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二章・多忙な学園の始まりは、恋人と。
58 今までのおさらい。
しおりを挟む私、リガッティー・ファマスは、異世界転生者だと自覚したのが、春休み前の王都学園の進級祝いパーティーで、婚約者の第一王子から婚約破棄を言い渡された時だった。
ハルヴェアル王国にある王都内のミッシェルナル王都学園は、転生前の異世界、地球でプレイしていた乙女ゲームの『聖なる乙女の学園恋愛は甘い』の舞台。
ヒロインのジュリエット・エトセトは、強い光魔法の使い手として、儚げな美少女の容姿をしていても、元気で芯の強さも持っている優しい少女だった。
そんなヒロインに乙女ゲームの攻略対象キャラクターのオレ様王子のミカエル・ディエ・ハルヴェアル、側近の三人は関わっていき、心が惹かれていき、選択した登場人物と甘い恋愛を始める。
そんな乙女ゲーム内のリガッティー・ファマスは、オレ様王子の婚約者である侯爵令嬢。
恋路を邪魔し、嫌がらせから危害を加えるという手段を取る悪役令嬢。
私と同じく、転生者だったヒロインことジュリエットは、10歳にはもう前世の記憶を思い出していて、乙女ゲームシナリオ通りのハッピーエンドを目指していた。
オレ様王子を本命に、逆ハーレムを築いて、クライマックスイベントの婚約破棄パーティーを唆した。
しかし、おおむね、ゲームシナリオのように事態は起きたけれども、酷似しているだけで、現実は別物だった。
ゲームシナリオ通り、私は悪役令嬢の悪行はしていないし、クライマックスイベントでその悪行を挙げられては、七年間教育を受けて目指していた王妃には不適合だと、公衆の面前で婚約破棄を言い渡されても、負の感情の爆発による闇魔法を暴走させたりはしなかった。
クライマックスイベントだと、暴走する闇魔法でパーティー参加者もオレ様王子達も、危険だったが、強い光魔法のヒロインが咄嗟に飛び出して闇を消し去る光を放つ――――という臨場感溢れる展開で、ハッピーエンドシーンへ行き、エンドロール。それが、ゲームシナリオ。
恐らく、あの場で、ストンと頭の中に軽い音を立てるみたいに記憶が蘇っていなくても、そんな臨場感溢れる展開は起きなかったはず。
本当に私は嫌がらせの類は行っていないし、ヒロインや婚約者側に男女の距離感について注意していただけだ。
王都学園が実力至上主義で貴族平民の隔たりのない学園生活をするような方針であっても、婚約者がいる身で肩が触れ合うような距離感ではいけない。さらには、放課後のギリギリまで一緒にいるのは、浮気を疑われてしまう行為。
私が眉をひそめるように、周囲もよくは思っていなかった。王子の婚約者であり、身分が高かった私が相談を受けて、他の不満を募らせている生徒達を宥めてきたのだが、全員は見ていられなくて、確かにヒロインは嫌がらせをいくつか受けていたのだ。しかし、私は関与していないし、犯人はすでに学園側が罰している。
それを私の指示だと言い張りたかったらしい。
だが、事実無根。
リガッティー・ファマスだったとしても、私は私だったから、悪事や闇属性の魔法暴走を引き起こさなかったのだろうと思っている。
確かに、乙女ゲームの『聖なる乙女』の悪役令嬢のリガッティー・ファマス侯爵令嬢だが、”私の魂”だったがために、ゲームシナリオと完全一致の言動をしなかったのだろう、と。
悪行などしない倫理観を守り、闇魔法暴走が引き起こすことがないくらいに、前世になかった魔法を極めていたり、転生者である自覚がないままに生きてきたのだから、そうではないかというのが持論。
さらには、乙女ゲームの『聖なる乙女』の世界観や舞台、登場人物まで揃っていても、ここは現実世界。ゲームシナリオであったシーンや設定が酷似していたとしても、ここはやはりゲームではなく現実の世界なのだ。ゲームと同じ選択をしたところで、ゲームシナリオのハッピーエンドなど最初からなかった。
ヒロインが求めたのは、オレ様王子とのハッピーエンド。
暴走した悪役令嬢から救ったことにより、すでに想いを伝え合った恋人は、王太子となったオレ様王子と婚約をして幸せな未来へ歩む。
そんなめでたしめでたしは、完全なるフィクション。捏造されたご都合主義なハッピーエンドだろう。
現実的に、客観的に見ても、闇魔法の暴走まで起こすほどに婚約者を追い込んだオレ様王子は責められる。悪事があろうがなかろうが、婚約者に対して公衆の面前で虐げたということで、醜聞。
オレ様王子の頑固な正義感は、母親譲り。その王妃様が、怒り心頭で睨み下ろすから、元凶のヒロインを認めるわけがなかった。
どう見ても、浮気。婚約者のいる相手にすり寄った泥棒猫。相手が王子だけあって、質が悪い。未来の国王と王妃になるはずだった二人の失脚は、由々しき事態。ヒロインは後ろ指を指されるだけで済むわけがない。
そういうわけで、現実的に見れば、やはり、ゲームシナリオのハッピーエンドなんて、なかった。
どういう理由で転生させたであろう神様が、前世でプレイした乙女ゲームの舞台があって、その登場人物の元に異世界転生させたかはわからない。
でも、結局のところ、用意された台本通りには動かなかった上に、最後の見せ場は臨場感を出すための大袈裟な演出で書き加えられただけのフィクションだ。
ここは酷似していても、ゲームそのものではない、現実の世界に過ぎない。それが、私の見解だ。
万が一、そして億が一、いい方に転がり続けたとして、王太子になったオレ様王子は、二年後の学園卒業のあとに結婚式を挙げる予定だったため、ヒロインは王太子妃になることになるのだが、その間に王妃教育を受けなければいけない。学園の成績は上位を維持しつつ、せめて王太子妃として公務が出来るほどの教育を強いられる。
嫌がらせを私の仕業だと細工していたけれど、ヒロインの座にあぐらをかいて、ゲームシナリオの恋愛を楽しんでいただけの彼女には、到底ハッピーエンドには程遠かったはずだ。苦労地獄しかない。
話が通じず、自分は愛されヒロインだと言い張り続けていた彼女は、頭がイカれた悪行を重ねた悪行令嬢として、裁判を待つ第一容疑者として軟禁されている最中。
無事、私は婚約を解消をしてもらった。七年間、恋愛感情はなくとも、切磋琢磨した協力関係であったオレ様王子には、裏切られたのである。
ゲームの設定だと、悪役令嬢の義弟であるツンデレショタキャラは、養子の彼に家族じゃないと言い放って罵倒した悪役令嬢と不仲になるはずだったネテイト・ファマスとともに、ヒロインに誑かされたオレ様王子達を返り討ち。
特別仲が良い家族という自覚はなかったけれど、普通の家族という認識で跡取りとして我が家に来たネテイトは、攻略法の義姉との不仲という点がなかっために、ヒロインからの攻略は免れた。
その点も、私が私だったのだから、当然だろう。
ネテイトが、まともでいてくれてよかった。
ファマス侯爵家として、婚約関係や側近の立場は、バッサリと切り捨ててやったのだ。
ヒロインは、ほぼほぼ投獄状態。
オレ様王子達は騙されていたことに失意の中、自分の行方末に絶望中。
華麗にざまあの返り討ちを決めた――――と、かなり気楽に予定していた私が想定外だったのは、婚約破棄騒動を知り、隣国で公務に行っていた国王陛下から、七日後に会談として場を設けてそこで解決すると手紙で知らせを受け取った、まさにその七日の間である!
ゲームシナリオのクライマックスイベントで、私が闇魔法の暴走で王子を含めた大勢に危害を加えるはずだった大罪がなかった代わりを、ヒロインがまたでっち上げるとは思いもしなかったのだ。
そこまでして私を悪役令嬢に仕立て上げて、断罪を受けてほしかったのは、ひとえに私を踏み潰した上に愛されハッピーエンドを迎えるためだったらしい。
理解に苦しむ。
そんな頭のイカれた悪行令嬢のせいで、私はこの婚約破棄騒動ですでに将来が白紙になったようなものだったため、思い詰めて家にこもるよりも気晴らしをすることにしたのだった。
それを、国王陛下並びに王室の重臣が勢揃いしている大会議室で、自分の口から明かす羽目となったのだ。自称ヒロイン、許すまじ。
私が、気晴らしに選んだのは、冒険。
元々、婚約が決まる10歳までは、寝ても覚めても魔法に夢中になって学んでいた。王子との縁談にげんなり顔をしたが、貴族の務めとして王妃になる未来を受け入れて、七年間努力を積み重ねてきたのである。だがしかし、隙あらば、魔法を習得していた。
今振り返れば、やはり前世にない魔法だったので、身近に当たり前にあるという常識を持っている元からの住人達とは違う、並々ならぬ興味と好奇心に突き動かされて、学んできたのだろう。
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王子の婚約者の身では、冒険者登録なんて、先ず無理だった。他の貴族子息なら、遊び半分の度胸試しに新人指導を受けたという話は聞いていたくらい。
冒険者は新人指導を30日間受けなければいけないとのことで、私は最速ランクアップで最年少Aランク冒険者の先輩に担当してもらって、冒険者活動を受けた。
それが幸いなことに、ヒロインが新たに加えた王族殺害未遂の大罪の無罪を証明するアリバイとなってくれたのだ。
だが、しかし。
侯爵令嬢が、冒険者活動。
いずれは明かす気ではあったが、国王夫妻の前は想定していないし、王室の重役の前で白状する羽目になった私は、完璧なアリバイがあることにショックを受けながら、侯爵令嬢の冒険者活動に信じられないという顔をしたヒロインを殴りたかった。グーで。
そして、その冒険者活動。
気晴らしが名目だったのだが、それだけでは済まなくなった。
春休み初日。冒険者登録をして、私の新人指導担当になった最速最年少のAランク冒険者は――――私の想い人となった。
ルクト・ヴィアンズ。実は一つ上の王都学園でも先輩だった。
爽やかさを感じる短さの白銀の髪と、ルビー色の瞳を持つ長身イケメンのルクトさんは、青い髪色に変えて貴族令嬢らしかぬ短パン姿で身軽な服装で軽い変装をしていた私が、前日に進級祝いパーティーで婚約破棄を言い渡された侯爵令嬢と気付いていながら、気さくに接して初日の新人指導を行(おこな)ってくれた。
やけに、面白そうに笑っているなぁ、と思いきや、そうだったのである。意地悪。
けれども、快くルクトさんは、気晴らし冒険者活動の指導をすると言ってくれた。
そんなルクトさんは、初めから好意的。なんでも、あのパーティーを見てから、私の助けになりたいという思いを抱えていたからだという。
惚れ惚れするかっこいい令嬢。
それが、可愛らしい新人冒険者の美少女として目の前に現れた。
もう運命の出会い、と思えてしまったとのこと。
ルクトさんは平民ではあったけれど、私の新人指導を30日間こなせば、ランクアップの条件が満たされてSランク冒険者に昇格。そして、Sランク冒険者は名誉貴族という一代限りの貴族の身分を求められることになっていた。
そういうこともあって、初日から、もしかしたらの期待があっての甘々な雰囲気となっていたのだ。
本当に甘々の雰囲気が、多かった。
ルクトさんからの見惚れている眼差しを受けて、嫌がらない私がいたのだ。
二人して、ほぼ一目惚れ。
想いが膨れ上がるのは、そう時間はかからず、まだ解消前提の保留とはいえ婚約者がいる身だったため、節度ある私達は想いを口にすることは堪えていた。
七日間、冒険者活動のためと日中過ごしていたので、大罪に対してのアリバイもルクトさんがギルドマスターとともに証言してくれたのだ。
そうして、冤罪は全て晴れて、婚約解消も無事終えて、その問題を片付けた。一難は去ったと思う。
翌日に、ルクトさんから最初の一歩として想いを伝えてもらい、私も想いを伝え返して、恋人関係となった。
恋人関係となれた私達には、今後も、乗り越えるべき問題が山積みだ。
ザッと簡潔に言えば、身分差、冒険者活動。この二つ。
ただし、事情がこんがらがっていて、かなりの大事という大試練だと思っている。
その問題に取り掛かる前に、私はすでにラスボス的な存在と対峙していた。
前準備、または始める前の難関。
両親の理解と許可と同意を求めるという問題だ。
これがクリア出来なければ、大幅に立てていた計画は狂う。
最悪、私は勘当してもらい、平民落ちする所存。育ててもらった両親に向かって、駆け落ち宣言は私も嫌なのだが、それくらいは覚悟の上だと、ちゃんと訴えないといけないだろう。
ここから、本格的に動くことになるはず。
私の冒険者活動は、新人らしかぬレベルの冒険だと、自他共に認めていたりする。
初日こそは、新人冒険者を連れて行く森で薬草採取だった。あわよくば、魔獣討伐を経験をする程度で、もうピクニックに最適な森を歩きながらのお喋りをしただけ。
しかし、翌日から『火岩の森』でEランク冒険者が倒せるレベルのトロールの討伐。ちなみに直前に粋がっていたBランク冒険者パーティーの六人を自己防衛もとい正当防衛にて、一瞬で鎮圧していた。
未来の王妃としても自己防衛は優れていると自負していたので、対人戦にかなりの自信はあったのでチョロかった。
さらに翌日は『黒曜山』という王都から一番危険な地域として、幼子も知っているお山に連れて行かれて、40体ほどの魔物と魔獣の討伐をしたのである。わんさか溢れるみたいな魔物達の出没は流石、危険地帯と言わしめる山だと納得。ルクトさんも私の実力なら問題ないと太鼓判を押してくれた通り、ちょっぴり息を切らしたけれど、怪我一つなくこなせた。そこでルクトさんは異常出没をしたBランクの魔物ストーンワームの討伐依頼を引き受けていたので、ちょっとだけの手伝いをした。
ちなみに、その日がヒロインが大罪作りのために、慈善活動を理由にオレ様王子を連れ立った途中で、手の者に襲わせて、私の特徴を見せつけてオレ様王子達に、私が犯人だと思い込ませた。
おかげで、その日の『黒曜山』という離れた場所で冒険者活動をしていたことを、証言する羽目となったのである。
冒険者登録自体、本人ではないと登録は完了しないし、証明書となるタグも、本人でなくては正常に作動してくれない代物。
私自身が冒険者となり、『黒曜山』で40体ほどの魔物討伐をした報告をその日にしたこと、さらにはルクトさんのストーンワームの討伐も手伝ったことを証言したことで、冤罪は吹き飛ばした。ちゃんとした記録は別途でギルドマスターが提出すると言っていたっけ。
その後も、私は『黒曜山』に二回行き、婚約解消を間に挟んだ翌日に、何故か『ダンジョン』行きになった。
『黒曜山』の向こうというかなり長距離なため移動時間はザッと一日はかかった場所である『ダンジョン』もまた、新人冒険者なら先ずいけない場所なのだが、ストーンワームの異常出没の調査のためにも、討伐したルクトさんに依頼が届いたのだ。
初めは、利益目的で依頼を持ち掛けてきたサブマスターに、攻撃的に拒否していたのに、コロッと態度を変えて私に、無邪気に行こう、と笑いかけたルクトさんは、『ダンジョン』までの道中で、私が気に入るであろう素敵な場所を思い出したため、そこで告白することを決めたである。
実行されたのが、二日前。
素晴らしい花の中の道を進み、夕陽が照らす絶景の目の前で、素敵な告白を受けた特別な時間にしてもらえた。
正式にお付き合いを、始めたのであった。
交際に関して、両親の反対は断固として譲らないつもりだ。
相手が平民であろうとも、身分差を解決する手立てはあるし、そうでなくても節度は守るのだから、その点の心配は無用。
そんな交際も報告しつつ、冒険者活動の許可を得て、身分差解決のための大きな問題を話す。
そのつもりではあったが。
よもや、領地で魔物の群れに足止めされていた両親が、連絡をもらう前に、『ダンジョン』に行っていた間に帰ってくるとは予想していなかった。
『ダンジョン』から帰還し、まさに両親がいつ帰るのかという手紙が届いていないかと確認するために帰ってみれば、ドドーンッとラスボスよろしく待ち構えた母の出迎えを受けたわけだ。
冒険者活動もよろしくないのだけれど、それに加えての無断外泊。お怒り材料が山積み。
しかし、怖じ気づいてはいけない。
私だって備えてきたのだ。怯えを見せれば、劣勢になって追い込まれる。
王妃になるべく教育を受けた淑女として、みっともない姿を見せては、減点。
覚悟を見せるためにも、威風堂々と胸を張って、自分の意志を主張しないといけない。
お怒りオーラを背負ったラスボス級の威圧を放つお母様だったけれど、不幸中の幸いで、私は強烈な先手必勝を出せた。
自ら討伐して来た下級ドラゴンのお肉。
冒険者がAランクになるために一体討伐すべき条件の一つになっている下級ドラゴン。
それこそ本物の実力のあるBランク冒険者だという証明ともなる強敵。
幻獣の一種であり、知性ある最強種族の上級ドラゴンと似た姿でも、猛獣として暴れて食らうだけのため、下位種として下級ドラゴンと呼ぶ存在。
下位種だとしても、街一つは壊滅させられる狂暴で強い。
そんな下級ドラゴンのお肉は、極上なのだと語り、シェフ達に夕食にして欲しいと頼んだ。
私が下級ドラゴンを仕留めたことも、希少かつ最高級食材として持ち帰ったことも、衝撃のあまり怒りはだいぶ軽減されただろう。
こうして、なんとか、無断外泊からの『ダンジョン』行きの冒険者活動という激怒で雷を落とす点について、雷を落とす気だったはずのお母様の勢いは、削いだ。
出だしは、上々。
本番といこう。
自分達もまだ口にしたこともない希少かつ最高級食材が、実の娘が討伐してきた下級ドラゴンのお肉。
思わず手にした扇子を床に落としたまま、ポカンとしていたお母様は、大応接室で話そうと指示した。
基本、大応接室では、護衛を引き連れるほどの大事な客人などの相手を対応するための部屋。
当然、広いこの部屋にしたのは、自分の怒号を容赦なく放つつもりだったからだろうか。
私は客人が座る側のソファーに腰を下ろす。
もてなす側のソファーにお父様とお母様が座るが、お母様の方が真ん中で私と正面か向き合う形。
横の一人がけのソファーに、義弟のネテイトが座る。
侯爵令嬢が冒険者。おおむね、常識外れのことをしている。
そのことについて、頭ごなしに家族全員で責め立てることをしないためにも、お母様が一騎打ち形式で話すということは、想定済み。
「何から話しましょうか」
出端をくじかれたお母様が、内心で動揺しているであろう隙に、私は主導権を握る。
「先ずは、第一王子殿下から婚約破棄を言い渡されてしまった進級祝いパーティーについてですよね? ネテイトから聞いているとは思いますが、お母様の計らいにより、無事にスムーズに婚約解消の承諾をいただきまして、婚姻契約は白紙となりましたわ。本当に、ありがとうございます。そして、此度は、こんな事態になる前に止められなかったこと、誠に申し訳ございませんでした」
一度立ち上がって、一礼をして、誠意を見せた。
事実、本心である。
あちらに完全に非があるとはいえ、婚約者として七年間支えてきたというのに、暴走を止められなかったのは、大失態だ。
感謝もして、謝罪もする。当然のこと。
「コホン。確かに、話はそこから始まります。しかし、重点を置くのはそこではなくてよ? リガッティー。遠回りをせずに、話しましょう。――――あなたの冒険者活動について」
気を取り直したお母様は、負けじと主導権を取り戻そうとして、冒険者活動についての説明を求める。
私と同じアメジスト色の瞳の中で、鋭利に見据えてくる。
私は口元で作る小さな笑みを保って、しっかりと見つめ返す。
ファマス侯爵家の使用人一同にも、義弟のネテイトは王子との婚約白紙の大事をさらりと流して、私の冒険者活動の方が深刻かつ大問題だと熱弁しては『ダンジョン』行きを、力尽くで止めるぞ、と声を張り上げて一致団結をしていた。
何故、みんなして、王子との婚約白紙を流すのかしら……。私の七年間と将来が……。
まぁ、いいけれど。
そう思うくらいには、もう私にとっても、王子との婚約や将来の王妃なんてものは、大したものではなくなっていた。
私の中には、もう。
生涯の伴侶だと手を取り合った恋人、ルクトさんのことばかりで、いっぱいなのだ。
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