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脇役剣聖、領主のおしごと

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 さて、俺は現在、サティを連れて執務室で書類を書いていた。
 内容は、領内の収穫物のアレコレや、アルムート王国に支払う税計算、ギルハドレット領地の街道開拓の資金捻出とか、森の開拓云々……まぁ、クソめんどくさい。
 俺の執務室にもう一個机を置き、サティにも整理を手伝ってもらう。

「あの、師匠……あたし、こういうの苦手で」
「安心しろ。俺も苦手だ……でも、やらねぇといけねーのよ。俺、領主だし、男爵だし」
「……七大剣聖なのに、こういうお仕事を?」
「ああ。他の剣聖もやってるぞ。お前、ランスロットがこういう仕事してるの、見たことないのか?」
「えっと……ないです。会うのは訓練場だけだったので。ヴァルファーレ公爵様は、訓練や騎士団の仕事以外で、あたしたちみたいな娘に会うこと、なかったと思います……イフリータくらいかな、別件でも呼び出されていたのは」

 イフリータね……ランスロットの娘だっけか。
 あいつ、結婚してなかった気がするけど……娘だけで四十人以上とか、何考えてんだか。
 ま、しばらく王都に行くことはないし、どうでもいいか。

「あの、師匠……師匠のこと、教えてくれませんか?」
「あ? 俺?」
「はい。七大剣聖『神眼』のラスティス。七大剣聖でも古株で、『冥狼侵攻』の際に大活躍した剣聖ってことは知ってます」
「……あー」
「十四年前。魔界領地を治めていた『冥狼ルプスレクス』が、軍勢を率いて人間界に侵攻……当時十六歳だった師匠が、ルプスレクスと一騎打ち。最後はヴァルファーレ公爵が戦い、とどめを刺したって話ですけど……」
「……間違っちゃいねぇな」
「師匠はルプスレクスに負けて、ヴァルファーレ公爵様が一騎打ちで倒した、っていうのが王国では伝わっています。でも……真実はどうなんですか?」
「…………」
「あたし、どうもそれが真実とは思えないんです。どうしてヴァルファーレ公爵様は……ルプスレクスの頭部はく製、毛皮を前にして、あんな顔をしていたのか……」
「…………サティ」
「は、はい」

 俺はサティの机に、追加の書類を置いた。

「これ、計算チェック頼むわ」
「え」
「俺、ちょっと煙草吸ってくる」
「ええぇ!?」

 俺は外に出て、煙草を吸おうとポケットに手を入れ……思い出す。

「あー……そういや、禁煙したんだっけ」

 もう、何年も前の話だけどな……禁煙。
 俺は屋敷の壁に寄りかかり、つい持ってきた愛剣を手に取る。

「……ルプスレクス、か」

 七大魔将の一人、『冥狼』ルプスレクス……俺の愛剣は、あいつの牙から作った剣だ。
 今となっては、懐かしい。
 なんとなく空を見上げていると、ギルガがやってきた。

「何を黄昏ている」
「別に、休憩さ」
「……お前に手紙だ。宛名はボーマンダ団長だぞ」
「……げっ」

 団長かよ……めんどくさいことじゃないといいけど。
 そう思い、受け取って封を開け、手紙を読む。
 
「あー……上級魔族か」
「なに?」
「魔界領地と人間界の境界で、上級魔族が確認されたらしい。七大剣聖は備えておけ、だとさ」
「……上級魔族」
「上級魔族なんて、ルプスレクス侵攻の時が最後だったな……お前も戦った経験、あるだろ?」
「ああ。あれはヒトに相手できる存在ではない。スキルなしの騎士では時間稼ぎがせいぜい、部隊長クラスでようやく戦いになるレベル……」
「まぁ、こんな田舎には来ないだろ」
「……だといいがな」

 俺は手紙をギルガに押しつける。

「ラス。午後はオレが仕事を変わる……あの子を鍛えてやれ」
「お、なんだどうした?」
「……ミレイユが、あの子を気に入ってな。ソニヤの遊び相手も欲しがっていたし、長く滞在してもらうために、お前にやる気を出させろと」
「……あいつ、行き場ないからここにいると思うぞ。ソニヤってお前の娘か? 遊び相手ほしいのかよ」
「まぁ、そういうことだ。鍛えるなら、できることをやれ。それにもしかしたら、力を使いこなして、お前の代わりに七大剣聖になるかもな」
「───……」

 その言葉は、ストンと俺の中に落ちた。

「ん、おいラス、どうした?」
「───……それだ」
「は?」
「それだ!! さっすがギルガ!! それは思いつかなかったぜ!! うおおありがとよ!!」
「な、なんだいきなり……」

 俺はギルガの手を取り、ブンブン振る。
 そうだ。サティに任せればいいじゃん!!

「サティを鍛えて『七大剣聖』にする。いいじゃん!! そうだ、俺の後継ってことにすれば、すんなり剣聖の座をやれるじゃん!! エドワド爺さんだって、孫に剣聖の座を譲ったし!! サティに剣聖の座を譲れば、俺は隠居できる!! この地での~んびりできる!! やりたかった農業も本格的にできるし!! でっかい『露天風呂』を作れるし!! うおおおお!! すっげえやる気出てきたあああ!!」
「…………」
「そうと決まれば───昼飯食ったらサティを鍛えるぞ!! よっしゃー!!」

 俺、天才かも!! 
 七大剣聖じゃなくなっても、爵位は残るから領主って立場は消えない。でも……めんどくさい王都からの呼び出しとかに、行かなくて済む!!
 くくく……これはチャンス。サティを鍛えて鍛えて鍛えまくってやるぜ!!

 ◇◇◇◇◇◇

 一方、サティは。

「……ん?」

 何というか、不思議な悪寒がして、身体を震わせた。
 どこかのだれかが、不純な理由でサティを利用しようとしているような……そんな気がした。
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