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第二部 第4章
490.いい人
しおりを挟む【───シモンズ伯爵、どうかお願いいたします。王女を王から引き離していただきたいのです】
【申し訳ないですが、他国の貴族である私が、ロギオン国の王女殿下を連れ出したとなると、外交問題に発展します。下手をすると、戦争の引き金になる恐れもある。ですから、それはできない相談です】
【このままでは、王女殿下はいつロギオン王に殺されてしまうかもわかりません。ロギオン王には、王女は顔の怪我が酷く、部屋から出られないと説明します。ですから少しの間で良いのです。私が亡命の準備を整える間……この、会議の期間だけ、安全な場所に、連れて行ってはもらえませんか───】
「って、王女の侍従に言われてしまってね……」
お父様が、あの夜王女を連れ帰った理由を詳しく説明してくれたのは、ノアとぺーちゃんが眠ってしまった後だった。
てっきりお父様が引き離さないといけないと判断されて、ほぼ誘拐するように連れて来てしまったのだと思っていたけれど、違いましたのね。
「閣下から侍従に、もしロギオン王がこれを問題にするような事態になれば、グランニッシュ帝国はロギオン国を徹底的に排除しにかかるだろう。と、脅しをかけてもらっているから、侍従もバレるような事はしないと思うんだけどね」
テオ様……脅しましたのね。というか、本音は王女様をウチに連れて帰るのが相当お嫌だったのではないかしら。テオ様って、意外にもウチの父に弱いから、何だかんだ言う事を聞いてくれますのよね。
「もし王女がここにいる事が発覚しそうになった時は、皇后陛下が無理矢理転移で連れて行くから大丈夫だと仰っていたよ」
ヘラリと力なく笑う父は、どうやら王女様を押し付けられたにすぎなかった、どこまでも人の良い父なのだ。
「お父様ったら、人が良すぎる所は変わっておりませんのね。わたくし、領地にお父様を残して嫁いだのが、唯一の心配事ですわ」
「はは……娘に心配かけたらダメだね。もっとしっかりするよう頑張るよ」
「お父様にはカーラもサリーも、オリヴァーもいるのですから、何か行動を起こす前に相談してくださいましね。もちろんわたくしも、できる限りの事はいたしますわ」
「ありがとう。イザベル」
ですがその侍従は、よほど王女様が大切ですのね。だって、亡命の準備までしているのでしょう。もしかして、身分違いの恋人だったり……?
◇◇◇
「今日はチロとアオの好きな料理を、たくさんシェフに作ってもらいましたわよ」
『ワァ~、チロ、トロトロオムレツ、ダイスキナノ~』
『アオ、スフレパンケーキ、たまごののったハンバーグ、だいすきー!!』
震えて泣きながら眠っていたチロとアオの為に、よく好んで食べているものを作ってもらったのだ。好きな料理を見た妖精たちは、嬉しそうにノアの周りを飛んでいる。
「ノアには、チーズの入ったハンバーグを作ってもらいましたわ」
「ちーじゅの、バンバーグ、わたちだぁいしゅき!」
「ぺぇちゃ!」
「フフッ、ぺーちゃんにはサツマイモのグラタンを作ってもらいましたわ」
「にゃ!」
良かった。子供たちも妖精たちも少し元気が出たみたい。
「ぺーちゃんがさっきプレゼントしてくれたお花を、食卓に飾ってもらいましたのよ。とっても綺麗ですわ」
「ぉ、はにゃ!」
「ぺーちゃんが、おはな、ちゅんできたの?」
ノアが食卓のお花を見て、ぺーちゃんを見て、すごい! と拍手する。
「にょあ、ぺぇちゃ、ぅっ、ぎょーぃ!」
「きれいなおはな、ちゅめて、しゅっごいのよ」
子供たちがキャッキャと喜んでいた時だ、
「奥様、ロギオン王国のエリス王女が、奥様にお会いになりたいと仰っております」
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