継母の心得 〜 番外編 〜

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番外編 〜 練習しましょう 〜 イザベル出産間近

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イザベル視点


「わたくし、テオ様にお願いがあるのです」

わたくしの言葉に、夫は一見無表情に、だが口の端を微かに上げ、わたくしを抱きしめながら言ったのだ。

「君の願いなら何でも叶えよう」
「では、パパママ教室の練習に付き合ってくださいませ!」
「ん……?」



子育て支援センターで行う、パパママに向けた赤ちゃんの知識を勉強するパパママ教室。
もうすぐ出産するわたくしも、ぜひ夫に、一緒に勉強をしてほしいと考え、パパママ教室で教える事を練習したいとお誘いした次第なのだ。

「子育て支援センターで講師をするのは、ベルではないだろう?」
「何を仰っていますの。その講師陣に何をどう教えるのかを伝えるのはわたくしですのよ」
「そうは言っても、君は妊婦なんだぞ。無理をするのは看過出来ん」

腕まくりをしながらぶつぶつ言うテオ様に、「坊っちゃま、往生際が悪うございますよ」とマディソンからの注意が入った事で、分が悪くなる。

「さぁテオ様、今から赤ちゃんをお風呂に入れる練習を、わたくしと一緒にいたしましょう!」

旦那様とこういう練習ができるだなんて、幸せですわ!

「それはいいのだが、赤ん坊はいないだろう? どうするんだ」
「本物の赤ちゃんで練習はさすがに出来ませんので、この赤ちゃん人形を使用しますわ!」

新素材でリアルに作った人形、“エンジェルドール”をミランダから受け取り、テオ様にお見せすると、あまりのリアルさにびくっとするのでフフッと笑い声がもれてしまう。

「本当の赤ちゃんのようでしょう。お人形作家の先生が作ってくださいましたのよ。素晴らしい出来ですの!」
「あ、ああ……まるで生きているようだな」

引いてますわね。

「テオ様、このエンジェルドールは男女の二人がおりますの。ですので、テオ様は男の子を、わたくしは女の子をお風呂に入れてみましょう。もちろん講師はマディソンですわ」
「……」

あらあら、お顔が強張っておりますわ。

「この子が生まれたら、テオ様とお風呂に入れてあげたいのです。おむつも変えたいですし、お世話をたくさんしたいですわ」
「使用人がいるというのに、自分でやるつもりなのか」
「もちろん使用人に助けてもらいながらお世話をしますのよ。だって子育てってきっと大変ですもの。周りに助けてもらいながら、あなたのように素敵な大人に育てていきたいですわ」
「ベル……っ、ああ。私も出来る限りの事をしよう。君の望みは全て叶えると約束したしな」
「フフッ、叶えてくださいましね。テオ様」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



テオバルド視点


私の妻はなんと可愛い女性ひとなのだろうか。愛おしすぎて心臓がもたない。

こんな笑顔を見せられたら、望みを何でも叶えたくなってしまうではないか。

「奥様、お上手ですよ。もしかして経験がございますか?」
「実は一度だけ、友人の子供をお風呂に入れるのをお手伝いした事があるのですわ」
「そうでしたか。ですから手際がよろしいのですね。……坊っちゃまは……、身体が固まっておりますね。それに、赤ちゃんの頭を握り潰す気でございますか? 頭が縦に伸びておりますよ」

くっ、赤ん坊の頭が小さすぎて、力の加減が……っ

「坊っちゃま、力を抜いてください。頭から首にかけてを支えるようにして、手の枕を作って上げるのです。絶対に頭を握ってはいけません」

手の枕……こうか?

「テオ様、とてもお上手ですわ!」

妻に褒められると嬉しいものだな。

「───では、次はオムツ替えです。こちらはスライム生地を使用した新たなオムツという事で、私も初めて扱うものです。使用方法は奥様に教えていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ。このオムツはスライムを加工した生地なのですが、肌を清潔に保ってくれる効果と、保湿効果、そして防臭効果がございますの」

スライムを生地にするという、普通では思いつかないような発想で、画期的なものを作ってしまった妻は、嬉しそうにマディソンへ説明している。
自分がどれほどのものを開発してしまったのか、自覚していないのだろう。

新素材にレール馬車、スライム生地、どれ一つとっても革命が起きるものだというのに……。

影によれば、ベルを拐おうとする虫が湧いているらしい。
ベル付きの影を増やしてはいるが、心配でならない。

「一瞬で水分を吸収してくれるので、最大で3日オムツ替えをしなくても清潔に使ってもらえるのですけれど、大きいものが出てしまった場合、水分はなくなりますが、その……残骸がオムツに残ってしまいますの。ですからそれだけは処理しなくてはなりませんのよ」

私にも以前説明してくれた事を言い終えると、ノアも時折する、自慢気な顔をする。それが愛らしく、抱きしめたくなるのだ。

「奥様、これはとても画期的でございますね。なんと素晴らしいのでしょうか」

いつも冷静なマディソンは、口を押さえてほんの少し興奮している。

「そうでしょう。スライムはすごいのですわ!」

すごいのは君だろう。

「この生地で作ったオムツには二種類ありますの。テープタイプとパンツタイプで、このテープタイプはねんねの赤ちゃんに、パンツタイプははいはいできるようになった赤ちゃん用に作りましたのよ。まずこちらのテープタイプは……このように赤ちゃんのおしりの下に敷いて───」

慣れた手付きで人形にオムツを履かせるベルに見惚れていれば、

「坊っちゃま、見惚れてしまうのはわかりますが、オムツ替えをしっかり出来るようにならなければ、奥様に呆れられてしまいますよ」

マディソンから辛辣な言葉を投げつけられたのだ。

「わかっている」と答えたものの、人形では出来るが、実際の赤子だと自信はない。

しかし、ベルの頼みだからな……。

「やってやれぬ事はない」
「まぁっ、テオ様素敵ですわ!」

愛妻に声援を送られながらのオムツ替えも、悪くない。



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