継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
95 / 187
番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 シモンズ伯爵の事情2 〜 ノア5歳、イザベル出産間近

しおりを挟む


『イザベル様! 大変よっ』

父が来た日の夜だった。お風呂の後、おじいさまと一緒に寝ると、嬉しそうに客室へ行ってしまったノアにショックを受け、息子がいない寝室で寂しい気持ちになりながらテオ様を待っていた時だ。突然チロが叫び、びっくりして声を上げそうになった。

「な、何事ですの!?」
『イザベル様! エンツォ・リー・シモンズ伯爵に対して、当主の座を不当に奪ったと主張する者が、裁判の許可を皇室に求めて来てるのよ!』

皇后様!? 妖精通信ね。びっくりしたわ……って、

「はぃ? 今なんと仰いましたの!?」
『あなたの父親が、シモンズ伯爵家の当主を不当に継承しているって、裁判を起こそうとしているバカがいるのよ!!』

何ですって!?

「不当に継承って、そんなわけありませんわ! あんな貧乏伯爵家を継ぐ人がいないから、父は仕方なく当主になりましたのよ!?」
『それは少し前の話でしょう。今のシモンズ伯爵家は、名実ともに、名家よ!』
「ですが、突然裁判だなんて、そんな無茶苦茶な事出来るわけが……」
『それがね、調べてみたら、この訴えてきている人物、イザベル様のおじい様のお兄様……前当主の息子らしいのよ。シモンズ伯爵からすれば、従兄弟にあたるわね』
「え!? ウチに親戚なんていましたの!?」

今の今まで姿を現す事も、名前を聞く事もなかったのですけど!? てっきり全員亡くなった、もしくはシモンズと縁を切ったものだとばかり思っておりましたわ……。

『名前はイルデブランド・ウーゴ・シモンズ。今はイルデブランド・ウーゴ・バルバーリと名乗っているわ。バルバーリは母方の子爵家の姓ね』
「そうですの。バルバーリ子爵家が親戚だったとは初耳ですけれど」
『偽装を疑ったけれど、本当にシモンズ前当主の息子みたいよ』
「それで、その方はどのように主張されているのでしょうか」
『そのバカは、シモンズ伯爵家の前当主の息子である自分こそが、本当の後継者である。エンツォ・リー・シモンズは、後継者である自分が帝都にいるのを良い事に、病気の父に無理矢理当主の座を譲るよう脅迫し、当主となった。したがってこれは不当行為であり、当主の座をすぐに明け渡すべきである。なんて事を主張しているわ』

そんな滅茶苦茶な事、通るわけがない。
父は脅迫どころか、借金だらけの伯爵家の当主の座を押し付けられたに等しいのだから。

「そのようなおかしな主張が通るわけございませんわ」
『それがね、証拠があると言い出しているのよ』
「証拠……?」
『前当主が、イルデブランド・ウーゴ・シモンズに伯爵家を譲ると書いた書面が残っているの。こちらも調査した結果、本物だという事がわかったのよ……』

大方、前当主は最初に息子を当主に指名し、借金だらけの伯爵家など継がないと逃げられたのだろう。そして、残った父に当主を託して亡くなったというのが真相だと思われる。

「こちらにも、父が伯爵家当主を継いだ際に、皇室に提出した書面があると思うのですが」
『もちろんあるわ。ただね、日付を確認したところ、イルデブランド・ウーゴ・バルバーリの持っている書面の日付の方が新しい事がわかったのよ』
「ありえませんわ!」
『アタシもそう思うわよ。何か裏があると思うけど、当主の印章が押されているのよ……これじゃあ、裁判になった時勝てないわ……』
「そんな……っ」

このままでは、シモンズ伯爵邸が他の人の手に渡ってしまいますわ……っ。あの場所は、母との思い出が詰まった場所だというのに……。せっかくお父様が元気になってきた所ですのよ。あの場所を失ったら、今度こそお父様は、生きる気力をなくしてしまいますわ。

「何とかしなくてはなりませんわね。皇后様、その書類、確認させていただく事はできまして?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「上手くいったな。印章を親父に見せてもらった事があって良かったよ。まさかエンツォも、私が偽の印象を持っているとは思わないだろう」
「しかし、すぐにバレるのではありませんか? 皇室に印章登録しておりますし」
「ハハッ、私は正当なる後継者だぞ! 印章は何度も見た事がある。本物そっくりな印章を作らせるのなど、造作もない事だ」
「そうですか」
「裁判に必要な書類も揃えているし、抜かりはない。近々皇室からも返答があるだろう」
「はい。イルデブランド様が、シモンズ伯爵家当主になるのも時間の問題ですね」
「そう! 子爵などという地位は、高貴な私にはそぐわんのだ!」

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

処理中です...