継母の心得

トール

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第二部 第4章

489.花の道標

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翌日───

ロギオン王国の王は確か、今の王の祖父である二代前の王が平等を掲げ、社会主義国になったのだったかしら。で、十年前に今の王に変わってからより、拍車がかかったのよね。
確か、現王のお妃様は二年前にお亡くなりになって、お子様はいらっしゃらなかったはず。王族はどういうわけか、現王と王女のお二人しかいらっしゃらないとか。

「おかぁさま、アオとチロが、ふりゅえてるの……」
「え?」

ノアがチロを両手に乗せ、アオをお腹にぶら下げて(アオがノアに抱きついて離れない)わたくしの元へやって来ると、心配そうに目を潤めた。

「チロ、アオ、どうしましたの? 何か怖い事でもありまして?」

ノアの言う通り、チロはノアの手の中で小さく丸まって震え、アオはノアのお腹にしがみついて震えているではないか。

妖精たちがこんなに怖がるなんて……

「おかぁさま、アオとチロ、どちたのってきいても、なんにも、おはなち、ちてくれない……」

ノアの潤んだ目から、大粒の涙がポロリと零れる。慌てて妖精たちごと抱きしめ、落ち着くまで背中をポンポンしていたのだ。


「……眠ってしまいましたわね」

結局、どうして怖がっているのかわからないまま、妖精たちもノアも、眠ってしまった。

「奥様、妖精様が怖がっているんですか?」

カミラが、ベッドに移動したノアに布団を掛けてあげながら、わたくしを見るので頷く。

「どうしてこんなにも怖がっているのか、聞けずじまいで眠ってしまいましたの……」
「あの、もしかして……ですが、ロギオン王国の王女様がいらっしゃるからではありませんか?」
「え?」

確かに、カミラの言うように王女様が我が家に来てから、様子がおかしかった。

「もしかしたら、暴力を受けた女性を見たのが初めてで、ショックを受けてしまわれたのではないでしょうか……」
「そうですわね……。王女が来た時に、妖精たちの叫び声が聞こえましたわ。まさか女性の顔をあんなに腫れ上がるまで殴るだなんて、妖精たちでなくてもショックを受けてしまいますわよね」

ウチのメイドたちも、かなりショックを受けておりましたもの。純粋無垢な妖精たちには、相当な衝撃だったのでしょう。

「妖精たちが、ノアにも話さないわけですわ」

ノアの頭の横で眠っているチロとアオの涙も拭ってあげながら、ロギオン王国の王女の事を考える。

朝食も、スープを数口召し上がる程度だったと聞くし、朝診察した医師が言うには、部屋からも出られる状態ではないとの事でしたわ。もしかしたら、足の骨が折れていたか、ひびが入っていたのかもしれない……。

「ミランダ、お父様は、王女様の所に様子を見に行っておりまして?」
「はい。今朝、医師と共に入室されておられました」
「そう……。テオ様はまだ帰っていないようですが、何かあったのかしら?」
「旦那様は、奥様とノア様が眠られた後にオリヴァー様と帰って来られましたが、早朝に皇城へ向かわれました」

帰って来られたのね。よく考えたらわたくし、王女様が大怪我されておりますのに、熟睡しておりましたわ。

「念の為、本日はウォルト執事長がノア様と奥様のおそばにいるそうですので、もうすぐ現れる……いえ、お越しになると思います」
「お呼びでしょうか」

いつの間にそこにいたのか、開いた扉の前で姿勢良く立っているウォルトに、心臓が口から出かけた。

「扉が開いておりましたので、お声をかけさせていただきました。驚かせてしまったようで、申し訳ございません」

ウォルトから謝罪を受けていたその時、

「にゃ!」

気のせいかしら? ぺーちゃんの声がどこからか聞こえてきますわ。確かマディソンとお庭の散策中だったはず……

「かぁちゃ、ぉ、はにゃ!」

ウォルトの足の影から出てきたぺーちゃんが、手に持っていたしおしおの草? 二本をわたくしに見せる。
ウォルトは少し驚いたようだが、スッと横にずれ、膝をついて、ぺーちゃんを威圧しないよう待機する。

「おはにゃ……? まぁっ、ぺーちゃん、お母様にお花を持ってきてくれましたのね!」
「ぁい! ……にゃ? ぉ、はにゃ……にゃい!」

あら、ぺーちゃんったら、お花がないと慌てだしましたわ。どこかに落としたのかしら?

「ぺーちゃん様、廊下に点々と、お花を落としておりましたよ」 
「にゃ!?」

マディソンが可愛くてたまらないというような笑顔で、ぺーちゃんの落とした花を拾い集め、手に握らせてあげている。なんて微笑ましいのだろう。

「フフッ、ぺーちゃんは花の道標を作って来たのですわね。とっても素敵」
「ちゅ、ぇきぃ?」
「ええ、素敵ですわ」
「かぁちゃ、じょお、じょ」

どうぞ。とお花をわたくしにプレゼントしてくれるぺーちゃんは、ノアを真似ているのだろう。いつもノアの後をついて歩き、ノアが大好きなぺーちゃんにとって、ノアは本当に良いお兄ちゃんなのだ。

「ありがとう、ぺーちゃん。さっそく花瓶に生けておきましょう」

ミランダが花瓶を用意しているのが見え、さすが優秀な侍女だ、と感心する。

「にょあ、みょ!」
「ノアはねんねしてしまったから、また後で見せてあげましょうね」
「にょあ、ねぇね……ぺぇちゃ、みょ、ねぇね……」

ノアが眠っていると知った途端、急に眠気がきたのか、うとうとし始めたぺーちゃんを、マディソンが急いで抱え、ノアの隣へ寝かせると、すぐに寝息をたて始めた。

「可愛らしいですわね」

ロギオン王国の問題は、これから大事になっていきそうな予感がする。だが、わたくしはこの可愛い子供たちを守ろうと、改めて心に決めたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。

本日より、更新を再開いたします!
大変お待たせいたしました。

いつも皆様のコメントや応援に活力をいただき、ここまで続ける事ができております。
お休み中、楽しいコメントをくださった皆様、優しいお言葉をくださった皆様、そしてこのお話を楽しんでくださる皆様、本当にありがとうございます! 皆様への感謝の気持ちでいっぱいです。

今後とも【継母の心得】をよろしくお願いいたします。

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