94 / 187
番外編 〜ノア5歳〜 〜
番外編 〜 シモンズ伯爵家の事情1 〜 ノア5歳、イザベル出産間近
しおりを挟む「何!? 新素材を開発したのは、エンツォの娘だと……っ」
「はい。ディバイン公爵家に嫁ぎ、現在妊娠中との事です。数々の事業を手掛けているようで……あの“おもちゃの宝箱”のオーナーもイザベル・ドーラ・ディバインだと……」
「おもちゃの宝箱……、帝都にも支店のあるあの子供用品の店か」
「どうなさいますか?」
「まぁいい。シモンズ伯爵家が持ち直した今、新素材の権利が伯爵家にあるのならば……、シモンズの正当な後継者である私こそが、当主となるべきだろう」
「では……」
「ああ。エンツォから、私のあるべき場所を奪い返してくれるわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イザベル視点
「お父様!? 突然どうされましたの!?」
読書をしていると急に、メイドからお父様が公爵邸に来たと聞き、慌てて玄関まで迎えに出ると、父はニコニコと挨拶をし、「会いに来たよ」と言うので、呆気に取られてしまう。
先触れも何もございませんでしたわよ!?
「お仕事は大丈夫ですの?」
「ああ、問題ないよ。実はね、可愛い孫と娘の様子を見に来たのがメインだけれど、今日はディバイン公爵と事業の話があるんだ」
「まぁっ、ではテオ様はお父様が来ることをご存知だったのですね!」
わたくしの横にいるテオ様に顔を向けると、
「君を喜ばせたかったんだ」
と悪戯が成功したような顔で笑っているではないか。
「もうっ、仰ってくだされば良かったのに。本当に驚きましたのよ」
「イザベル、私がディバイン公爵に黙っていて欲しいとお願いしたんだ。びっくりさせたくてね」
そう言って片目をつぶってみせる父に驚いた。
こんなお茶目な事をするお父様を見るのは久々ですもの。
お母様が生きていた頃は、一緒になって、よくわたくしたちに悪戯をしかけてきていたっけ……。
「もうすぐ臨月だから、一度様子も見たかったんだ。可愛い孫にも会いたかったしね。元気そうでよかったよ」
「皆良くしてくださいますの。そういえば少し前にテオ様と……」
「イザベル、義父上をいつまでも玄関先に立たせておくわけにもいかないだろう。リビングに案内してから、ゆっくり話すと良い」
テオ様にそう促されて、「そうですわね」と慌てて父をリビングへと案内する。
父に「君は相変わらずだねぇ」と笑われてしまい、少し恥ずかしかったわ。
「お父様、今日はお泊まりになるのよね」
「ああ、ディバイン公爵にはそのように仰っていただいているよ」
「でしたら、シェフにお父様がお好きなお料理を作ってもらいますわね!」
「無理を言ってはダメだよ?」
「ウチのシェフは腕がとても良いので大丈夫ですわ!」
「イザベル、君はもうすぐお母さんになるのだから、少し落ち着きを持たないといけないよ」
「まあっ、お父様、わたくし落ち着いておりますわ! ねぇ、テオ様」
ミランダに息子を呼びに行ってもらっている間、三人でおしゃべりをしていれば、お父様が子供扱いしてくるものだから、テオ様に援護してもらおうと話を振ったのだけど、
「……ベルはそんな所も可愛いので」
「どういう意味ですの!?」
ちょっとテオ様! 目をそらさないでくださいませ!
「夫婦仲が良くて安心したよ」
お父様は優しい瞳で、「孫がもう一人生まれたら、ますます賑やかになるんだろうね」と微笑んでわたくしたちを見ていた。
「おじいさま!」
『エンツォだー!!』
「やぁノア、久しぶりだね」
暫くしてノアがリビングにやって来て、お父様は嬉しそうにノアを抱っこすると、従者に目配せをして何かを持って来させる。
「ノア、先日おじいちゃんのお家に、他国から商人が来たんだよ」
「たこく……?」
「他所の国の事だよ。そこの商人がね、珍しい雑貨を売っていたから、ノアへのお土産にと思って持ってきたんだ」
「おみあげ!」
『おみやげなにー!!』
「これだよ。開けてごらん」
「はい! おじいさま、ありがとぉ」
『エンツォ、ありがと!! ノア、はやくあけてー!!』
ノアはお礼を言うと、嬉しそうに箱を開けている。
包装したものを、一人で開けられるようになったのね……。子供の成長は早いですわ。
そして出てきたのは……、指先ほどの大きさの、木彫りでできた、小人の人形だった。
「わぁ! ちいさな、おにんぎょう!」
『こびとー!!』
「妖精様の形を模した人形らしくてね。ノアは妖精様が好きだから、こういう人形も喜ぶかもしれないと思ったんだ」
「すき!」
『これよーせーちがう!! アオ、もっとかわいー!!』
文句を言うアオとは正反対に、喜ぶノアを見て、お父様は幸せそうに笑っている。
この時は、お父様のこの笑顔が曇るような事が起こるなんて、思ってもみなかったのだ。
1,304
お気に入りに追加
8,614
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる