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戦いの前
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時間は少し巻き戻る。
ヨルハは一人、生徒会室に向かい、数枚の書類を生徒会長エステリーゼの机に置く。
エステリーゼはそれを掴み、長め……眉をぴくっと上げた。
そして、ヨルハを見る。
「王女殿下。これはどういうことでしょうか?」
「そのままの意味よ。S級召喚士と生徒会の模擬戦内容について」
「……これには、四対一、三対一、三対一となっています。それに王子殿下もご参加なさると……?」
「止めたんですけどねー……はぁ、お兄様、あなたのために戦いたいそうです」
「…………」
エステリーゼはため息を吐いた。
ヨルハはそれを見逃さない。
「あれ? 嫌でした? ふむふむ、エステリーゼさんとお兄様はけっこういい雰囲気だって噂なんですけど、どうやら違ったみたいですねー」
「……そういうわけではありません。このような催し物に、王子殿下がご参加なさるなんて」
「あはは。まぁいいじゃないですか。お兄様、エステリーゼさんが大好きみたいですし、いいところを見せてポイント稼ごうとしてるみたいですよ?」
「…………」
「それと、気になるのはそこじゃないですよね?」
「ええ……三対十、ということですね?」
「そうです。正直、実力差を考えると十対一でもいいんですけど……さすがにそれじゃ取材の記者さんたちもつまらないでしょうし」
「…………我らが負けると?」
「はい♪」
ヨルハは迷いもせず断言した。
エステリーゼはヨルハが気に入らない。というか、敵意すら感じていた。
ヨルハは用が済んだとばかりに退室しようとする。その前に、エステリーゼに向かって言う。
「あの、S級召喚士に敵意とか持つの勝手ですけど、あなたたちじゃ絶対に勝てませんよ」
「……ほう、なぜでしょうか?」
ヨルハは、なんの感情も込めずに言う。
「だってあなたたち、何の成果も出してないじゃないですか」
「…………」
「S級召喚士はすでに三人の魔人を討伐しています。これだけでS級召喚士の強さは知ってもらえると思います。それに対してA級召喚士、いままで何かやりました? 魔獣討伐くらいですよね?」
「…………」
「ま、せっかくの機会なので。これを機にA級召喚士はS級召喚士への通過点だと国民に証明してみせましょう。いずれはS級召喚士がこの国最強の戦力として、これから生まれてくる子供たちの目標になればと考えてますので」
「王女殿下。あなたはA級召喚士でありながらS級召喚士を認めると?」
「当然じゃないですか。っていうかわたし、等級至上主義者じゃありませんし、AだのSだのどうでもいいと思ってます」
「…………」
「ま、不貞腐れたような状態で戦ってもらっても困るんで。あなたたちA級召喚士がS級に勝てば、どんな望みでもかなえてあげましょう。では」
そう言って、ヨルハは退室した。
残されたエステリーゼは、ヨルハが置いていった模擬戦の要項を握りつぶした。
◇◇◇◇◇◇
エステリーゼは生徒会役員を集め、オズワルドとサンバルトを呼び要項を確認する。
サンバルトは、ため息を吐いた。
「ヨルハ、いつの間にこんなものを……全く」
サンバルトは、妹ヨルハが模擬戦の計画を通したことを知らなかった。
『エステリーゼのために戦う』とは言ったが、まさか実の妹がこのように手をまわしていたとは。サンバルトは苦笑した。
「まぁいい。エステリーゼ、私も戦おう」
「……ありがとうございます」
たったこれだけでわかった。
サンバルトは、妹の動向すら掴めない無能だと。
だが、戦闘力だけは期待できる。
生徒会役員、そしてオズワルドにエステリーゼは言う。
「要項によると、生徒会十名、S級三名で戦うことになっている。相手は全員が『寄生型』だ。だが……この学園に入学して研鑽を積んできたお前たちが負けるとは思わない。それに、こちらにはサンバルトは殿下、オズワルド先生、そして私がいる……負けることはない」
早くもエステリーゼは自身の力を過信する。
だが、それを指摘する者は誰もいない。
「場所はB級演習場。会場の保護を『塔』のグレイ教授が、救護班に『死神』のリッパー医師が付く。本気を出しても問題ない」
最強の二十一人の召喚士が二人も付く。
グレイ教授は『守り』に特化した『王国最硬』の召喚獣『オリハルコン』を持ち、救護班にいるリッパー医師は『死神に嫌われた医師』という異名を持つ王国最高の医師だ。ただし治療に法外な値段を吹っ掛けるという話もある。
「決戦は三日後。報酬は……S級の廃止、は恐らく不可能だ。ならば国外追放処分……これしかない。みんな、勝利の報酬はこれでいいだろうか」
エステリーゼの問いに、誰も反対しない。
もはやS級を廃止するのは不可能。ならばこのアースガルズ王国から離れた僻地に飛ばす。
それがA級召喚士たちの決定だった。
「勝つぞ。そして……我々生徒会、そしてA級召喚士こそ最上だと認めさせるの」
エステリーゼは、かつてない気合で全員を見た。
ヨルハは一人、生徒会室に向かい、数枚の書類を生徒会長エステリーゼの机に置く。
エステリーゼはそれを掴み、長め……眉をぴくっと上げた。
そして、ヨルハを見る。
「王女殿下。これはどういうことでしょうか?」
「そのままの意味よ。S級召喚士と生徒会の模擬戦内容について」
「……これには、四対一、三対一、三対一となっています。それに王子殿下もご参加なさると……?」
「止めたんですけどねー……はぁ、お兄様、あなたのために戦いたいそうです」
「…………」
エステリーゼはため息を吐いた。
ヨルハはそれを見逃さない。
「あれ? 嫌でした? ふむふむ、エステリーゼさんとお兄様はけっこういい雰囲気だって噂なんですけど、どうやら違ったみたいですねー」
「……そういうわけではありません。このような催し物に、王子殿下がご参加なさるなんて」
「あはは。まぁいいじゃないですか。お兄様、エステリーゼさんが大好きみたいですし、いいところを見せてポイント稼ごうとしてるみたいですよ?」
「…………」
「それと、気になるのはそこじゃないですよね?」
「ええ……三対十、ということですね?」
「そうです。正直、実力差を考えると十対一でもいいんですけど……さすがにそれじゃ取材の記者さんたちもつまらないでしょうし」
「…………我らが負けると?」
「はい♪」
ヨルハは迷いもせず断言した。
エステリーゼはヨルハが気に入らない。というか、敵意すら感じていた。
ヨルハは用が済んだとばかりに退室しようとする。その前に、エステリーゼに向かって言う。
「あの、S級召喚士に敵意とか持つの勝手ですけど、あなたたちじゃ絶対に勝てませんよ」
「……ほう、なぜでしょうか?」
ヨルハは、なんの感情も込めずに言う。
「だってあなたたち、何の成果も出してないじゃないですか」
「…………」
「S級召喚士はすでに三人の魔人を討伐しています。これだけでS級召喚士の強さは知ってもらえると思います。それに対してA級召喚士、いままで何かやりました? 魔獣討伐くらいですよね?」
「…………」
「ま、せっかくの機会なので。これを機にA級召喚士はS級召喚士への通過点だと国民に証明してみせましょう。いずれはS級召喚士がこの国最強の戦力として、これから生まれてくる子供たちの目標になればと考えてますので」
「王女殿下。あなたはA級召喚士でありながらS級召喚士を認めると?」
「当然じゃないですか。っていうかわたし、等級至上主義者じゃありませんし、AだのSだのどうでもいいと思ってます」
「…………」
「ま、不貞腐れたような状態で戦ってもらっても困るんで。あなたたちA級召喚士がS級に勝てば、どんな望みでもかなえてあげましょう。では」
そう言って、ヨルハは退室した。
残されたエステリーゼは、ヨルハが置いていった模擬戦の要項を握りつぶした。
◇◇◇◇◇◇
エステリーゼは生徒会役員を集め、オズワルドとサンバルトを呼び要項を確認する。
サンバルトは、ため息を吐いた。
「ヨルハ、いつの間にこんなものを……全く」
サンバルトは、妹ヨルハが模擬戦の計画を通したことを知らなかった。
『エステリーゼのために戦う』とは言ったが、まさか実の妹がこのように手をまわしていたとは。サンバルトは苦笑した。
「まぁいい。エステリーゼ、私も戦おう」
「……ありがとうございます」
たったこれだけでわかった。
サンバルトは、妹の動向すら掴めない無能だと。
だが、戦闘力だけは期待できる。
生徒会役員、そしてオズワルドにエステリーゼは言う。
「要項によると、生徒会十名、S級三名で戦うことになっている。相手は全員が『寄生型』だ。だが……この学園に入学して研鑽を積んできたお前たちが負けるとは思わない。それに、こちらにはサンバルトは殿下、オズワルド先生、そして私がいる……負けることはない」
早くもエステリーゼは自身の力を過信する。
だが、それを指摘する者は誰もいない。
「場所はB級演習場。会場の保護を『塔』のグレイ教授が、救護班に『死神』のリッパー医師が付く。本気を出しても問題ない」
最強の二十一人の召喚士が二人も付く。
グレイ教授は『守り』に特化した『王国最硬』の召喚獣『オリハルコン』を持ち、救護班にいるリッパー医師は『死神に嫌われた医師』という異名を持つ王国最高の医師だ。ただし治療に法外な値段を吹っ掛けるという話もある。
「決戦は三日後。報酬は……S級の廃止、は恐らく不可能だ。ならば国外追放処分……これしかない。みんな、勝利の報酬はこれでいいだろうか」
エステリーゼの問いに、誰も反対しない。
もはやS級を廃止するのは不可能。ならばこのアースガルズ王国から離れた僻地に飛ばす。
それがA級召喚士たちの決定だった。
「勝つぞ。そして……我々生徒会、そしてA級召喚士こそ最上だと認めさせるの」
エステリーゼは、かつてない気合で全員を見た。
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