上 下
34 / 58
第三章

34話

しおりを挟む
三、

「ん……」

 意識を取り戻した璃兵衛が感じたのは、カビなどが混ざり合ったひどく嫌な臭いだった。

 蓬莱堂でもカビが生えたものや蔵の奥などに仕舞い込まれていたものを扱いはするが、この空間を満たす臭いはそれらとはあきらかにちがう。

(カビの他に湿った土に、何かが腐った臭い……この暗さからして、ここは地下か?)

 暗い場所で過ごすことが長かったため、あかりがなくとも大体の状況は把握できる。

 起き上がろうとするが、手足に枷がはめられているせいでそれはかなわなかった。こうした枷は事前に用意しておかなければ、すぐに手に入る者ではない。

 そうなると、この場所には璃兵衛より前に入れられた者がいるということだ。唯一自由な首を動かしてみると、頑丈な格子が目に入ってきた。

(なるほど、地下牢か……)

 この場所がいつからあるのかはわからないが、おそらくは拷問か他言できないような趣味にでも使われていたのだろう。
しおりを挟む

処理中です...