継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 氷の大公のお土産選びとウォルトの受難 〜 イザベル妊婦初期

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ウォルト視点


“氷の大公”とは、ディバイン公爵家当主、テオバルド様の二つ名ですが、奥様と出会ってからの旦那様は、氷の大公どころか、氷を溶かす勢いで奥様に熱を上げています。
今や、氷のこの字もない有様だと、この時の私は勘違いしていたのです。

「ウォルト、なぜ私の執務室にメイドがいる……」

それは、皇城の旦那様の執務室に、メイドが入り込んだ事がキッカケでした。

「申し訳ございません。すぐに処理いたします」
「なぜ、ここにメイドを入れたと聞いている」

絶対零度の眼差しと、凍りつくような怒気に、当のメイドは失神し、護衛の騎士たちは顔を真っ青にしています。

「私の失態です」

最近は奥様付きのミランダや、ノア様付きのカミラ、そして私の母マディソンが奥様と共にやって来る事があるからか、護衛も気を緩めてしまったのでしょう。

「次はないぞ」

忘れてはいけません。

「いつまでもソレを放置するな。二度と私の前に姿を見せぬよう処理しておけ」

この方は、変わらず“氷の大公”なのです。奥様とノア様以外の人物には。

ゴミ虫を見るような目で、失神したメイドを一瞥すると、すぐに書類へと目を移されました。

部屋の温度は、震えがくるほどに下がっております。

「はい」

このメイドは、もう二度とメイドとして雇われる事はないでしょう。

しかし、2日間奥様と会えていないからか、旦那様の機嫌が悪い時に、このような事が起こるとは、タイミングが悪いですね。

「旦那様、本日は一度領地にお帰りになられるのはいかがでしょうか。奥様もお寂しい思いをされているかと思います」
「やはりそう思うか?」

私の言葉にピクリと反応された旦那様は顔を上げ、私をご覧になりました。

「妊娠中は特に不安に感じる事も多いと聞きます」

旦那様は羽根ペンを置くと、ふーっと息を吐く。

「妻が心配だ。皇后に転移を頼もう」
「かしこまりました。皇后陛下への面会の申し込みをしておきます」

すると、今まで下がっていた部屋の温度が通常に変わったのです。表情は変化しておりませんが、わかりやすい事です。

「旦那様、奥様への手土産はいかがいたしましょうか」
「そうだな……菓子……とも思ったが、悪阻で食べる事も難しいだろう。心の和むものを渡してやりたいが……」
「花でしょうか」
「いや、花は前にノアが渡していた。別のものがいいだろう」

そうは言っても、帝都で話題になっているものといえば、そのほとんどがベル商会関連のものですからね……。

「……そうですね。では、ストールはいかがでしょうか。丁度、上質なシルクの産地で有名な、レプリック国の商人が、皇后陛下に献上品を持ってやって来ております」
「今すぐ商人を呼べ」

我ながら良い提案が出来たと、思っていたのですが……、

「やぁ~ん、良い男ぉ! 眼鏡男子はアタシのこ・の・みっ」

レプリック国の商人が、女装した大男だとは思ってもみなかったのです。しかも、なぜ私に馴れ馴れしくしてくるのでしょうか。

「ふむ……どれも上質な触り心地だ」

旦那様、見えていますよね? どうして目に入っていないフリをするのですか。

「ねぇん、この後、アタシとディナー、ご一緒しなぁい?」

絶対しません。

「私のベルは何でも似合うから迷ってしまうな……」

旦那様、お願いですから早く選んでください。

「あらぁん? もしかして、照れてるのぉん?」
「一切照れておりません。離れていただけますでしょうか」
「んまっ、そんな冷たい所もイイわぁ~ん! あなたお名前教えてくださる?」

旦那様、先程のメイドの時のように、絶対零度の表情で怒気を放っていただけませんか。今すぐに。

「ベルの瞳の色か、それとも私の……」

先程のメイドの件の事をまだ怒っていらっしゃるのですか。

「あなたってなんていうか、恋愛に疎そうな所が、イ・イ・ワ」

ふっと耳に息をかけてきた男にゾッとする。

「旦那様、奥様は早く旦那様に帰ってきてもらいたいと思っています」
「そうだな。おい、この青と紫、金色と……銀のストールも貰おうか」
「はぁ~い、お買い上げありがとうございますワ! そうそう、こちらのストール留もご一緒にいかがでしょう? 御婦人に大人気ですのよぉ」
「そうだな。そちらも貰おう」

はぁ……。一体この商人はなんなのでしょうか。

奥様の為に様々なストールを手に入れた旦那様は、目に見えてご機嫌です。きっと領地に戻られたら、奥様の所へ真っ先に行き、ストールを渡してイチャイチャする気でいるのでしょう。

女嫌いだった事が嘘のようで何よりですが、もうレプリック国の商人はお呼びにならないでいただきたいものです。


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