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4.王宮の蟲
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皇帝子墨の側近には、彼が兵を挙げてからずっと付き従ってきた友柄に加え、もとより王宮内で派閥を作っていた宦官の集団が入り混じっている。宦官達は、悪逆を尽くした前皇帝に顧られることがなかった集団だ。彼らは子墨や赦鶯達が尽力した愚帝討伐に力を貸してくれはしたものの、その後子墨が民衆達を労わる政治を営み始めると、自らの利権が脅かされることを想定してか、すぐに子墨の暗殺を模索し始めた。
食事に毒が盛られているのは序の口で、王宮内に居る彼らの手引きがあるものだから、暗殺者も簡単に潜り込んでくる。ただでさえ国政の立て直しに疲弊している子墨の負担は相当なもので、痺れを切らした赦鶯は宦官達を一人ずつ子墨の毒見に指名した。人選を固定せず、朝餉の前に赦鶯から毒見に指名される方式をとると、宦官達は青褪め喚いたが、数人が毒見の果てに悶絶して命を落とした辺りでやや大人しくなった。
反比例する形で増えたのは暗殺者の襲撃だが、子墨には彼を慕う優秀な護衛達がついてくれているので、玉座に辿り着く前に処分されてしまうのが殆どだ。しかし時として、報酬だけでなく名を売る手段の一つとして、腕の立つ暗殺者が子墨の命を狙ってくることもある。それはかなり厄介で、それが複数人ともなれば、対処にはどうしても赦鶯達の存在が必要となる。
崑崙山脈の麓から王都まで駆け抜けてきた赦鶯は、身なりを整える間も惜しみ、まずは子墨が待つ王の間へと足を運んだ。
「子墨、戻ったぞ」
わざと足音を立てて玉座に歩み寄れば、子墨は安堵したように頬を緩め、少し離れた場所に控えていた宦官達はあからさまに表情を歪める。
「赦鶯! よく帰った」
かつては煌びやかな装飾が施されていた玉座の周りは、必要最低限の調度品を除いて全ての金銀宝石などを取り除き、他国とも取引がある商人を通じて売り払ってしまった。しかし、民衆達から無理な徴税ができない現状において大事な収入源の一つであったそれも、そろそろ底をつきてしまいそうだ。子墨の周囲に侍る宦官達は暗殺は目論まないが、溜め込んだ私財を餌に子墨から利権をもぎ取ろうと虎視眈々と機会を窺っている輩だ。どちらにしても、子墨達にとって味方とは言い難い相手と言える。
通常は赦鶯達が睨みを効かせるので大きな声を上げない彼等だが、桃仁村に赴いた彼が予定以上に不在の上に、暗殺者が多数潜り込んだと噂が回った王宮内で、ここぞとばかりに孤軍奮闘する子墨に擦り寄ろうとしていたらしい。
潮が引くように王の間を辞して行く宦官達の背中を見送り、子墨は赦鶯を玉座の近くに手招く。
「赦鶯、桃仁村はどうだった?」
「……それについては、後で報告をしたい。まずは、暗殺者達の動向について教えてくれ」
赦鶯の問いかけに子墨は頷き、身内の部下達から得た情報を赦鶯に伝える。最低限の護衛を置いた上での巡回だったので穴は大きいだろうが、それでもかなりの人数を数える暗殺者達を捕らえたそうだ。王宮そのものを警護する体制が、笊にも程があるのだろう。
「子墨。やはり前任からの宦官達は排するべきだ。このままでは、民衆の生活を立て直す前に、お前が倒れる」
「……しかし」
「言いたいことはわかる。かの悪逆を討ち倒せたのは、彼らの助力が大きいことも承知している。しかし、このまま奴等の言いなりになっては、それこそ傀儡の二の舞だ」
「わかってる。でも、それだけではないんだ、赦鶯。圧倒的に、人手が足りない」
「……何があった?」
苦渋に満ちた子墨が言うには、そろそろ自分達の排斥が始まろうとする気配を感じた宦官達が、税収を始めとして、灌漑工事や道路の敷設などに関わるあらゆる計算の類を放棄してしまったのだと言う。
「計算ができる仲間達に頑張ってもらってはいるけど……とてもではないけれど、追いつかない」
その仕事をしてもらいたければ、自分達を高い位置におけと、暗に示しているわけだ。
「……姑息な手段だな」
「流石に王宮で生き抜いてきただけはあるよ。頭が回る」
肩を落とす子墨の姿に、赦鶯もため息を吐く。
食事に毒が盛られているのは序の口で、王宮内に居る彼らの手引きがあるものだから、暗殺者も簡単に潜り込んでくる。ただでさえ国政の立て直しに疲弊している子墨の負担は相当なもので、痺れを切らした赦鶯は宦官達を一人ずつ子墨の毒見に指名した。人選を固定せず、朝餉の前に赦鶯から毒見に指名される方式をとると、宦官達は青褪め喚いたが、数人が毒見の果てに悶絶して命を落とした辺りでやや大人しくなった。
反比例する形で増えたのは暗殺者の襲撃だが、子墨には彼を慕う優秀な護衛達がついてくれているので、玉座に辿り着く前に処分されてしまうのが殆どだ。しかし時として、報酬だけでなく名を売る手段の一つとして、腕の立つ暗殺者が子墨の命を狙ってくることもある。それはかなり厄介で、それが複数人ともなれば、対処にはどうしても赦鶯達の存在が必要となる。
崑崙山脈の麓から王都まで駆け抜けてきた赦鶯は、身なりを整える間も惜しみ、まずは子墨が待つ王の間へと足を運んだ。
「子墨、戻ったぞ」
わざと足音を立てて玉座に歩み寄れば、子墨は安堵したように頬を緩め、少し離れた場所に控えていた宦官達はあからさまに表情を歪める。
「赦鶯! よく帰った」
かつては煌びやかな装飾が施されていた玉座の周りは、必要最低限の調度品を除いて全ての金銀宝石などを取り除き、他国とも取引がある商人を通じて売り払ってしまった。しかし、民衆達から無理な徴税ができない現状において大事な収入源の一つであったそれも、そろそろ底をつきてしまいそうだ。子墨の周囲に侍る宦官達は暗殺は目論まないが、溜め込んだ私財を餌に子墨から利権をもぎ取ろうと虎視眈々と機会を窺っている輩だ。どちらにしても、子墨達にとって味方とは言い難い相手と言える。
通常は赦鶯達が睨みを効かせるので大きな声を上げない彼等だが、桃仁村に赴いた彼が予定以上に不在の上に、暗殺者が多数潜り込んだと噂が回った王宮内で、ここぞとばかりに孤軍奮闘する子墨に擦り寄ろうとしていたらしい。
潮が引くように王の間を辞して行く宦官達の背中を見送り、子墨は赦鶯を玉座の近くに手招く。
「赦鶯、桃仁村はどうだった?」
「……それについては、後で報告をしたい。まずは、暗殺者達の動向について教えてくれ」
赦鶯の問いかけに子墨は頷き、身内の部下達から得た情報を赦鶯に伝える。最低限の護衛を置いた上での巡回だったので穴は大きいだろうが、それでもかなりの人数を数える暗殺者達を捕らえたそうだ。王宮そのものを警護する体制が、笊にも程があるのだろう。
「子墨。やはり前任からの宦官達は排するべきだ。このままでは、民衆の生活を立て直す前に、お前が倒れる」
「……しかし」
「言いたいことはわかる。かの悪逆を討ち倒せたのは、彼らの助力が大きいことも承知している。しかし、このまま奴等の言いなりになっては、それこそ傀儡の二の舞だ」
「わかってる。でも、それだけではないんだ、赦鶯。圧倒的に、人手が足りない」
「……何があった?」
苦渋に満ちた子墨が言うには、そろそろ自分達の排斥が始まろうとする気配を感じた宦官達が、税収を始めとして、灌漑工事や道路の敷設などに関わるあらゆる計算の類を放棄してしまったのだと言う。
「計算ができる仲間達に頑張ってもらってはいるけど……とてもではないけれど、追いつかない」
その仕事をしてもらいたければ、自分達を高い位置におけと、暗に示しているわけだ。
「……姑息な手段だな」
「流石に王宮で生き抜いてきただけはあるよ。頭が回る」
肩を落とす子墨の姿に、赦鶯もため息を吐く。
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