
(ふざけんな! 個人経営の高級レストランじゃないんだよ?)
その3・・・料理長が聖女の為に作った大量の食事がどこかに消えている。
(おかわりすると、イスマエルが愚痴るのに・・・)
私は、いつもより豪華な夕食でイスマエルとミーティングしながら、美味しく頂いた。
「すごい、グレードアップしている・・・」
「そうだな、これでやっと貴族レベルだな」
そう言いながら、イスマエルは昼間に納品された白ワインを冷やしながら、チビチビ飲んでいた。
「イスマエルさんや? その白ワイン・・・」
「うんうん、今テイスティングした所だぞ? クレー、ヒロコにもグラスを頼む」
「・・・・・・まあ、いっか、ふふふっ!」
(誰かとお酒を飲むなんて、久しぶりで嬉しいなぁ・・・)
一番最初の自己紹介で、イスマエルは酒が好きだと言っていたのを思い出した。
(もしかして、酒に関しては図々しい?)
今頃、厨房担当の会計係はお粗末なニセの注文書を前に、みんなに無視されている頃だろうか。
それとも、いい格好をして食事を奢っていた舎弟や、手を出していた下働きの女の子達に軽蔑の眼差しを受けている頃だろうか。
自滅コースまっしぐら・・・しかしながら、なかった事にされるのも腹が立つので、今まで誤魔化されていた“横領した食事代の全額返金、および聖女を語った名誉棄損による慰謝料の請求”の書類を正式に作成する事にしたのだ。
私はイスマエルと一緒に、ワイングラスをかかげ、悪い顔をしながら微笑んだ。
昨夜の軽い晩餐のおかげで、ぐっすり眠れたし、何だか体がすっきりしていた。
「ん~、何だか体調がいいなぁ~!」
ベッドから私は起き上がり、思いっきり伸びをした。
室内用のスリッパを履き、大きなカーテンを開いた。
外は爽やかな青空だ、今日はノエミちゃんとのお茶会が午後に控えているので、ご機嫌なのである。
すると、寝室の扉に、軽いノックが響いた。
「クレーでございます」
「起きています。どうぞ」
クレーが寝室内に入り、私の身支度を手伝ってくれた。
今日の朝食のトースト・サラダ・スープと、ダージリンティーとオレンジジュースと水がダイニングテーブルに並べられている。
その準備をしてくれていたのは・・・なんとギヨムさん本人だった。
「おはようございます。ヒロコ様」
優雅な物腰で、熱々のベーコンエッグを目の前で焼いてくれていた。
「お、おはようございます! ギヨムさん・・・て、あれ? ヒロコで会ったのは初めてだよね?」
クレーにエスコートされるまま、私は席に着いた。
「あのチョコは・・・ミリアンちゃんが丁寧に丁寧に、中身のガナッシュをこねていたね」
「あ・・・はい・・・」
「あのトリュフチョコレートは、休みなく働き続ける俺にある事を気がつかせてくれた」
「え~と、はい?」
「あのチョコを口にした途端、頭の中がクリアになり、疲れが取れ、漲る体力が復活した」
「私・・・やっちまいました?」
横でクレーが静かに頷いた。
「まあ、後ろにイスマエル坊ちゃまが護衛についているんだから、こりゃ只者じゃないな? とは、思ったけどね」
「あの程度の変装では、知り合いには効きませんよねぇ・・・」
「しかもそんな奇特なものを作れる女性なんて・・・ねえ? 今のこの城内じゃ、聖女様ぐらいです」
「そうですか・・・」
「俺はね、もうこんな年だし、あんなガヤガヤしたご立派な厨房は好きじゃないんですよ」
「ひゃう?」
「自分のペースで、生きて行きたいと気が付きました」
湯気の立つベーコンエッグの皿を私の前に、出してくれた。
私はその時気が付かなかった、その言葉に、どんな含みがあったかなど・・・。
ニセの注文書を出していた会計係は、証拠隠滅の為に書類を隠そうと自分の机に走り戻った。
元々、高位の文官職を希望していたメタボな男だった為、体力が若い頃の様に全回復していたギヨムの速さには敵わず、証拠品の帳簿と領収書などは処分される前に押収された。
逃亡を防ぐために、犯人は城内の牢屋に叩き込まれた。
その騒ぎを聞きつけたネレが、急にその帳簿と領収書と偽の注文書を見比べて、計算を始めたのだと言う。
「何事か?」と、様子を見に来た他の事務員に、聖女の為に食事を準備してきた期間の合計損失を提出したというのだ。
その金額は・・・ギヨムの給与の倍額を越えていたとの事だ。
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