継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ぺーちゃん 〜

番外編 〜 ぺーちゃん、ミーシャとの邂逅1 〜

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教皇フェリクス視点


「みゃおー!!」

本日からクレオが一週間、遠出しなければならないので、長距離を馬車で移動するのは2歳児の私には耐えられないという事、そして反教皇派の動きが怪しいという理由もあり、一週間ほどディバイン公爵邸に預けられる事になった。

つまり、この一週間は母上の膝で、美味しいおやつを食べながら、ノアとアベルとフローレンスとおもちゃで遊べるのである。

クレオも、「温泉、楽しみですなぁ」とか言っていたから、お互いリフレッシュ出来るなと、嬉々としてやってきたら、出迎えたのが魔王だった。

「いつも猫のような鳴き声を出す赤子だな」

魔王と叫んでいるんだ!

「ディバイン公爵、ご無理を言いまして、申し訳ありません。フェリクスの事を、よろしくお願いいたしますぞ」
「承知した。大司教、代わりに以前に言った通り、頼むぞ」
「わかっております」

な、なんだ!?
魔王とクレオが悪い顔をしているぞ!?

「ぺーちゃん、公爵家の人たちに迷惑をかけないようにするのですぞ。おやつは食べすぎないように。それと───」

長々と注意事項を言われて、「それでは公爵、よろしくお願いいたしますぞ」と、やっと行ったクレオを、なぜか魔王の腕の中から見送り、その後無言の時間が続いている。

こ、怖い。何だ、私は殺されるのだろうか!?

「……」
「旦那様、フェリクス様が怖がっておりますので、もう少し笑ってください」

ウォルトという使用人が言うが、笑った方が怖いから止めて!

「かぁちゃ……」
「ベルは今仕事中だ」

魔王から私を救ってくれる母上が、いない、だと!?

「にょあ……」
「ノアは勉強中だ。アベルもな」
「ちょんにゃ……」

魔界だ。ここは今まさに、魔界となった!

「旦那様、フェリクス様をどちらに連れて行くおつもりですか?」
「……ミーシャの所だ。マディソンがいるだろう」

ミーシャ? マディソン??

よくわからぬうちに、公爵の長い足は私をあっという間にある部屋の前へと運んだ。

「入るぞ」

魔王が開けた扉の向こうは……白と淡いピンクとレース、そしてテディの世界だった。

「坊っちゃま、どうなされましたか?」

ぼ、坊っちゃま!?

「マディソン、客の世話を頼む」
「お客人、ですか?」
「この赤子だ」

白く毛足の長い、ふかっふかなラグの上に降ろされ、呆然としていると、

「坊っちゃま、まさか誘拐……」

私は、魔王に誘拐されたのか……っ

衝撃に、思わずぺちゃん、と尻もちをつくが、ふっかふかのラグの上は気持ち良いだけだった。

「大司教の孫だ。遠出するから預かって欲しいと言われた」
「私は聞いておりませんが」
「お前に伝えると、ベルにも伝わる」
「坊っちゃま、奥様に内緒で何をする気ですか」
「誤解だ。ベルはこの赤子が気に入っているから、サプライズしたい……」
「そういう事でしたか。私はてっきり外に子供を作ったとばかり……。といのは冗談ですが」
「そういう冗談は止めろ。吐き気がする」

冷気が魔王から漂ってくる。
この魔王、大人げないほど妻を溺愛しているからな。

「失礼いたしました。お名前は何と仰るのでしょうか?」
「フェリクスだ」
「かしこまりました。フェリクス様、こちらで私と遊びましょう」
「マディソン、そいつは大人の話も理解している。気をつけろ」

なぜ魔王がそれを知っている!? いつからバレていたんだ!?

「それは、賢いお子様なのですね」
「それより、ミーシャはどうした」
「ミーシャ様はちょうど今、お眠りになったばかりでございます」

マディソンという使用人に抱き上げられ、ベビーベッドのある方へ連れて行かれる。

「天使のような寝顔だな」

そこを覗き込んだ魔王の相好が崩れ、鳥肌が立った。

なんという恐ろしい顔だ!

「フェリクス様、公爵家の姫君でミーシャ様です。今はお眠りになっておりますが、お目覚めになりましたら、ご一緒に遊びましょう」

魔王が邪魔でよく見えないが、母上には娘もいたらしい。

「ベルに良く似ている……」
「将来は奥様に似て、絶世の美女に成長なされますよ」
「……悪い虫が付かないか心配だ」

まだ赤子だろうに、この魔王、今からそんな心配をしているのか。魔王も人の子だったという事だな。

魔王は暫く娘の寝顔を眺めた後、「では頼んだぞ」と出ていったのでホッと息を吐く。

「フェリクス様、おもちゃで遊びましょうか」
「もちゃ!」

良かった。このマディソンという使用人は、良い人そうだ。
しかし絶対鑑定してはならない。後悔するから。

こうして、私はミーシャという公爵家の姫の部屋で、主の顔を見ることもなく、おもちゃで遊んでいたのだ。

「ばちゃ、うみゃ、ひひーん!」
「よくご存知ですね」
「ぺーちゃ、ちってりゅ! わんわん、ワンワン! にゃんこ、にゃーにゃー!」
「まぁっ、お上手です」

ふふんっ、私は頭脳が大人だ。

「ふぇ……っ」

おもちゃが楽しすぎて、遊ぶのに必死だったその時、

「ふえぇ~っ」とベビーベッドから泣き声が聞こえ、ビクッと身体がはねた。

「ミーシャ様がお目覚めになったようです」
「おみぇざ……にゃいてりゅ……」

よしよしとベッドから抱き上げられた赤ん坊は、マディソンがあやすとすぐに泣き止んだ。

「ミーシャ様、フェリクス様でございますよ」


マディソンの腕の中には、天使がいたのだ。

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