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閑話④/ド根性ドラゴン
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「ブッはぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「っぶっへぁぁぁぁぁ!!」」」」
ギルハドレットから遠く離れた海沿いの領地、アルステッド。
アルステッド漁港から遠く離れた海岸に、五人の魔族が現れた。
だが、様子がおかしい……五人とも疲労困憊。そして、最も目立つ女が言う。
「や、やった……やったわ!! あんたたち、人間界、人間界よ!!」
びしょ濡れの美女、七大魔将の一人『滅龍』カジャクトが、少女のように喜んだ。
だが、他の四人は真っ青になり、海岸にぶっ倒れる。
「ちょっと、誰が休んでいいって言った?」
「あ、姐さん……か、勘弁してください。マジで」
滅龍四天王の一人、『地竜』ラドンが真っ青のまま声を絞り出す。
たった今、人間界に到着した……それこそ、一ヶ月以上、不眠不休で、食事もとらず、荒れ狂う『大海嘯』を泳ぎ切ったのだ。
今の滅龍四天王なら、一個師団あれば壊滅可能……それくらい、四人は疲弊していた。
『毒竜』グイバー、『赤竜』ウェルシュ、『空竜』ジラントは会話すらできない。
カジャクトはつまらなそうに言う。
「ちょっと、テンション上げていきなさいよ。ようやく人間界に来たのよ? さ、ルプスレクスと、その使い手の痕跡を探すわよ」
「「「「…………」」」」
「……なにその目。やる気出ないの?」
四人を代表し、かろうじて会話可能なラドンが挙手。
「姐さん……オレら、マジで死にそうなんです。飯、睡眠を取って、体力と魔力回復させねぇと……下級魔族にすら負けちまいます」
「ん~……」
よく見ると、四人は骨と皮のような状態だ。
食事の代わりに自らの血肉を、睡眠の代わりに魔力を喰らって泳いでいたのだ。ぶっちゃけると死にかけている。
カジャクトはため息を吐いた。
「わーったわよ。とりあえず、あそこに港町見えるから、そこで休むわよ」
「姐さん……あざーっす!!」
「ラドン、お金ある?」
「かね? 金って……人間の通貨、ですかい?」
「他に何あんのよ。そもそも、魔界の通貨なんて持ってないでしょ。『滅龍』では金なんて使わないんだし」
「そ、それを言うなら……その、人間の金もないんですけど」
「あの~……カジャクト姐さん、なんでお金?」
と、少しだけ会話できるようになった少年、『空竜』ジラントが挙手。
「金なんてなくても、あの町の人間食って回復すりゃいいじゃん」
「ダメダメ。わかってないわね……いい? 人間は確かに弱いけど、文化や生活水準は魔族よりも遥かに上。知ってる? 人間の『調理』って技術……あれは食事のレベルを数段引き上げる恐ろしい技よ。生で喰らうか、炎で焼くしかない私たちには、絶対に到達できない能力……」
「「「「……ごくり」」」」
ちなみにこの五人、食事は生で食うか焼くかだけ。
「恐怖で支配するより、こっちが順応すべきね。ってわけで、お金」
「いやあの、だからない……」
「じゃあどーすんのよ!!」
「ひぃぃ!?」
キレるカジャクトは、ラドンの胸倉を掴んで揺らす。
すると、『毒竜』グイバーが挙手。
「姐さん、昔小耳に挟んだことあるんスけど……人間は魔獣狩って、肉とか骨とかを加工して使うって聞いたことあります」
「肉とか骨?」
「ええ。ってことはつまり、魔獣の素材は売れる。とりあえず……」
グイバーは、自分の頭に一本だけツノを生やし、何の躊躇いもなく掴んでへし折った。
「これ、売れるか確かめてみません? 下級レベルの雑魚魔獣素材より、オレのツノのが高く売れる……と、思うっす」
「いい案ね。よーし、全員これより、人間に擬態すること。ツノとか尻尾とか出さないように」
「「「「はい」」」」
こうして、『滅龍』カジャクトと『滅龍四天王』の四人は、アルステッド領地にあるクフの港町へ向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇
めちゃくちゃ高値で売れた。
とりあえず、町で一番高い宿屋を貸し切った。
カジャクトはご満悦で、宿屋の高級椅子に座ってワインを飲んでいた。
「さー飲んで飲んで。グイバー、あんたのおかげよ!!」
「いやあ……へへっ」
「むぅ……あたしのツノだって高く売れるし」
少しむくれているウェルシュは、赤ワインをガブガブ飲む。
食事をすることで血肉と魔力を回復させているのだが。
「うっま……」
『空竜』ジラントは、すでに二十人前ほどのステーキを完食していた。
部屋の外にいる使用人に「おかわり、大盛ね」と言うと、白ワインを飲む。
「カジャクト姐さんの言う通りだ。人間のメシ、うまいわ。ね、ラドン」
「うむ。普通に肉をかじるより、含まれている魔力が多い……しばらくここで養生しよう」
「ワインおかわり!!」
カジャクトが使用人にワインボトルを投げ渡す。
そして、ラドンたちに聞いた。
「あんたら、回復にどれくらいかかる?」
「え、えっと……一ヶ月、くらい」
ラドンは四人と顔を合わせ、カジャクトの機嫌を伺うようにボソッと言う。
すると、おかわりの赤ワインをがぶ飲みしながら「ふーん」と呟いた。
「ま、いいわ。ルプスレクスとその使い手……ラスティスは、そのあとね」
「い、いいんですかい?」
「一ヶ月でしょ。飯も酒も美味いし、それくらい待つわ。このワイン飲んだら気が変わったわ……美味しいもの、堪能しましょ」
上機嫌のまま、カジャクトは赤ワインを楽しむ。
「それに……私はラスティスと戦うけど、そこそこ戦えそうな連中もけっこういるわ。そいつらの相手はあんたらに任せることになると思うし、万全の状態でいかないとね」
「「「「…………」」」」
四人の顔付が代わる……魔界最強の戦闘種族である『竜』の血が騒ぎ出す。
「さ、今日はとことん飲むわよ。ふふふ……滾ってきたわ」
こうして、七大魔将最強『滅龍』カジャクトとその配下である『滅龍四天王』が、人間界に上陸した。
「「「「っぶっへぁぁぁぁぁ!!」」」」
ギルハドレットから遠く離れた海沿いの領地、アルステッド。
アルステッド漁港から遠く離れた海岸に、五人の魔族が現れた。
だが、様子がおかしい……五人とも疲労困憊。そして、最も目立つ女が言う。
「や、やった……やったわ!! あんたたち、人間界、人間界よ!!」
びしょ濡れの美女、七大魔将の一人『滅龍』カジャクトが、少女のように喜んだ。
だが、他の四人は真っ青になり、海岸にぶっ倒れる。
「ちょっと、誰が休んでいいって言った?」
「あ、姐さん……か、勘弁してください。マジで」
滅龍四天王の一人、『地竜』ラドンが真っ青のまま声を絞り出す。
たった今、人間界に到着した……それこそ、一ヶ月以上、不眠不休で、食事もとらず、荒れ狂う『大海嘯』を泳ぎ切ったのだ。
今の滅龍四天王なら、一個師団あれば壊滅可能……それくらい、四人は疲弊していた。
『毒竜』グイバー、『赤竜』ウェルシュ、『空竜』ジラントは会話すらできない。
カジャクトはつまらなそうに言う。
「ちょっと、テンション上げていきなさいよ。ようやく人間界に来たのよ? さ、ルプスレクスと、その使い手の痕跡を探すわよ」
「「「「…………」」」」
「……なにその目。やる気出ないの?」
四人を代表し、かろうじて会話可能なラドンが挙手。
「姐さん……オレら、マジで死にそうなんです。飯、睡眠を取って、体力と魔力回復させねぇと……下級魔族にすら負けちまいます」
「ん~……」
よく見ると、四人は骨と皮のような状態だ。
食事の代わりに自らの血肉を、睡眠の代わりに魔力を喰らって泳いでいたのだ。ぶっちゃけると死にかけている。
カジャクトはため息を吐いた。
「わーったわよ。とりあえず、あそこに港町見えるから、そこで休むわよ」
「姐さん……あざーっす!!」
「ラドン、お金ある?」
「かね? 金って……人間の通貨、ですかい?」
「他に何あんのよ。そもそも、魔界の通貨なんて持ってないでしょ。『滅龍』では金なんて使わないんだし」
「そ、それを言うなら……その、人間の金もないんですけど」
「あの~……カジャクト姐さん、なんでお金?」
と、少しだけ会話できるようになった少年、『空竜』ジラントが挙手。
「金なんてなくても、あの町の人間食って回復すりゃいいじゃん」
「ダメダメ。わかってないわね……いい? 人間は確かに弱いけど、文化や生活水準は魔族よりも遥かに上。知ってる? 人間の『調理』って技術……あれは食事のレベルを数段引き上げる恐ろしい技よ。生で喰らうか、炎で焼くしかない私たちには、絶対に到達できない能力……」
「「「「……ごくり」」」」
ちなみにこの五人、食事は生で食うか焼くかだけ。
「恐怖で支配するより、こっちが順応すべきね。ってわけで、お金」
「いやあの、だからない……」
「じゃあどーすんのよ!!」
「ひぃぃ!?」
キレるカジャクトは、ラドンの胸倉を掴んで揺らす。
すると、『毒竜』グイバーが挙手。
「姐さん、昔小耳に挟んだことあるんスけど……人間は魔獣狩って、肉とか骨とかを加工して使うって聞いたことあります」
「肉とか骨?」
「ええ。ってことはつまり、魔獣の素材は売れる。とりあえず……」
グイバーは、自分の頭に一本だけツノを生やし、何の躊躇いもなく掴んでへし折った。
「これ、売れるか確かめてみません? 下級レベルの雑魚魔獣素材より、オレのツノのが高く売れる……と、思うっす」
「いい案ね。よーし、全員これより、人間に擬態すること。ツノとか尻尾とか出さないように」
「「「「はい」」」」
こうして、『滅龍』カジャクトと『滅龍四天王』の四人は、アルステッド領地にあるクフの港町へ向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇
めちゃくちゃ高値で売れた。
とりあえず、町で一番高い宿屋を貸し切った。
カジャクトはご満悦で、宿屋の高級椅子に座ってワインを飲んでいた。
「さー飲んで飲んで。グイバー、あんたのおかげよ!!」
「いやあ……へへっ」
「むぅ……あたしのツノだって高く売れるし」
少しむくれているウェルシュは、赤ワインをガブガブ飲む。
食事をすることで血肉と魔力を回復させているのだが。
「うっま……」
『空竜』ジラントは、すでに二十人前ほどのステーキを完食していた。
部屋の外にいる使用人に「おかわり、大盛ね」と言うと、白ワインを飲む。
「カジャクト姐さんの言う通りだ。人間のメシ、うまいわ。ね、ラドン」
「うむ。普通に肉をかじるより、含まれている魔力が多い……しばらくここで養生しよう」
「ワインおかわり!!」
カジャクトが使用人にワインボトルを投げ渡す。
そして、ラドンたちに聞いた。
「あんたら、回復にどれくらいかかる?」
「え、えっと……一ヶ月、くらい」
ラドンは四人と顔を合わせ、カジャクトの機嫌を伺うようにボソッと言う。
すると、おかわりの赤ワインをがぶ飲みしながら「ふーん」と呟いた。
「ま、いいわ。ルプスレクスとその使い手……ラスティスは、そのあとね」
「い、いいんですかい?」
「一ヶ月でしょ。飯も酒も美味いし、それくらい待つわ。このワイン飲んだら気が変わったわ……美味しいもの、堪能しましょ」
上機嫌のまま、カジャクトは赤ワインを楽しむ。
「それに……私はラスティスと戦うけど、そこそこ戦えそうな連中もけっこういるわ。そいつらの相手はあんたらに任せることになると思うし、万全の状態でいかないとね」
「「「「…………」」」」
四人の顔付が代わる……魔界最強の戦闘種族である『竜』の血が騒ぎ出す。
「さ、今日はとことん飲むわよ。ふふふ……滾ってきたわ」
こうして、七大魔将最強『滅龍』カジャクトとその配下である『滅龍四天王』が、人間界に上陸した。
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