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二章・多忙な学園の始まりは、恋人と。

59 家族の説得を開始。

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 我が家の女主人。ファマス侯爵夫人。
 母、リカリアン・ファマスは、すみれのような淑女である。
 可憐な女性を表現しがちな菫の花。

 青寄りな紫の髪と、深い紫色の瞳。
 やや大きめな瞳と小顔で、まだまだ愛らしさが残っている彼女は、社交界でも令嬢時代から、菫のようだと呼ばれていた。

 今日は高めの位置で紫の髪をまとめて結い、右サイドだけ垂らす髪型。宝石の粒がぶら下がる簪を差している。
 可愛さではなく、凛とした美しさを目立たせるメイクだ。普段から、アイライナーで吊り目っぽく見せて、目元をキツくしている。

 女主人として、威厳を保つ。
 そんなお母様は、ハイウエストのロングスカートデザインのドレスで着飾っている。ストレートの黒っぽいスカートと、黄色系の花柄ブラウスに見えた。


 対する私は、春休みから家をこっそり抜け出してきた服装。
 剣術や乗馬の時に着るズボンスタイルだ。
 わざと開いたままにするジャケットとブラウス、ズボンは、白を基調にして青のラインで高貴さを感じさせる。履き慣れたブーツは、濃いダークブラウン。

 紫色に艶めく黒髪は、愛しい恋人に三つ編みにしてもらって、後ろの方に垂らしている。


「ネテイトからどこまで聞いたかはわかりませんが、改めて話すために、初めから話そうと思います。先程、緘口令を敷いてもらった下級ドラゴンも関わりますわ」
「……いいから、冒険者登録をした経緯から話しなさい」

 下級ドラゴンによる衝撃攻撃はもういい、とお母様は玄関ホールで落としたものとは違う扇子を、ペシペシと自分の掌に叩き付けて、苛立ちを見せ付けて急かす。

 チッ。くどかったか。
 まぁ、いい。今は十分だ。まだまだ序の口である。

「婚約破棄を言い渡された私は、パーティーという公衆の面前で辱められた傷物令嬢となりました。さらには、第一王子の婚約者として、王妃教育を受けながら、七年間努力を怠ることなく、生きてきましたわ。そんな進路を積み上げた努力を崩される形で塞がれました。濡れ衣を晴らすことはネテイトが準備を備えてくれましたが、それを抜きにしても問題は山積み。一番は、自分自身の進路です。未来です」

 一度、視線を落とすのは、無理もない。
 事実そのもの。
 けれども、ちゃんとお母様と向き合うべきだ。

「憂鬱になりながら家でこもり続けるのではなく、王妃になる身では到底なれない冒険者が真っ先に思い浮かんだのです。率直に申し上げると、自棄や乱心による行動ではありません。傷心を盾に、今のうちに楽しもうと気晴らしに、冒険者活動を選びました」

 はっきりと傷心を前面に出しておく。
 この雰囲気では、傷心を振り翳しても、くどいと苛立ちを悪化させるだけだろう。娘の浅ましさに嫌悪を抱かれては、不利。

「そこがわからないぞ、リガッティー。何故、冒険なんだ? しかも、わざわざ冒険者登録までして……」

 母が一騎打ちをするとしても、父としては口を挟まずにはいられない。

 現当主シュヴァルト・ファマス。
 黒髪とちょび髭のハンサム系のお父様は、ストライプの背広姿。腕を組んで、しかめっ面で問う。非難混じりに。

「お忘れかもしれませんが、王家からの縁談が来るまで、私は無我夢中で魔法を一心に学んでおりましたわ」

 心当たりはあると、お父様は片方の眉を上げた。

「さらには、王都学園では魔法の類のテストは負けなし。教師陣には、繊細な魔力操作を褒めちぎられましたし、成績結果でも、魔法に関しては右に出る者はいないとまで言わしめるほどです。王室魔術師長も、ぜひとも魔術師になってほしいとまで言っていたことがあると先日聞きましたわ」

 ふふ、と右頬に軽く手を当てて小さく笑う。

「……それで?」

 ならば、魔法の腕の自慢が、何故冒険に繋がるのか。
 お母様が、冷静に続きを促す。

「魔法を学び尽くそうとした私は、我が家の図書室の本は読破したと言っても過言ではありません。その中には、冒険譚の本は少ないながらも確かにありました。冒険は――――冒険者は、自由です。今まで不自由だとは思っていたことはありません。ましてや、拘束されていたなどとも思っていませんでしたが……正直言って、解放感は確かに感じました」

 私は、言葉を、意思を、伝え続けた。

「冒険者活動の初日、初めて魔獣を討伐したあと、川で魚を獲り、焚き火で焼いて食べて……格別な自由を味わっていましたわ」

 記念すべき、初めての冒険者活動の日。
 思い浮かべるだけで、笑みになれる。
 その隣にいたルクトさんが、見つめてくれていたことも。

「新人指導として担当してくださった方も、ので、進級祝いパーティーで見ていて、おおむねの事情を理解してくれた上で、私の気晴らしの冒険者活動を手伝うとから言い出してくださいました」

 ぴくり。お母様だけではなく、お父様も反応した。
 予め、話していたであろうネテイトも、強張ったように見える。


「その先輩の名前は、ルクト・ヴィアンズさんですわ」


 一際、緊張感を覚えつつも、私は両親にすでに恋人関係となっている男性の名を口にして教えた。

「最速ランクアップで最年少のAランク冒険者。私は知らなかったのですが、王都学園でも有名人だそうです。そんな彼は、新人指導を30日間こなすというランクアップ条件さえ満たせば、Sランク冒険者となるのですよ。18歳でも、Sランク冒険者になるのは、最速であり最年少だそうです」
「話は聞いているわ……。その新人指導を担当をしてくださっている方……条件を満たすために、あなたは気晴らし冒険者活動を手伝ってもらったお礼として、30日間の新人指導を受けるつもりなのかしら?」

 自慢に明るくなりすぎないように気を付けたが、お母様はここで確認を始める。
 ペシペシと扇子を掌に当てながら。

 冒険者活動を、続けるのか。

「はい。そのつもりですわ」
「リガッティー。自分の身分を見つめ直しなさい」
「お父様、私はお忍びで気晴らしの冒険者活動を、数日だけでは終えないことにしました。もちろん、世間体などでファマス侯爵家には婚約破棄という醜聞に重なるものとなりますと、重々承知していますが……私達はそうならないように動いていく覚悟を決めています」

 やれやれと言った様子で額を押さえるお父様に、強めに言い放つ。
?」とお母様は眉をひそめた。

「はい。これからお話ししますのは、冒険者活動の理解と許可を求めるための説得となります」
「説得だと?」
「そうです。事態はかなり複雑となりますので、順序を追ってお話します。慎重に情報を扱いながら、動いていかないと……隣国も巻き込む大事に発展しかねません」
「「「!」」」

 深刻なのだ。我が家だけの問題ではない、重大すぎることだと、告げる。

 ネテイトもそこまでは聞いていないと目を見開いて、両親と揃って大きく反応した。
 私は部屋の隅に立ち会っているお父様の補佐官を始め、家令や侍女長に目配せをする。
 彼らはお父様の指示を仰ぐ。この場で一番上の立場なのは、当主のお父様なのだ。


「何より……私の大事な未来のことです」


 お父様が指示を出す前に、私はまだ言うべきことを告げる。


「私の伴侶と添い遂げるためにも、私は決意しています。だから、ファマス侯爵家を説得して、理解を得た上で、協力をお願いするつもりです」


 しっかりと、決意表明を示す。
 緊張のあまり、頬が火照る。堪えているから、ルクトさんに真っ赤にされているよりは、だいぶマシなはず。

 お父様達が、目を見開いているのは、私が頬を赤らめているからではなく。

 

 その言葉を出したからだと、思いたい。

「……七年。優秀だと褒めていた婚約者にも、恋愛感情はないと、言い切ったあなたが?」

 お母様が、静かに尋ねた。

 特に、恋愛感情らしき恋愛感情を抱くことなく、政略結婚だと割り切って、しっかり未来の国王を支える王妃になると話していた娘だ。
 にわかに信じがたい。
 否定的ではないが、確認してくる。

「想い人が出来て……さらには、生涯の伴侶だと決めた、と?」

 やはり、両親に報告は、格段と緊張してしまう。

 これでは結婚の承諾をもらいに来る予定のルクトさんが心配だ。……いや、あの人は度胸も規格外なので、大丈夫な気がする。

 そう考えたら、頂点に向かいそうな緊張も和らいだと思う。

 なので、私は爆弾並みの衝撃を与える事実を投下した。


「はい。二日前、彼から想いを伝えてくださり、私も同じ気持ちだと想いを伝え返して、恋人関係となりました」


 力んでしまった告白。

 お母様がギシッと扇子を握った音は、お父様の補佐官の一人が「ヒョ」と素っ頓狂な空気を喉から出した音で隠された。

「彼は、新人指導を担当してくださっているルクト・ヴィアンズさんです。春休み初日が初対面ですが、惹かれ合いまして、無事お付き合いが可能な身になったので、二日前に交際を始めました」

 ギシギシと扇子が軋む。
 立っている補佐官達が、フラッとしている。

「……その方は、平民だと聞いているわ」
「その通りです。しかし、Sランク冒険者は名誉貴族の身分を受け取れます」
「だから、あなたが30日間の新人指導を、Sランク冒険者にして身分を上げると?」
「いいえ、違います、お母様」
「何が違うの。名誉貴族でも、身分差は歴然です。あなたは貴族の務めを理解してきた娘だと、感心していたのよ。冒険者を見下しているわけではなく、
「違うのです、お母様。私は貴族の務めを理解した上で、こうしてお話を始めています!」

 お母様が感情的な口調になるから、私も感情的な声音で反論。
 どういうことかと、嘆きたがっていたお母様は、目を丸めた。

「事態は、名誉貴族を授かるだけではないのです。先程言った通り……国同士も絡みかねないのですわ」

 事情は複雑。
 平民と交際を始めた事実が衝撃すぎただろうから、しっかりと思い出させる。

「なので、お父様。これから話すことは、情報漏洩の危機をなるべく排除をしていただきたいので、立ち会いは厳選してください。必要最低限でお願いいたします」

 改めて、お父様に知る人間を減らしてほしいと頼んだ。


「……では、協力を頼みたいと考えている者を名指ししなさい」

 お父様はしかめっ面で考えた末、協力者と考えている者を私に選べと言った。

 なるほど。私の慎重さの確認も兼ねて、お父様は先に選ばせる。無駄は省略。
 ファマス家の人々を信用していないわけじゃないとも、示す必要もある。深く頷いた。

「では、家令と侍女長は、外して。大応接室に、誰も近付かないようにしてほしいわ。あと、残って聞いてほしいのは、今後協力のためにも動いてもらいたい、リィヨン、マーカス、スゥヨン」

 使用人代表として立ち会っていた家令達には、見張りを頼む。知る者を限られるように。


 リィヨンは、代々ファマス家に忠誠を誓ってきて、補佐の仕事を務めてきたジオン家の長男。先程、素っ頓狂な空気を喉から出した男性だ。

 スゥヨンは、ジオン家の次男であり、今はネテイトの従者としと補佐している。元は、私の従者になる予定だったが、私は王子の婚約者となり、後継者として遠い分家の子であるネテイトが養子になったので、支えとなった。

 マーカスは、お父様の補佐官とともに護衛も務める強面男性。腰に剣をぶら下げて、行動する。
 今、意識を飛ばしかけている遠い目から、立ち直ったところだ。


 それぞれが、お父様の許可を得て、立ち位置を改めた。


 お父様の後ろに控えたリィヨンとマーカスは、お父様の横の位置に移動して、なるべく近付いて聞く姿勢を見せる。
 スゥヨンもまた、ネテイトの横に立つ。
 出入りを禁じさせた家令達は、退室。


「……先ずは、冒険者について。皆様がどこまで知っているかはわからないので、簡単に説明します。冒険者は下からF、E、D、C、B、A、そしてSというランクで格付けされています。ルクトさんは、二年前にはAへランクアップしています。最速最年少と肩書きがつくだけあって、その実力功績は、現役のSランク冒険者でありギルドマスターも太鼓判を推しています」

 そういえば、このランク別……しっかりアルファベット記号だから、きっと大昔にも転生者がいて、冒険者ギルドの創設に関わっていたのだろう。……と一瞬、気が逸れた。

「二年前の大規模モンスタースタンピードでも、大活躍した期待の星だったそうです。その活躍も最速ランクアップに影響したとか」
「冒険者については、わかったわ。……そんな活躍をした方が、名誉貴族の授与で何が問題になるのかしら」

 冒険者について、疑問はないと、お母様は肝心の問題に触れるよう催促する。

「彼は……私の実力、つまりは今まで培った魔法などによる戦闘能力の高さを考慮して、ギルドマスターも懸念するほどに、レベルの高い指導をしてくださりました。二日目には『火岩の森』の奥で、たまたまですが、トロールの討伐を経験。三日目には『黒曜山』の麓で多くの群れの討伐、その日だけで40体ほどは討伐しましたね。その後、また『黒曜山』で戦闘経験をさせていただき、二日の間にも、数は正確には覚えていませんが、私の討伐数はもう200になったかと……」

 いかにハイテンポでハイレベルな冒険者活動だったのかを、話しておく。

 なんとも言えない表情のしかめっ面を、顔色悪くするリィヨン達。
 ネテイトも組んだ手に口元を押し付けて、どよんとしている。

「そして『ダンジョン』です。これもまた新人指導中に行くにはレベルが高すぎる場所ではありましたが、ルクトさんも不測の事態の対処の自信もあり、慎重に進めば、私でも大丈夫という判断で連れて行ってくださいました」
「なんでそう……生き急ぐようなテンポなんだ?」
「それは……彼の性分とも言えなくもないですね。本当なら、『ダンジョン』行きも、彼は断るつもりでいたのですが」

 苦々しい顔でお父様が疑問をぶつけた。
 これは、話すべきかを、一瞬考えてから、白状する。


「『ダンジョン』までの道中で、偶然見つけた素敵な光景があったと思い出して……そこで想いを伝えての交際の申し込みを、決めたからだそうです」


 また頬に火照りを感じる間、かなりの微妙な間が空いた。

 沈黙。痛い。

「と、とにかく、ルクトさんにとっては、『ダンジョン』行きなど、ついでになるくらい、彼は規格外に最強な冒険者なのです!」

 そういう人なのである!

「今回の『ダンジョン』行きは、ルクトさんを指名した依頼です。最初に『黒曜山』に行った日に、ストーンワームが出没したため、私の指導を片手間に、討伐したルクトさん本人に、『ダンジョン』から来たであろうストーンワームについての手掛かりの調査を頼まれたわけです」
「それも聞いたな。王国内で、ストーンワームとは、初耳だ」
「はい。その……ストーンワームを討伐する直前で、とんでもない問題が発覚したのですよね……」

 ストーンワームについても、ネテイトから聞いていたとお父様が、腕を組んで頷いた。
 リィヨン達が、私を案じる視線を送ってくる。『ダンジョン』なんかに連れて行かれた私への心配。

 肝心のストーンワームを討伐したあの日を思い出した私は、思わずげんなりと苦い顔になり、額を押さえた。

 なんだ? と首を傾げたがる両親に、言わねば。

「今回の『ダンジョン』です。差し迫った問題となってしまい、今日はお父様達のお帰りを確認するためにも、早く帰ってきたのですわ」

 核心に触れる。

「『ダンジョン』に入ったのは、昨日。ストーンワームが出没した理由がわかるような手掛かり、または今後の問題になりえる予兆の調査のために奥へ奥へと進んで……昼過ぎに遭遇しました」

 一つ息をついて、一同を見回して、打ち明けた。


「下級ドラゴンです。それも上級ドラゴンかと思いたくなるほどの巨大な下級ドラゴンでした」


 下級ドラゴンを討伐した事実は、彼らは予め知っていたが、衝撃が強すぎたのだろう。
 今の今まで、なんて、考える余裕はなかった。

 ポッカーンとした顔でありながら、愕然としている。

「もちろん、討伐いたしました。シェフ達に渡したお肉が、その下級ドラゴンのものですわ」
「……リガッティー」
「はい。仕留め損ねたら、街一つは呆気なく壊滅したでしょうし、王都にもあっという間に飛んでいき、無傷では済まない被害を与えていたはずです」

 驚愕し、硬い表情になるお父様に、彼が言いたいことを予想して、肯定の頷きを見せて、同じく深刻な硬い表情を見せた。

「調査の結果、洞窟が完全に崩れていて、下級ドラゴンが来た方角を最後まで追えず、手掛かりは見つかりませんでした。他に急を要する予兆もないため、帰還してきまして、あとは調査機関とともにランクの高い冒険者パーティーと大掛かりに調査することになると予想されています」

 だが、しかし。
 そう、終わりではない、と私は挙手して示す。

「この……意図しない功績によって、慎重に進めたかったルクトさんの爵位授与の件が、危ぶまれることとなりました」
「何故? 功績で危ぶまれるとはどういうことだ?」
「逆に喜ぶことでしょう? まだ認めたわけではないけれど、名誉貴族になりたい彼には、大いに有利となる実績となるはず。王室は多大な感謝をするのだから、褒美は想像を超える」
「はい……それは、そうでしょうね。他の冒険者ならば……です。私とルクトさんでは、事情があってよろしくありません。水面下に、爵位授与を望んでいたので」

 うんうん。そう思うのも無理はない。
 私とルクトさんの事情を知らなければ、それが通常の反応。
 私は一度、冷めてしまった紅茶を、一口、喉に流し込んだ。

「ルクトさんは、本当に規格外な実績を持つ最強な冒険者です。彼の爵位は、名誉貴族では留まらないと、私もギルドマスターも、想定しています」
「なんだと?」「なんですって?」

 断言したそれに、お父様とお母様は同時に言葉を発した。


「今回の下級ドラゴンの討伐では、王都への被害想定を考えれば、最早、侯爵の爵位は確定したかと思います」


 私はまた手を上げて見せて、聞き手に徹してほしいと頼む。
 今回の『ダンジョン』の巨大な下級ドラゴンの討伐だけでは、もちろん、侯爵など授かるとは思えないと言ってくるだろう。

 ファマス侯爵家は、現在の領地内で、疫病が始まったため、迅速に封じ込みを成功させて、王国への大きな被害を広げる前に、食い止めた功績により、成り上がりだった男爵家は、侯爵へと爵位が上がった歴史を持つ。

 今のファマス家と同じ爵位を、一冒険者が授かるわけがないと、言い募りたいだろう。
 それも、まだ18歳の青年であり、平民だ。さらに言えば、まだ学生。

「これから、さらに衝撃的な彼の実績を一部、打ち明けますわ。いえ、もう……その実績だけでも、十分と言えるのですがね。そのまま、私と事情が絡むという話に行きますので、心構えをお願いいたします」

 私は、親切に予告をする。

 ルクトさんは意地悪にも、驚く顔を待って、笑みでケロッと言い退けてきた実績だ。

 心臓に悪いので、心構えをしてほしい。
 衝撃を受けたまま、動転せずに、聞き続けてほしいと、そう伝えた。

「……わかったわ」
「打ち明けてみなさい」

 お母様もお父様も、他の者の顔を確認してから、心構えは済んだと答えてみせる。
 心構えをしたところで、衝撃は衝撃だろう。

「ルクトさんは、二年前にAランク冒険者となったと話しましたね。Aランク冒険者になる条件の一つは、下級ドラゴンの討伐です。彼曰く、Bランク止まりの冒険者はごまんといるとのことですが、下級ドラゴンの討伐が真の実力者の証明となるのですわ。そんな下級ドラゴンの討伐を、彼は……」

 一度、躊躇して、言葉を止める。


 これを告げたら、後戻りは出来ない。

 進む。
 確実にいい方へと進んでやる。


「ルクト・ヴィアンズさんは、この二年間で、10体の下級ドラゴンを討伐しました。昨日の下級ドラゴンを加えると、合計11体の下級ドラゴンと戦い、そして仕留めたということですわ」


 再びの爆弾並みの衝撃を受ける事実を、知らせた。
 その衝撃は、今日一番のものだろう。
 彼らの中で、激震として走っただろうが、表には出ることはまだ時間がかかるらしい。


 大応接室の中は、水を打った静けさとなった。


 むしろ、無音とも思える。誰も呼吸をしていないのだろうか。

 そう思えるほどの無の間が、出来上がった。


 
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