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戦い、終わり

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 二人を倒すと、『理想領域ユートピア』が消滅……山の中に戻った。
 とりあえず、上級魔族の脅威は去ったと考えていいだろう。

「よし、おわ「師匠ォォォォォォッ!!」おっぶぁ!?」

 サティが激突してきた。
 思わず仰向けに倒れてしまう。

「師匠!! うぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「お、おい……いろいろ見えてるぞ」
「え、あ。きゃぁ!?」
「きゃあ、じゃない……どいてくれ」

 サティは手ぬぐいを腰と胸に巻くという、風呂へ入るようなスタイルだ。
 俺に抱き着いたことで胸の覆いが外れ、モロに見えている。
 すると、フルーレとエミネムが来た。

「全く、落ち着きなさい。ほら、サティ」
「あうぅ……」
「ラスティス様、お疲れ様でした」
「ああ。あー……終わった。でも、帰ったらやること山積みだぜ……」

 すると、フルーレが言う。

「あなた。本当に強いわね……あなたに勝負を挑んだ時の自分をブン殴ってやりたいわ」
「はっはっは。若さだ若さ。さて……ここから帰るけど、お前ら大丈夫か?」
「ええ。打ち身くらいね……」
「あ!! 師匠、あたし、新しい技を思いついたんです。雷を利用して、こう……磁力を」
「いや、あとにしてくれ……疲れた」
「ふふ、ラスティス様らしくなりましたね」

 と、ここでサティがエミネムを見る。

「あの、ところで……どなたですか?」
「あ、申し遅れました。私はアルムート王国聖騎士団、第一部隊長エミネム・グレムギルツです」
「き、騎士団ですか?」
「グレムギルツ? あなた、もしかして……団長の?」
「はい。娘です」
「ムムム……あなたも、師匠の弟子に?」
「え、まあ、弟子もいいですけど……」

 と、エミネムが俺をチラチラ見る。
 よくわからんが、とにかく帰るか……いやほんと、疲れたわ。

 ◇◇◇◇◇◇

 途中の村で服を適当に買い、俺たちはハドの村に戻ってきた。
 すると、全身包帯を巻いた門兵ルアド、狩人のドマが武器を構える。

「……なんだ、ラスか」
「ビビらせんなよ……」
「お前ら元気そうで安心したが、それヒドくね?」
 
 馬から降りる。ちなみにサティは俺と、フルーレはエミネムと二人乗り。シャロは起きないので、俺の胸元で紐で縛って固定している。
 俺はルアドに言う。

「怪我、平気か?」
「問題ない。ま、上級魔族相手に生きてるのが奇跡ってモンだ。腕失ったギルガに比べたら、カスみてえなモンよ」
「……そうか。ま、落ち着いたら美味い酒でも飲もうぜ。俺のおごりだ」
「いいね。っと……それより、怪我の手当てした連中が、さっそく復興のためにアレコレ始めてる。と……旅人の兄ちゃんが、いろいろ協力してくれてる」
「……旅人の兄ちゃん?」
「知らん。いきなり現れて、ギルガとアレコレ喋ってるぞ」
「……とりあえず行くわ。っと、お前らあんまり無理すんなよ」

 そう言い、ギルガたちのいる領主邸へ。
 俺の屋敷、瓦礫の山になっちまった……近づくと、テントが張られており、そこでギルガとミレイユ、青年二人……そして、フローネとホッジが何か話している。
 ギルガが俺に気づき、眼を見開いた。

「ラス!!」
「おーう。ただいま戻ったぜー、ほれミレイユ、シャロは無事だ」
「ああ、シャロ!!」

 ミレイユが駆け寄り、シャロを渡すと抱きしめる。
 すると、ようやくここでシャロが起きた。

「ん~……ママ?」
「シャロ、ああ……よかった」
「…‥よかった」
 
 ギルガも男泣きしてる。なんとなく微笑ましい気持ちになっていると。

「……に、兄さん?」
「あれ? エミネム? なんでここに?」

 兄さん? と思って視線をエミネムに向けると……旅人の男性を見て驚いていた。
 眼鏡をかけたイケメン。そして護衛の騎士っぽい男性だ。
 エミネムを見て首を傾げ、俺を見てこっちに来た。

「これはこれは初めまして。ギルハドレット男爵」
「あ、はい。どうも……?」
「申し遅れました。私はケイン・グレムギルツ。グレムギルツ公爵代理です」
「……え」

 公爵代理……グレムギルツ公爵? つまり……だ、団長の息子!?
 いやいや、なんで団長の息子がここに?

「えーと」
「私がここにいる理由は、あなたに会いに来たからです。ギルハドレットの町でお待ちしていたのですが、ハドの村が壊滅しているのを見まして……こうして名乗り、復興の手助けを」
「あ、ああ……どうも」

 頭が回らん。俺、ついさっきまで上級魔族と戦ってたんだが……なんか戦うより疲れるな。
 すると、今度はフローネとホッジ。

「ラス、お疲れのところ悪いけど、やること、話すこと山ほどあるわよ!! グレムギルツ公爵代理がいろいろ協力してくれるって。それと」
「ま、待てマテ。俺、さっきまで上級魔族と戦ってたんだぞ」
「どうせ無傷でしょ。はい仕事仕事。ギルガなんて片腕無くして、貧血でフラフラしながら頑張ってたんんだから!! シャロも戻って来たし、休ませてやりなさい!!」
「は、はい……おいホッジ、お前の奥さん何とかしろ」
「いやぁ、ボクに止められると思う?」
「無理だな」
「ほら仕事!!」
「「は、はい!!」」

 こうして俺は、戦い終わってすぐに次の仕事に取りかかるのだった……休みたい。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ラスティスが泣きながら『頼む!! 風呂、風呂を修理させてくれ!!』と叫ぶので、屋敷の風呂を使えるように修理し、周囲をテントで覆って目隠しを作った。 
 現在、サティ、フルーレ、エミネムの三人は入浴中。
 当のラスは、風呂が治るなりフローネに連れていかれた。

『フローネ!! お前名前に『風呂』って入ってるくせに!! 酷い野郎だ!!』
『うっさい!! ほら仕事!!』

 少し離れた場所で、ラスがわめいているのが聞こえてきた。
 サティは苦笑する。

「師匠、本当にお風呂好きなんだから……」
「あの……」

 と、エミネムがサティを見る。
 
「ラスティス様のお弟子さん、なんですよね」
「はい!! 一番弟子のサティです!!」
「……いいな」
「え?」
「あ、いえ……その、いろいろと大変でしたね」
「まぁ、はい……」

 サティはお湯を掬い、顔をジャブジャブ洗う。
 フルーレは身体を洗い終え、浴槽に入ってきた。

「はぁ……今日は散々だったわ。上級魔族には歯が立たないし、ラスティスの強さを見て自信なくなりそう……」
「フルーレさん……」
「っと、その前に。サティ、ありがとうね」
「へ?」
「私を、守ろうとしてくれた。それにあなたも」
「わ、私は……その」
「七大剣聖の名前。私には早いみたいね……おじいちゃんよりも強いとか言われてるけど、まだ訓練で一本取っただけだし」
「「…………」」
「私も、ラスティスに弟子入りしようかしら」

 そう言いながら、フルーレは腕を伸ばして肌に触れる。
 エミネムは、自分の胸に触れながら言う。

「私も……中級魔族と戦いました。でも、私の攻撃なんて通じなかった」

 ちゃぷ、と……手でお湯を掬う。

「弱いです。『神スキル』を持ってても、槍を鍛えても……弱い、弱すぎる」
「「…………」」
「私も……ラスティス様みたいに、強くなりたいです」

 顔が赤いのは、それだけではないような……そんな感情が混ざっているような気がしたサティ、フルーレ。
 サティはザバッと湯舟から上がると、形のいい、大きな胸が揺れた。

「じゃあ!! みんなで師匠に学びましょう!!」
「「え?」」
「えへへ……なんだかうれしいんです。私、フルーレさん、そしてエミネムさん。みんな、師匠のことが大好きになったんですね。私たち、同士です!!」
「はあ? 大好き、って……」
「だだだ、大好き、大好き……わ、私が、ラスティス様をををを?」

 フルーレは呆れ、エミネムは真っ赤になっていた。
 サティは手を差し出す。

「皆さん、もっともっと、強くなりましょう!!」

 フルーレはため息を吐き、立ち上がり……サティの手に自分の手を重ねた。

「まぁ、大好きってことは否定するけど……強くなるのは賛成」

 そして、エミネムも立ち上がる。

「……強くなります。そして、ラスティス様の隣に立てるような……そんな騎士に」

 手を重ね、三人は互いに誓う。

「ここに、『裸の誓い』を!!」
「は? 嫌よ、そんな誓い」
「わ、私もちょっと……確かに、裸ですけど」
「じゃあ、『女三人、友情の誓い』で!!」

 サティ、フルーレ、エミネム。 
 三人の少女たちは、新たな決意を胸にするのだった。
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