継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ぺーちゃん 〜

番外編 〜 アベルの正体と教会1 〜 ノア10歳、アベル5歳

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アベルとフロちゃんの、荷馬車脱走事件の翌日のことだった。

「旦那様、教会より手紙が届いております」
「なに、教会からだと……?」

テオ様の元に突然、教会から手紙が届いたのだ。しかも、

「大司教からのようですが……」
「……」

この手紙が、ディバイン公爵家に嵐を巻き起こす事になる。




アベル様に関し、お聞きしたい旨あり。教会側は対話の用意があり。早急に御返事をしていただきたく……───”

「なんですの……これは」
「先ほど、教会から届いた手紙だ」
「テオ様……、“聖人”アベルと書かれておりますわ。……まさか、アベルが治癒魔法を使えることがバレて……!?」

けれど、アベルには絶対に治癒魔法は使わないよう、言い聞かせていましたし、公爵家の使用人の前ですら使ってはいませんわ。

一体どうして……、

「まさか、荷馬車で外に出た時に!?」

テオ様を見れば、眉間にシワを寄せて、苦々しく頷く。

「アベルに確認した。外に出た時に、衰弱した猫がいたそうだ。隠れて治療魔法を使ったと言っていたが……」

目撃されておりましたのね……。

「なんということでしょう……」
「教会側は恐らく、アベルを教会に取り込もうとするだろう」
「っ……あの子はまだ5歳ですわ。それにわたくし、アベルを手放す気はさらさらございませんっ」
「ああ。私も可愛い息子を手放す気はない」

テオ様はそう言ってわたくしを抱きしめてくださいますが、数十年ぶりに誕生した聖人を、教会が諦めるとは思えない。

「大丈夫だ。私が何とかする」


◇◇◇


「私はこの目で見たのです! 奇跡の御技を!!」

教会との話し合いは、教会ではなく、皇城で行われる事になった。
教会側のホームにも足を踏み入れるのは憚られ、ディバイン公爵邸にも入れたくないというテオ様たっての希望だ。

皇帝陛下も皇后様も、事情を知って表情を険しくされていたが、フロちゃんの事については一切触れられなかった。
貴族でないフロちゃんが聖女だと知られれば、有無を言わさず教会に取り込まれるからだ。

そうしてお借りした皇城の一室で、テオ様と大司教が火花を散らしている。

「アベルは治癒魔法など使用出来ない」
「ディバイン公爵、大貴族である貴方が、教会に嘘をつくと……?」
「嘘ではない。アベルは持っていた聖水を猫に飲ませ、猫が回復したと言っている」

テオ様は堂々と嘘を吐き、ナサニエルが『こんなに堂々と嘘を吐く人間、滅多にいないよ』と引いている。
しかし、目撃した神官も引く気はないようで、声を荒らげた。

「違います! アベル様の手が光り、猫が元気になったのです! あれは聖水などではなかった!!」

これは……まずいのではないだろうか。

「貴殿は、見たと言っているが、どこからどのように見ていたのか、お聞かせ願おう」
「……私は、皇城の門の近くに停めてあった馬車の中で、大司教をお待ちしておりました。すると、木陰で蹲っている子供たちを見つけ、調子が悪いのではないか、と心配になり、声をかけようと馬車の扉を開けたその時、アベル様が光り輝いておられたのを見たのです」
「つまり、離れた場所の、しかも馬車の中から遠目に見ており、さらには子供たちの手元すらしっかり見ていたわけではないという事だな」
「そ、それは……っ、しかし、アベル様が光り輝いておられました!」
「太陽光が偶然、木々の間に差し込んだだけだろう。人間が光るなどあるわけがない」

て、テオ様、容赦のない言葉ですわ……。ここまで冷たく、人を見下すような言い方をされるテオ様を見るのは久々で、わたくしの胃がヒュッとなりますわ。

『テオ、怖いよ……』

ナサニエルも怯えておりますから、当事者はもっと恐ろしいはず……。ああ、やっぱり顔面蒼白になっておりますわね。

「ディバイン公爵は、彼が見間違えたと主張なさるか……」

神官の前にあるソファに座る大司教は、落ち着いた様子でじっとテオ様を見、そしてわたくしに目を移したのだ。

「ディバイン公爵夫人」

その目は真実しか話す事を許さないというように、真っ直ぐこちらを射抜き、逸らすこともできない。

大司教と言われるだけあり、清潔感のあるしかしほっそりとした老人で、一見弱々しくも見えるのに、威厳がある。

「あなたがお産みになったアベル様が、聖人であるというのは、とても素晴らしい事だとは思いませんかな?」
「……聖人であるのなら、それはとても栄誉ある事だと思いますわ」
「あなたも、アベル様は聖人ではないと?」
「少なくとも、わたくしや夫の前では治癒魔法は使った事がございませんし、使用人からもそのような事があったとは聞きません。おもちゃが大好きでやんちゃな、普通の子供ですわ。そんな息子が、聖人だとはとても思えません」

大司教は、暫くわたくしを見つめると、「そうですか」と目を閉じたのだ。

「ところで夫人、あなたは何者なのでしょうか」

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