継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
99 / 186
番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの母2 〜 ノア5歳、イザベル臨月

しおりを挟む


わたくしの母、セレーネ・ヘカテイア・シモンズは、今思えばとても矛盾している人だった。

貴族ではないと言いながら、皇后様が仰ったように、高位貴族の礼儀作法は完璧にマスターしており、それを自然に扱う方であったし、わたくしもそうとは知らずに教えこまれていた。
ピアノだって、考えてみたら庶民が嗜むものではないし、母はバイオリンだって弾く事も出来た。
勉強も、オリヴァーに教えていたのは母だ。

とにかく何でも出来る人で、わたくしたちにとってそれが当然だったから、特に何かを思う事もなかったのだけど……。

よく考えたら、わたくし、お母様がどこの出身か、お母様の両親、親戚、何も知りませんわ。

そう思って父に改めて聞いたら、

「知らないって……どういう事ですの?」

父の予想外の言葉に首を傾げる。

「……いつかイザベルにもオリヴァーにも話さないといけないかなって思っていたけど……、そうだね、私とセレーネがどんな風に出会い結婚したのか、少し聞いてもらおうかな」
「お父様?」
「もちろんディバイン公爵、あなたも聞いてください」

わたくしの隣にいたテオ様は、お父様の言葉に瞳をほんの少し見開いた。

「義父上、よろしいのですか?」
「もちろんです。妻の話を、二人に聞いてほしい───」



◆◆◆



「───はぁ……今日は風が少し冷たいなぁ。よしっ、霜が降りる前に耕してしまわないとね」

シモンズ前当主である伯父が寝たきりになってから、従兄弟は借金まみれの伯爵家を継ぐ事を嫌がって家を出て行き、結局伯父は私を後継者として養子に迎えたんだ。

伯父に変わって領地経営を始め、火の車の伯爵家の内情にほとほと困っていたそんな時だった。

彼女と出会ったのは。

「カーラ、見てください! あそこに土を掘ってる人がいますっ」
「セレーネ様、あまりはしゃぐと転びますよ」
「まぁっ、わたくしそんなにドジっ子じゃありません!」
「はぁ……、セレーネ様、残念ながらあなた様は自分が思っているよりドジっ子ですからね」

楽しそうな声が聞こえて顔を上げたら、ちょうど彼女と目が合ったんだ。

なんて美しい女性なんだろう……。

その時にはもう、私は恋に落ちていたんだろうね。
彼女……セレーネから目が離せなくなってしまっていたよ。

セレーネは、サリーの母親のカーラと共に歩いていて、目が合った私に声をかけて来たんだ。

「ねぇ、そこのあなた。この畑には何を植えるのですか?」
「ぇ、あ……い、芋をっ、植えます……」
「お芋を植えるのですか! カーラ、お芋ですって」

私の話を聞いて、カーラと楽しそうに話している時、セレーネのお腹が鳴ってね。彼女は顔を真っ赤にさせて……、フフッ、とても可愛らしかったよ。

「よろしければ、私のパンとスープを差し上げます」
「え!? そんなっ、あなたのお食事ですよね!?」
「かまいません。とはいえ、硬いパンと具も入っていないようなスープで申し訳ないのですが」
「まぁっ、パンが硬いのですか!? そんなパンは初めてですっ、素敵!」

セレーネは昔から、よくわからない事で喜んでいたからね。硬いパンもセレーネにとっては嬉しかったのだろう。最初は遠慮していた彼女も、結局はニコニコと食べていたよ。

余程芋の成長が気になったのか、それからというもの、彼女は何度か畑に遊びに来てくれてね。セレーネも、だんだんと私に好意を抱いてくれるようになったんだ。
私たちが恋人になって半年程経った頃、私が正式に伯爵家を継いだ直後に、思いきってプロポーズをしたら、彼女はとても困惑していたよ。

「エンツォ、でもわたくし、貴族ではないのです」
「そんな事は関係ないよ。君が何者だってかまわない。どうか、私の妻になって……お願いだよ。セレーネ」
「……エンツォ……っ、はい……っ」

セレーネがどこから来て、どういう身分の女性なのか、彼女は語ろうとはしなかった。私も、何も聞かなかったよ。聞いてしまえば、彼女が私の前から消えてしまうと、そう思ったから……。

そして、セレーネはカーラと、その娘だという女の子、とうじ3歳くらいだったかな。サリーを連れて伯爵家に嫁いで来たんだ。

暫くして、セレーネにそっくりな君が生まれ、そしてオリヴァーが生まれ、とても幸せだった。

けれど、彼女は私を置いて逝ってしまった……。

突然だった。確かに身体が強い方ではないけれど、それでも亡くなるような病気にもかかっていなかった。なのに、どうして……?

結局原因はわからずじまいで、後はイザベルも知っての通りというわけだ。



◆◆◆



「───お父様、それではお母様の親族も、身分すら、一切が不明ですの?」

父と母の出会いを聞き、愕然とする。

「そうなるね。もしかしたら、カーラは知っているかもしれないけど」
「義父上の話だと、本人が貴族ではないと言っているだけで、庶民とも考え難いが……」

テオ様は、やっぱりわたくしの血筋が気になるのかしら……。半分でも出身がわからない者の血が流れていると、公爵家に相応しくないと思われていたらどうしましょう。

「ベル、私は義父上の気持ちがよくわかる」
「え?」
「私も、ベルがベルであるなら、血筋などどうでも良い」
「テオ様……っ」

わたくし、あなたに嫁ぐ事が出来て、本当に幸せですわ。

しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

処理中です...