184 / 225
模擬戦の条件
しおりを挟む
アルベロのやる気に、室内は騒然となりかけたが……アルベロは構えを解く。
そして、冗談っぽくおどけてみせた。
「なんて、冗談だよ……いくら俺でも、こんな狭い室内で暴れるほど馬鹿じゃないって」
「…………座れ」
エステリーゼがソファを勧めたので座る。
ソファに座っていたのは、アルベロの両親。そして、エステリーゼの後ろにはA級召喚士が並んでいた。どこまでも偉そうな態度だと思いつつ、給仕が運んできたお茶を啜る。
すると、目の前に座っていた父アルバンが言う。
「アルベロ、その……最近どうだ?」
「どうだ、とは?」
「ああ、その……元気か?」
「ええ、まあ」
「そうか。うん……」
アルベロは、両親への興味を欠片も持っていない。
今さら話すこともない。なぜここにいるのかという疑問すら持たなかった。
すると、母サリーがポンと手を叩く。
「そう! あのね、実は今日、エステリーゼが特A級に昇格したお祝いをしに来たのよ。そして、簡易式だけど、爵位をエステリーゼに継承しようと思って……その、アルベロ、あなたもお祝いに」
「そんなことより、さっさと用事を済ませたいんですけど」
「……えっと」
サリーは言葉に詰まっていた。
あまりにも、アルベロは無関心だった。
かつて、自分たちがした仕打ちのように。会話するだけアルベロのがましだった。
せっかく両親が目の前にいるので、アルベロは聴いてみた。
「ああ、そういえば……俺の魔人討伐の報奨金、そっちに送られたはずですよね? 俺の領地運営で使うんで、寮に送っておいてください」
「「!?」」
両親は一気に汗を流す……アルベロは察した。
「もちろん知ってますよね? 金貨が山ほど詰まった樽がそっちに送られたはず。今はもういないけど、オズワルド先生が許可を出してラッシュアウト家に発送したはずだ」
「あ、ああ……そ、そうだった、かな」
「え、ええ……そう、ね」
「よかった。まさか使い込んだなんてことはないですよね? 俺が、命を賭けて、戦った、その、報酬、を! 使い込んだなんて」
「「…………」」
わざと強めに言うアルベロ。
領地経営で使うというのは思い付きだが、必要になる気がした。
テュポーンを討伐した報酬もあるが、金は多くあればいい。
ちなみに、アルベロは知らない。父アルバンが領地の鉱山開発でアルベロの報酬を使ったこと、母サリーがブティック経営で使ったことなど。
アルベロは、追い打ちをかけるように言う。
「早めの返金をお願いしますよ。この話、ヨルハ王女は知ってますし、仮にも俺は男爵だ。貴族同士の金の貸し借りで戦争になったなんて話、いくらでもある」
「そ、そうだな。うん……ま、まさか、実の両親にそんなこと」
「そ、そうよ? 私たち、親子じゃ」
「親子ね……あんたら、俺のこと徹底的に無視してたくせに」
「「……」」
「ま、早めの返金をお願いしますよ」
そして、アルベロは右手を変化させる。
「戦争なんてしたくないし、ね」
「「っ……」」
軽く脅す。
さすがに戦争なんてするつもりはない。それに、金は返ってこなくてもよかった。
この両親は、アルベロの『功績』や『金』しか見ていない。今さら肉親の愛情なんて期待していないし、仮に求めてきたとしても受け入れるつもりは全く無い。
両親との話が終わると、エステリーゼが言う。
「もういいか?」
「ああ。で、模擬戦だよな」
「そうだ。S級召喚士と我々ピースメーカー部隊の模擬戦だ。来るべき魔帝との闘いに備え、実力の向上を目的とした」
「わかった、わかったって。とにかく、戦うんだよな」
「……そうだ」
アルベロは、長くなりそうなエステリーゼの話を止める。
ラシルドはピクピクと震え、フギルが苦笑。残りのA級召喚士たちはアルベロを睨む。
エステリーゼは、椅子に深く腰掛ける。
「ルールは簡単だ。アルベロ、お前と我々の代表者が」
「待った」
と、ここでアルベロは挙手。
エステリーゼの話が止まる。
そして……アルベロは告げた。
「模擬戦のルール、俺に決めさせてくれ」
「……なに?」
「ルールは簡単だ。ピースメーカー部隊全員でかかって来い。俺は一人で全員相手にする。もちろん、殺す気で来い」
全員が、呆気にとられた。
さらに続ける。
「いいか。くれぐれも手を抜くな。俺も本気でやる。徹底的に俺を追い込んでくれ」
「…………」
「それだけ。ああ、全員だぞ。部隊に所属してるの全員。確か、千人くらいいるよな?」
「…………」
「場所は……ここじゃ狭いし、外の平原にしよう。開始は明日の朝な。俺は平原で待ってるから、全員で殺しに来てくれ……じゃ、そういうことで」
それだけ言い、誰も反論する暇もなくアルベロは出ていった。
沈黙を破ったのは……ラシルドだった。
「ふざけるな!! あの野郎……何様のつもりだ!!」
至極、真っ当な怒りだった。
こうして、ピースメーカー部隊全員とアルベロの戦いが始まろうとしていた。
そして、冗談っぽくおどけてみせた。
「なんて、冗談だよ……いくら俺でも、こんな狭い室内で暴れるほど馬鹿じゃないって」
「…………座れ」
エステリーゼがソファを勧めたので座る。
ソファに座っていたのは、アルベロの両親。そして、エステリーゼの後ろにはA級召喚士が並んでいた。どこまでも偉そうな態度だと思いつつ、給仕が運んできたお茶を啜る。
すると、目の前に座っていた父アルバンが言う。
「アルベロ、その……最近どうだ?」
「どうだ、とは?」
「ああ、その……元気か?」
「ええ、まあ」
「そうか。うん……」
アルベロは、両親への興味を欠片も持っていない。
今さら話すこともない。なぜここにいるのかという疑問すら持たなかった。
すると、母サリーがポンと手を叩く。
「そう! あのね、実は今日、エステリーゼが特A級に昇格したお祝いをしに来たのよ。そして、簡易式だけど、爵位をエステリーゼに継承しようと思って……その、アルベロ、あなたもお祝いに」
「そんなことより、さっさと用事を済ませたいんですけど」
「……えっと」
サリーは言葉に詰まっていた。
あまりにも、アルベロは無関心だった。
かつて、自分たちがした仕打ちのように。会話するだけアルベロのがましだった。
せっかく両親が目の前にいるので、アルベロは聴いてみた。
「ああ、そういえば……俺の魔人討伐の報奨金、そっちに送られたはずですよね? 俺の領地運営で使うんで、寮に送っておいてください」
「「!?」」
両親は一気に汗を流す……アルベロは察した。
「もちろん知ってますよね? 金貨が山ほど詰まった樽がそっちに送られたはず。今はもういないけど、オズワルド先生が許可を出してラッシュアウト家に発送したはずだ」
「あ、ああ……そ、そうだった、かな」
「え、ええ……そう、ね」
「よかった。まさか使い込んだなんてことはないですよね? 俺が、命を賭けて、戦った、その、報酬、を! 使い込んだなんて」
「「…………」」
わざと強めに言うアルベロ。
領地経営で使うというのは思い付きだが、必要になる気がした。
テュポーンを討伐した報酬もあるが、金は多くあればいい。
ちなみに、アルベロは知らない。父アルバンが領地の鉱山開発でアルベロの報酬を使ったこと、母サリーがブティック経営で使ったことなど。
アルベロは、追い打ちをかけるように言う。
「早めの返金をお願いしますよ。この話、ヨルハ王女は知ってますし、仮にも俺は男爵だ。貴族同士の金の貸し借りで戦争になったなんて話、いくらでもある」
「そ、そうだな。うん……ま、まさか、実の両親にそんなこと」
「そ、そうよ? 私たち、親子じゃ」
「親子ね……あんたら、俺のこと徹底的に無視してたくせに」
「「……」」
「ま、早めの返金をお願いしますよ」
そして、アルベロは右手を変化させる。
「戦争なんてしたくないし、ね」
「「っ……」」
軽く脅す。
さすがに戦争なんてするつもりはない。それに、金は返ってこなくてもよかった。
この両親は、アルベロの『功績』や『金』しか見ていない。今さら肉親の愛情なんて期待していないし、仮に求めてきたとしても受け入れるつもりは全く無い。
両親との話が終わると、エステリーゼが言う。
「もういいか?」
「ああ。で、模擬戦だよな」
「そうだ。S級召喚士と我々ピースメーカー部隊の模擬戦だ。来るべき魔帝との闘いに備え、実力の向上を目的とした」
「わかった、わかったって。とにかく、戦うんだよな」
「……そうだ」
アルベロは、長くなりそうなエステリーゼの話を止める。
ラシルドはピクピクと震え、フギルが苦笑。残りのA級召喚士たちはアルベロを睨む。
エステリーゼは、椅子に深く腰掛ける。
「ルールは簡単だ。アルベロ、お前と我々の代表者が」
「待った」
と、ここでアルベロは挙手。
エステリーゼの話が止まる。
そして……アルベロは告げた。
「模擬戦のルール、俺に決めさせてくれ」
「……なに?」
「ルールは簡単だ。ピースメーカー部隊全員でかかって来い。俺は一人で全員相手にする。もちろん、殺す気で来い」
全員が、呆気にとられた。
さらに続ける。
「いいか。くれぐれも手を抜くな。俺も本気でやる。徹底的に俺を追い込んでくれ」
「…………」
「それだけ。ああ、全員だぞ。部隊に所属してるの全員。確か、千人くらいいるよな?」
「…………」
「場所は……ここじゃ狭いし、外の平原にしよう。開始は明日の朝な。俺は平原で待ってるから、全員で殺しに来てくれ……じゃ、そういうことで」
それだけ言い、誰も反論する暇もなくアルベロは出ていった。
沈黙を破ったのは……ラシルドだった。
「ふざけるな!! あの野郎……何様のつもりだ!!」
至極、真っ当な怒りだった。
こうして、ピースメーカー部隊全員とアルベロの戦いが始まろうとしていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,052
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる