161 / 187
番外編 〜 ぺーちゃん 〜
番外編 〜 ぺーちゃん、ミーシャとの邂逅1 〜
しおりを挟む教皇フェリクス視点
「みゃおー!!」
本日からクレオが一週間、遠出しなければならないので、長距離を馬車で移動するのは2歳児の私には耐えられないという事、そして反教皇派の動きが怪しいという理由もあり、一週間ほどディバイン公爵邸に預けられる事になった。
つまり、この一週間は母上の膝で、美味しいおやつを食べながら、ノアとアベルとフローレンスとおもちゃで遊べるのである。
クレオも、「温泉、楽しみですなぁ」とか言っていたから、お互いリフレッシュ出来るなと、嬉々としてやってきたら、出迎えたのが魔王だった。
「いつも猫のような鳴き声を出す赤子だな」
魔王と叫んでいるんだ!
「ディバイン公爵、ご無理を言いまして、申し訳ありません。フェリクスの事を、よろしくお願いいたしますぞ」
「承知した。大司教、代わりに以前に言った通り、頼むぞ」
「わかっております」
な、なんだ!?
魔王とクレオが悪い顔をしているぞ!?
「ぺーちゃん、公爵家の人たちに迷惑をかけないようにするのですぞ。おやつは食べすぎないように。それと───」
長々と注意事項を言われて、「それでは公爵、よろしくお願いいたしますぞ」と、やっと行ったクレオを、なぜか魔王の腕の中から見送り、その後無言の時間が続いている。
こ、怖い。何だ、私は殺されるのだろうか!?
「……」
「旦那様、フェリクス様が怖がっておりますので、もう少し笑ってください」
ウォルトという使用人が言うが、笑った方が怖いから止めて!
「かぁちゃ……」
「ベルは今仕事中だ」
魔王から私を救ってくれる母上が、いない、だと!?
「にょあ……」
「ノアは勉強中だ。アベルもな」
「ちょんにゃ……」
魔界だ。ここは今まさに、魔界となった!
「旦那様、フェリクス様をどちらに連れて行くおつもりですか?」
「……ミーシャの所だ。マディソンがいるだろう」
ミーシャ? マディソン??
よくわからぬうちに、公爵の長い足は私をあっという間にある部屋の前へと運んだ。
「入るぞ」
魔王が開けた扉の向こうは……白と淡いピンクとレース、そしてテディの世界だった。
「坊っちゃま、どうなされましたか?」
ぼ、坊っちゃま!?
「マディソン、客の世話を頼む」
「お客人、ですか?」
「この赤子だ」
白く毛足の長い、ふかっふかなラグの上に降ろされ、呆然としていると、
「坊っちゃま、まさか誘拐……」
私は、魔王に誘拐されたのか……っ
衝撃に、思わずぺちゃん、と尻もちをつくが、ふっかふかのラグの上は気持ち良いだけだった。
「大司教の孫だ。遠出するから預かって欲しいと言われた」
「私は聞いておりませんが」
「お前に伝えると、ベルにも伝わる」
「坊っちゃま、奥様に内緒で何をする気ですか」
「誤解だ。ベルはこの赤子が気に入っているから、サプライズしたい……」
「そういう事でしたか。私はてっきり外に子供を作ったとばかり……。といのは冗談ですが」
「そういう冗談は止めろ。吐き気がする」
冷気が魔王から漂ってくる。
この魔王、大人げないほど妻を溺愛しているからな。
「失礼いたしました。お名前は何と仰るのでしょうか?」
「フェリクスだ」
「かしこまりました。フェリクス様、こちらで私と遊びましょう」
「マディソン、そいつは大人の話も理解している。気をつけろ」
なぜ魔王がそれを知っている!? いつからバレていたんだ!?
「それは、賢いお子様なのですね」
「それより、ミーシャはどうした」
「ミーシャ様はちょうど今、お眠りになったばかりでございます」
マディソンという使用人に抱き上げられ、ベビーベッドのある方へ連れて行かれる。
「天使のような寝顔だな」
そこを覗き込んだ魔王の相好が崩れ、鳥肌が立った。
なんという恐ろしい顔だ!
「フェリクス様、公爵家の姫君でミーシャ様です。今はお眠りになっておりますが、お目覚めになりましたら、ご一緒に遊びましょう」
魔王が邪魔でよく見えないが、母上には娘もいたらしい。
「ベルに良く似ている……」
「将来は奥様に似て、絶世の美女に成長なされますよ」
「……悪い虫が付かないか心配だ」
まだ赤子だろうに、この魔王、今からそんな心配をしているのか。魔王も人の子だったという事だな。
魔王は暫く娘の寝顔を眺めた後、「では頼んだぞ」と出ていったのでホッと息を吐く。
「フェリクス様、おもちゃで遊びましょうか」
「もちゃ!」
良かった。このマディソンという使用人は、良い人そうだ。
しかし絶対鑑定してはならない。後悔するから。
こうして、私はミーシャという公爵家の姫の部屋で、主の顔を見ることもなく、おもちゃで遊んでいたのだ。
「ばちゃ、うみゃ、ひひーん!」
「よくご存知ですね」
「ぺーちゃ、ちってりゅ! わんわん、ワンワン! にゃんこ、にゃーにゃー!」
「まぁっ、お上手です」
ふふんっ、私は頭脳が大人だ。
「ふぇ……っ」
おもちゃが楽しすぎて、遊ぶのに必死だったその時、
「ふえぇ~っ」とベビーベッドから泣き声が聞こえ、ビクッと身体がはねた。
「ミーシャ様がお目覚めになったようです」
「おみぇざ……にゃいてりゅ……」
よしよしとベッドから抱き上げられた赤ん坊は、マディソンがあやすとすぐに泣き止んだ。
「ミーシャ様、フェリクス様でございますよ」
マディソンの腕の中には、天使がいたのだ。
1,299
お気に入りに追加
8,660
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる