聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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魔界貴族侯爵『夢魔』のスキュバ①/夢か現か

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『ね、ロイ』
「……ん? ユノか?」
『うん。起きて』
「あ、ああ」

 妙にダルい身体を起こし、ロイは起きた。
 場所は自室。ベッド際にいるのはユノ。

『ほら、起きなさいよ』
「エレノア? お前たち、ここ男子寮だぞ……う、いてて」
『クビ、いたいの?』
「ああ……なんか、チクチクする」

 首をグルグル回し、ロイはぼんやりとした。
 妙に、気分がいい。いや、悪い。
 霞が掛かったような、視界がおかしい。
 まだ眠いのかなと、目を擦る。だが、変わらない。

『ロイ』
「ん、ユノ……ん!? おま、なッ!?」

 ユノは、上半身裸だった。
 そのまま、ロイのベッドに登ってくる。

「ななな、なにしてんだ!? こ、こっち来るなって!!」
『じゃ、こっち来なさいよ』
「え、エレノアも!? まてまて、待った!! 夢、これ夢だよな!? おいデスゲイズ!!」
『……ああ、夢だ。だが、妙だな……むぅ、我輩、眠い』
「寝ぼけんな!! おい、二人とも離れろって!!」

 デスゲイズがコロンと転がり、ロイは二人を押しのけようと手を伸ばすが……妙に柔らかな塊が、左右の手に触れた。
 一つは、掌で覆えるくらいの大きさ、もう一つは片手ではあふれる大きさ。
 それは、二人の胸。

「ゲッ!? ごご、ごめん!!」
『いいわよ、別に』
『ロイなら、いいよ?』
「えっ……」
『ね、もっとしよ』
『ええ。もっと』
「…………も、もtt

 ◇◇◇◇◇◇



「ふふん♪ ───……そのまま、ゆっくり寝ててね♪」



 ◇◇◇◇◇◇

「なぁロイ。今日の剣術授業、模擬戦オレとだよな」
ああ・・

 ロイ・・は、食堂でオルカと日替わり朝ごはんを食べながら言う。
 今日は『ワ国』の伝統食材である『コメ』の料理だ。『ゾウスイ』という、ドロドロして温かい不思議な料理なのだが、これが何とも美味かった。
 アオイが学園に掛け合い、城下町で手に入れたコメを使ったらしい。すでにコメの仕入れルートも決め、定期的に『ワ国』の食事が出るようになるそうだ。

「お前さ、ほんと大丈夫なのかよ。オレが心配することじゃねーけど、剣技の成績、マジでドベだぞ」
「別にいいよ。落第しないくらいの腕前ならな」
「まぁ、座学はほぼ満点っぽいしなぁ」
「おはよう、二人とも」

 やって来たのはアオイだ。
 手にあるトレイには、雑炊と卵、『ウメボシ』というアオイが持ち込んだすっぱすぎる何かがある。
 アオイは、雑炊に卵を入れて混ぜ、その上にほぐしたウメボシを入れた。

「うむ。やはりコメはいい」
「す、すっげぇな……」
「あ、ああ」

 アオイが美味しそうに食べるので、ロイは聴く。

「アオイ、卵入れると美味いのか?」
「ああ。拙者のおススメは───……んん?」
「ん、どうした?」
「あ、いや。すまん……ロイ、お前……頬にコメが付いてるぞ」
「え、マジ」
「ぶっ、言うなよアオイ。そのまま学園に行かせようと思ってたのに」
「おいオルカ、ぶん殴るぞ」
「あっはっは。わりーわりー」

 男子三人は、楽しそうに朝食を食べて笑っていた。

 ◇◇◇◇◇◇

「おはよ、ロイ」
「おはっよー、男ども!」

 ユノ、エレノアが合流し、五人で学園へ向かう。
 すると、ユノがロイの隣に来て言う。

「ロイ。今日は訓練ないの。パンケーキ食べたい」
「おう、いいぞ」
「え、ちょ。あたしも行く!! むぅ~……ユノが素早いし」
「もちろん、エレノアもな」
「ぱんけーき。ふむ、ワ国にはない食べ物だ。拙者も付き合おう」
「よし、アオイも。オルカは?」
「オレはパス。用事あるんでね」

 放課後は、四人でパンケーキの店に行くことになった。
 ユノは嬉しそうにロイの腕を取る。

「えへへ」
「おいおい、猫みたいだな。よしよし」
「ん~……ロイ、撫でるの上手」
「む……ロイ、いつもは慌てるクセに、なんかユノに甘くなったし」

 ムスッとするエレノア。
 すると、ロイは手を伸ばしエレノアの頭を撫でた。

「んなぁ!? ななな……」
「あれ、嫌だったか? お前も撫でて欲しいのかと」
「ばばば、馬鹿!? この馬鹿!! こんなとこでやるなっ!! てかユノも離れなさいって!!」
「えー」
「離れなさいっ!!」
「あう」

 エレノアに引きはがされ、ユノは離れた。
 ロイは「あはは」と笑い、オルカも笑う。

「…………」

 アオイだけが、笑っていなかった。

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

「…………あれ?」

 不思議だった。
 身体を起こすと、頭がふわふわした。
 
「い、てて……あれ? エレノア? ユノ? あれ?」

 誰もいない。
 自分の部屋で、エレノアとユノがいた。
 裸っで迫られ、何かしたような気がしたが……何もない。
 ロイは首をひねり、とりあえず起きた。
 ベッドから起き、ドアを開ける。

「ようやく起きたのか。このクズめ」
「えっ……え?」
「さっさと座れ!!」
「…………」

 ドアの先は、男子寮の廊下ではない。
 それほど日数が経過したわけでもないのに、随分と懐かしい感じがするロイ。
 ここは、ダイニングルーム。
 目の前にいるのは、父であり、騎士爵位を持つ歴戦の聖剣士、バラガン。
 そう、ここは……ティラユール家。
 ロイの生家であり、二度と帰ることはないと思っていた、実家だった。

「…………デスゲイズ」
『……』
「おい、デスゲイズ!! 敵だ。襲われている」

 と、腰に手を当てたが、そこに木刀はない。

「!?」

 着ている服も、ティラユール家で着ていた粗末な訓練服だった。

「な、何が」
「貴様……いい加減にしろ!!」
「っ、っぶぁ!?」

 バラガンが怒り、立ち上がり、ロイの元へ。
 そのままロイを殴る。
 ロイは吹き飛び、壁に叩きつけられた。
 壁際にいる使用人たちは、眉一つ動かさずいる。これも、見慣れた光景だ。

「?、?……」

 痛みがあり、血が出た。
 間違いなく、ティラユール家。
 そして、これが『夢』ではないことを、思わせた。

「悪夢でも見ていたのか? 全く、ろくに剣を振るえもしない無能め。さっさと座れ!!」
「…………」

 ロイは、ふらふらと立ち上がり、自分の席へ座った。
 父に食事が運ばれる。
 朝から肉を大量に食べる父。だが、ロイはパンとスープとわずかなサラダだけ。肉はない。
 これも、いつも通り。

「…………」

 まさか、夢?
 魔族。デスゲイズ。聖剣。魔王。魔界貴族。
 全てが、夢。
 今までが悪夢。何もかも、嘘だった?
 ロイは混乱しそうになる。

「間もなく、聖剣の選抜が始まる。いいか、少しでもまともな聖剣に選ばれろよ。もし、カスみたいな聖剣だったら……どうなるか、わかっているな?」
「は、はい……」
「全く。わが騎士の娘、エレノアとはずいぶんと違う。貴様のような無能と違い、あの子は特に……」

 エレノア。
 ロイはハッとなり、エレノアのことを思い出した。
 食事を終え、ロイはエレノアを探す。
 朝食後、ティラユール家の騎士である父に剣の修業をしてもらうのが、日課のはず。
 すると、屋敷の裏にある騎士訓練場に、エレノアがいた。

「ずいぶんとよくなった。あとは、聖剣に選ばれるだけだな」
「はい。ありがとうございます」
「エレノア!!」

 ロイは、訓練場に飛び込んだ。
 そして、わき目も振らずにエレノアの元へ。

「エレノア、大変だ。敵の攻撃だ。デスゲイズがいない。何かがおかしいん───」

 すると、エレノアがロイの手を弾いた。

「な、なんですか急に……」
「え……」
「ロイ殿。申し訳ございませんが、娘に近づかないようお願いします」
「ど、どういう……」

 エレノアの父が、エレノアの盾になるように前に出た。

「お忘れですか? バラガン閣下のご命令です。エレノアには近づくな。と……あなたも、そう聞いているはずですが」
「なっ……」
「申し訳ございません。この件は、バラガン様に報告させていただきます」

 そう言い、エレノアは父親と去った。
 残されたロイは、茫然としながら呟いた。

「…………夢、だったのかよ」

 何が現実なのか、ロイにはわからなかった。
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