聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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魔界貴族伯爵『剛腕』のヴァオー

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 魔界貴族伯爵『剛腕』のヴァオー。
 元は、トリステッツァの配下であり、ネルガルの『疫病』から逃れるため、バビスチェの元へ寝返った魔界貴族。
 バビスチェは、ヴァオーに『お願い』した。

「ね、ヴァオーくん……ちょっと、トラビア王国を襲撃してくれない?」

 甘い言葉に酔ってしまい、二つ返事で承諾した。 
 襲う場所は、聖剣レジェンディア学園。
 大勢の聖剣士がいる施設。そして、七聖剣士たちが通う学園。
 本来なら、『トリステッツァを滅ぼした聖剣士のいる学園』を襲うなんて、馬鹿な真似は考えもしない……だが、なぜかヴァオーは、バビスチェに逆らえなかった。
 魔法で姿を隠蔽して潜入。若い聖剣士が多くいるショッピングモールで姿を現し、その『剛腕』で喫茶店の壁を破壊した。

「ウォォォォォォォ!! さぁ、聖剣士たち!! かかってこい!!」

 なぜ、こんなことを言っているのだ?
 ヴァオーは自分で自分が理解できなかった。
 だが、なぜか逆らえなかった。

「ゲホゲホッ……なんだ、こいつ!?」
「オルカ、無事か!! ユイカ!!」
「うっげぇ……ジュース、髪に付いたぁ」

 ロイ、オルカ、ユイカの三人は無事だった。
 ロイの言葉に反応し、すぐに席から離れたおかげで、ヴァオーの拳を回避できた。
 オルカ、ユイカは聖剣を構える。周りにいた聖剣士たちも、剣を構えた。
 ヴァオーからすれば敵地のど真ん中。まともな思考回路を持つ魔界貴族なら、こんな聖剣士の本拠地のようなところで暴れたりはしない。
 だが、なぜか逆らえなかった。

「オルカ、ユイカ!! 俺たちには荷が重い……上級生に任せて下がるぞ!!」
「あ、ああ」
「わ、わかった!!」

 オルカとユイカはジリジリ下がり、喫茶店から逃げ出した。
 ロイも、二人の背後を走り───横っ飛びして物陰へ。

「『黒装トランス』」

 『狩人形態ハンターフォーム』へ変身し、近くの喫茶店の屋根へ。

「デスゲイズ」
『……ただの伯爵級だな。だが、気を付けろ。嫌な予感がする』
「ああ」

 すると、三年生が三人、前に出た。
 ロイには見覚えがあった。

「確か、クリスベノワのダンジョンにいた……」

 年齢制限のあるダンジョンで、エレノアたちと一緒に入った三年生聖剣士だ。
 
「確か、キキリア先輩、ムートン先輩、オショウ先輩だっけ」

 三人が聖剣を構え、ヴァオーと戦っている。
 三年生だけあり、動きに無駄がない。
 実戦経験も豊富なのか、ヴァオーの動きに対応し、剣を振るっていた。
 ヴァオーはパワータイプ。キキリアのカウンターによる斬撃が決まり、ムートンが両足を斬りつけ、オショウが風魔法で攻撃する。

「よし、俺も」

 ロイは通常の、ミスリルの鏃を三本抜いて一本を番えた。

「キキリア!!」
「しまっ」

 ヴァオーの拳が、キキリアの顔面を殴りつけようとした瞬間、腕にミスリルの矢が突き刺さった。

「ぬぐぁぁぁ!?」

 さらに、首と肩に一本ずつ矢が刺さり、ヴァオーの動きが止まる。

『今だ!!』
「「「!!」」」

 キキリア、ムートン、オショウの三人が同時攻撃。
 ヴァオーの心臓にキキリアの剣が突き刺さり、ヴァオーの身体が青く燃えた。
 そして、ヴァオーは灰すら残らず、完全に消滅。

「やった!!」
「ふぅ……疲れた」
「南無……」

 キキリア、ムートン、オショウは勝利を喜ぶ。
 オショウが八咫烏の声が聞こえた方を見たが、すでに誰もいなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

「ふぅ……」

 物陰に移動し、ロイは力を抜いた。

「あいつ、なんだったんだ。こんな……魔族にとって、敵地のど真ん中で」
『…………まさか』
「ん、デスゲイズ。どうした?」
『……いや』
「ま、とりあえず。今はオルカたちに合りゅ

 ロイが変身を解こうとした瞬間、首筋に冷たい何かが触れた。

「『ドリムキッス』」

 チュッ……と、首筋に触れたのは、唇。
 ロイは反応できなかかった。
 全く、気配がなかったのである。

「ッ!?」

 ガバッと身を捻るが、もう誰もいなかった。
 気のせい? そんな風に思えないほど、生々しい唇の感触が残っている。
 首筋を押さえ、さするが……傷ができたり、痣が残るようなものはない。

「…………」

 呼吸を押さえ、周りの気配を感知する。
 建物の裏にいるロイ。表には先程の魔界貴族の騒ぎ。足音や呼吸音が多数。さすがのロイでも、今の気配を探るのは不可能だった。

「…………今の」
『我輩も感じた。何だ、今のは……?』
「お前でも感知できなかったのか?」
『……ああ』
「……ここを離れる。見通しのいい場所を確認してから変身を解くぞ」

 ロイは、急ぎその場を離れた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイがいた建物の裏。
 その建物の中に、二人の女がいた。
 一人は、桃色のショートヘアで尻尾が生えた『夢魔』のスキュバ。もう一人は真っ白なロングヘアで紅茶のカップを傾ける『凍鳴』のエルサだ。
 エルサは、スキュバに言う。

「仕込みは?」
「かんぺき~」

 スキュバは、クッキーをコリコリ食べながら言う。

「八咫烏。子供だったねぇ。それに、すっごい弓だった」
「不思議な聖剣……いえ、剣ではなかったわね。聖剣鍛冶師が気まぐれで作った珍品かしら」
「かもね。でも、もうおしまい。あたしの『ドリムキッス』を受けた以上、もうあの子は《夢》から逃れられない。あとは……」
「ええ。双子の仕事ね」

 エルサはカップをソーサーに戻し、ニヤリと笑った。

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイは、王都郊外に出て、街道から外れた小さな岩場まで来た。
 周囲を探り、ようやく変身を解く。

「ふぅ……たぶん、大丈夫」
『多分ではまずいぞ』
「じゃあ絶対」

 岩場から出て、街道を歩いて王都へ戻る。
 さすがに、一度来た道を歩いて戻るのはかなり面倒だった。
 そんなロイを、数キロ離れた藪の中から、全く同じ顔をした少女二人が見ていた。

「見た? タイガ」
「見た見た。シェンフー」
「いける? タイガ」
「楽勝っ!」

 魔界貴族侯爵『姉虎』のタイガ。
 ぺろりと舌を出すと、その身体がブレていく。
 細かく振動するタイガ。すると、その身体が変わっていく。
 黒い髪、赤い瞳を持つ少年の姿に。
 その姿は、誰がどう見てもロイだった。

「ふぅ……こんな感じか」
「そっくり。タイガ!」
「そっくりというか、同じだよ」

 偽ロイことタイガは、ロイと同じ動きで肩をすくめた。
 タイガの能力『虎代打タイガーダイダ』は、視認したモノに姿を変えることができる。視認した相手の動き、喋り方、仕草などを完璧にコピーすることができるのだ。
 さらに、持ち物や『能力』などもコピーできる。

「こいつ、すごいよ」

 偽ロイの手には……黒い弓があった。
 矢筒を魔力で作り、矢を番えて射ると、近くの岩に当たる。

「とんでもない視力。そして身体。今までコピーした中で一番かも」
「わお」

 タイガ、シェンフーの二人は顔を見合わせて笑った。
 そして、ロイが去った方向を見て、シェンフーが言う。

「八咫烏。楽しもうね」
「きっと、面白いよ」

 ついに、『愛の魔王』バビスチェの手番が、本格的に始まった。
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