継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ぺーちゃん 〜

番外編 〜 アベルの正体と教会2 〜 ノア10歳、アベル5歳

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「大司教、イザベルは私の妻だ。何者とは一体どういうつもりか」

大司教の言葉にテオ様が目くじらを立てると、大司教は表情を緩めて「これは、失言をお許しください。ディバイン公爵夫人」と謝罪され、先ほどの言葉の意味はどういう事なのかと首を傾げる。

あなたは何者かと問われたけれど、わたくしの身分は明らかだし、何が言いたいのかわかりませんわ……?

「実は私は、昔から“視える者”でね……ここにやって来た時から、あなたの肩に小さな光が、そして公爵と夫人の間に大きな光が見えているのですよ」

は……?

「70年以上前……、私がまだ子供だった頃、私は神官見習いだったのだけれど、この能力を買われ、聖女様の身の回りのお世話をさせていただいていましてね」

にっこり笑い、大司教はこう言ったのだ。

「聖女様にも、小さな光が寄り添うようにしてあったのを覚えているのです」
「今度は妻を聖女だと言っているのか」
「聖女様は仰っておられた。あなたに見えているこの光は、妖精様だ、と」
「馬鹿馬鹿しいにもほどがある話だ」

テオ様の顔は険しくなり、後ろにいた神官の表情がはわわっと何とも言えないものになっている。

恐らく、肩に乗る小さな光はチロの事で、テオ様とわたくしの間にいるのはナサニエルの事だわ。

『僕らの声や姿は見えていないけど、オーラみたいなものを感知する能力があるのかもしれない』

ナサニエルの話が聞こえたであろうテオ様は、険しい表情のまま大司教を睨みつけている。

「大司教、例えばあなたにそのような能力があったとしよう。しかし、教会側が言うには、妖精様はどこにでもいるのだろう。私の妻はとても心の美しい女性だから、妖精様が寄って来たとしても驚きはしない」

テオ様!? そんなことを恥ずかしげもなく言うなんて!

自分の夫の言葉に恐れおののいていれば、大司教はにっこりと笑い。

「なるほど。公爵の言う通りかもしれませんね。アベル様も聖人という確固たる証拠もないわけですし、今回は我々が引きましょう」
「大司教!?」
「さぁ、教会に戻ろうか」
「しかし……っ」

え、案外あっさり引いてくださいましたわね……。

戸惑いつつテオ様をみれば、無表情に戻っており、互いに立ち上がる。

「皇帝陛下、本日は皇城の一室を貸していただきありがとうございました。神官がお騒がせいたしました事、謝罪いたします」
「う、うぬ? 誤解が解けたのならば良かったのだ。せ、聖者の誕生は皇室にとっても大事だからな。慎重に事を見極めねばならぬ。大司教の判断、朕は間違っておらぬと思う」

今の今まで、影を薄くして話を聞いていた皇帝陛下が、目を忙しなく動かしながら、うんうんと頷いている。

「有り難いお言葉でございます」

にこにこと、陛下の肩にいる妖精を見ながら礼をする大司教に、顔が引きつった。

そうでしたわ。皇帝陛下にも小妖精が一人付いておりますのよ! しかも最近、焔の妖精王と仲良くされているようですし……。

陛下こそが聖者認定されてもおかしくない状況ですわね。

「公爵、今度はぜひ、アベル様ともお話をさせていただければ嬉しいのですがね」
「あの子はまだ5歳。礼儀もなっていないので、大司教に失礼があってはならない。申し訳ないが、それは難しいだろう」
「おや、子供の礼儀に目くじらを立てる年寄りだと思われているのだろうか……」

バチバチですわ!
もう、早く帰ってくださいまし!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「教皇猊下、只今戻りました」
「……」
「やはり、猊下の仰るように、イザベル・ドーラ・ディバインに秘密があるようですぞ」
「……」
「大丈夫です。聖者は必ずや教会に───」

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