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91・魔銃と百足

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 ヤシャ城に踏み込んだ二人は、大量の『矢』の洗礼を浴びた。

「わたしの後ろへ!」
「助かる!」

 普段なら絶対に掛けない言葉をライトへ。ライトも素直に応じ、マリアに触れないように背中に回る。白く剥き出しの背中を突き破るように、四本の『百足鱗』が蜷局を巻いて盾になり、大量の矢を弾く。
 ライトはカドゥケウスを構えた。

「ッチ、うざってぇ!!」

 弓兵は、石垣の上から短い弓を構えてライトたちを狙っている。
 ライトたちの位置はヤシャ城の鉄扉のすぐ近く。マリアの『百足鱗』でガードはできるが、狙撃には向いていない。
 矢は、雨のように降り注ぐ。それだけじゃない、弦をきつく張った弓で射っているのか、かなりの速さで飛来する矢もあった。

「面倒ですわね……どうします?」
「全員、二度と弓が持てないようにしてやる」

 ライトの右目が赤く光る。
 カドゥケウスを構え、タイミングを見計らう。
 そして、マリアの『百足鱗』が矢の雨を弾くと同時にマリアの背から飛び出した。

「なっ」
「クイックシルバー」

 ギュウンと、ライトの世界が変わる。
 のんびりとした動きで、腰の矢筒に手を添える忍者たちが13人、石垣の上からライトたちを狙っている。視線を巡らせ、伏兵がいないかを確認する……ここまで二秒。
 
「強化、残しておけばよかった」

 そう呟き、石垣に向かって走る。距離は約50メートル……四秒。
 カドゥケウスを構え、左手でポケットの石を摑み、連続で引金を引く。
狙いは忍者の右手。箸を使うのもできないように、親指の付け根を狙い撃ち、指を弾き飛ばす……八秒。

「……伏兵なし、解除」

 ライトの体感時間で10秒、現実では1秒経過。忍者の絶叫が響き、弓兵たちは全滅した。
 一瞬で消えたライトにマリアは驚きつつ、50メートル先にいるライトの元へ。

「便利ですわね、その力」
「……そうでもない。全身がピキピキ悲鳴を上げてやがる。使いにくいっての」
「あら、そうですの? 大変ですわね」
「ノーリスクなお前が羨ましいぜ……」

 手を押さえ呻く忍者を無視し、ライトたちは先へ進む。
 まだ城の入口。もう、どんな言い訳も無理だろう。ヤシャ王国を完全に敵に回してしまったようだ。
 
「行くぞ」
「ええ」

 だが、この二人は止まらない。【暴食】と【色欲】は止まらない。

 ◇◇◇◇◇◇

 ライトとマリアはヤシャ城に踏み込んだ。ちなみにヤシャ城は土足厳禁だが、靴を脱いで上がるという文化を知らない二人は当然のように土足である。

「来たぞ、であえであえーっ!!」
「これ以上好きにはさせんぞ、この賊どもが!!」
「皆の者、かかれぇぇぇっ!!」

 忍者ではない、着物を着た男たちだ。手には刀を持っている。
 ライトは『鑑定』の祝福弾を自分に撃ちこみ確認するが……。

「剣士、剣士、剣士……ッチ、剣士しかいないのか、ここは」
「残念でしたわね。やはり、装備系ギフトはありふれてますわ」
「まぁいい。さっさと終わらせるぞ」
「ええ」

 彼らは忍者でなく『武士』だが、二人にとってはただの敵だ。
 ライトはカドゥケウスで手足を撃ち抜き、マリアは細くした『百足鱗』で薙ぎ払う。
 通路が狭いが、二人は互いの位置を入れ替えながら戦った。

「数が多い!!」

 振り下ろされる刀を躱し、武士の両手を撃ち抜くライト。

「仕方ありませんわ、これほどの騒ぎですし!!」

 刀を百足鱗で巻き取ってへし折り、首に巻き付けて意識をオトすマリア。
 いくら強くても、数で押せばどんな相手でもいつかは疲弊する。現に、マリアの息が少し上がってきた。でも、休む暇はない。

「はぁ、はぁ……全く、うっとおしい」
「おい、息切れしてるぞ」
「問題ありませんわ。シャルティナ、少し任せても?」
『ええ、休みなさい』
「へぇ……操作を任せられるのか」
『相棒、なんでオレを見るんだ?』

 ライトは近くに飾ってある花瓶を摑み装填。わらわらと群がってくる武士たちの手足を撃ち抜く。マリアも息を整え、戦闘に復帰した。
 キリがない状況に、さすがのライトも疲れてくる。

「ったく、マジでうっとおしいな!!」

 武士たちの手足を撃ち抜き続け、二階への階段……先への道が開かれた。
 ライトは迷わずそちらへ向かう。

「よし、行く────────「ライト!!」……っ!?」

 倒したはずの武士が一人、起き上がった。
マリアの声に反応したライトは瞬間的にバックステップ、横薙ぎの斬撃をギリギリで躱した。

「ちっ、勘のいいお嬢さんだ」
「なんだお前……」
「くく、拙者をここにいる下級武士と一緒にするなよ……拙者は《Rギフト》を持つ中級武士よ!」
「中級のくせに、寝転がってやられたふりしてたじゃねぇか」
「黙れ! それは作戦よ……行くぞ!」
「っち」

 ライトはカドゥケウスを構え、中級武士の手足に向けて発砲する……が。

「必殺、《分身ぶんしん》剣技!!」

 目の前の中級武士が、二人になった。
 弾丸は分身する前の中級武士に当たったが、中級武士の身体が煙のように揺らめいて消える。だが、もう一人の方は消えていない。

「なにっ!?」
「ふっははは!! これこそ我がRギフト《分身ダブル》の力!!」

 装填が間に合わず、ライトは剣をカドゥケウスで受ける。

「っぎぁ!? っぐぅぅっ!!」
「ホンリャァァァァァァッ!!」

 刀を受けたことにより、誓約の痛みがライトを襲う。
 中級武士はこれぞとばかりに刀でライトを押す。ライトが苦しんでる理由は知らないが、チャンスとばかりに。

「こ、んのっ!!」
「っむぐ!?」

 ライトは中級武士の腹を蹴り、距離を取る。
 息を吐き、手足をぶらぶらさせ、調子を取り戻し……言った。

「いいな、それ……欲しい」

 ライトは、左腕の袖をまくった。
 悪人ではないが、敵なら容赦しない。なるべく殺さないつもりだったが、あくまで「なるべく」だ。命の危険なら仕方ない。

「悪は滅する!! チェィィィィィストォォォォォッ!!」

 中級武士は、再び分身した。 
 この分身は、どちらも偽物だ。残った方が本物になる・・・・・・・・・・分身とでも言えばいいのか。なら、簡単だ。

「クイックシルバー」

 本日二回目。強力でリスクもあるが、このリスクは取る価値がある。
 のろ~っとした動きで迫る中級武士の頭に弾丸を撃ちこむと、分身がゆっくりと消えた。
 残った方が本物だろう、ライトは迷わず頭を撃ち抜くと、今度は頭に穴が空き、血がブシュッと噴き出す。
 
「カドゥケウス、リロード」
『あいあーい。ケケケケケケケケッ、悪いねぇ』

 ゆっくり倒れる中級武士の頭を摑むと、カドゥケウスは一瞬で食事を終えた。
 ライトの手には《分身ダブル》の祝福弾だけが残る。
 この間四秒、現実では一秒も経っていない。中級武士は消えたようにしか見えないはず。

「っぐ……いってぇ。二回目使っちまった……あと一回」

 痛む身体を押さえて確認する……どうやら、雑魚の掃除は終わったようだ。
 中級武士と戦っている間に、マリアが頑張ってくれたおかげだ。

「終わりました?」
「ああ。雑魚だった」
「では、上に参りましょう」

 血だらけの通路、呻く武士たち、それらを無視して土足で踏む込む男女……。
 ヤシャ城、いやヤシャ王国は、『魔銃王』の存在、そして『百足女王』の存在に恐怖することになる。
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