継母の心得

トール

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第二部 第3章

475.一歩前進、二歩後退?

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子供祭も終わり、涼やかな風が吹き始めた頃、着々と進めていた、子育て支援センターが本格的に始動する。やっと、庶民街の大通りに場所が見つかったのと、スタッフの研修が思ったよりもスムーズに進み、予想より早く開く事が可能になったのだ。
これも、お医者様たちの協力と、スタッフたちの努力の賜物だ。

「やっと、はじめの第一歩が踏み出せますわ」

これは、育児の知識が乏しいこの世界で、幼い子供の死亡率を下げる為にも、親側の不安を解消する為にも、そして、将来ノアが大人になった時の為にも、必要な一歩ですのよ。

「ちえん、しぇんた……、ぺーちゃん、ま、さーじちたやちゅ!」
「まぁっ、ノアったら、よく覚えておりましたわね」
「にゃ?」
「まっさーじ、ぺーちゃん、とってもよろこんでたのよ」
「フフッ、そうね。ノアが手足のマッサージをしてあげたら、笑っていましたわね」
「ぺぇちゃ、ぅちゅ、ったぁ!」
「ぺーちゃん、くしゅぐったかったの?」
「にゃ!」

息子は以前行った、子育て支援センターの研修の一環でもあったベビーマッサージの事を覚えていたようだ。
ぺーちゃんも覚えているのか、くすぐったかったと訴えている。

「わたち、まっさーじ、とくい」

胸を張るノアだが、今は馬車の中。しかもノアはチャイルドシートに座っているのだから、ちょっと難しそうだ。

「ええ。ノアはベビーマッサージが上手ですわ。またぺーちゃんにやってあげましょうね」
「はい!」
「にゃ!」

そして、わたくしたちが馬車で向かっているのは、もちろん、庶民街の子育て支援センターである。

本当は、妊婦だからというのもあり、テオ様には、馬車での移動は渋られたのだが、フロちゃんに治癒魔法をかけてもらったので、とても調子が良いのだ。
何かあれば、ノアがフロちゃんの元に転移するという約束で、わたくしたちは外出許可をもらったのである。

まぁ、妊婦だからというだけではないのでしょうけれど……。犯罪組織『エンプティ』の問題は、まだ片付いていないのだから。

誘拐された事のある、ぺーちゃんとノアを見れば、にこぉっと天使の笑みを返され、頬が緩んだ。

まだ起きてもない事で不安になるのは止めよう。少なくともこの子たちの前では、笑って過ごしたい。

「さぁ二人とも、もうすぐ着きますわよ」
「はーい!」
「ぁーい!」

そして、馬車が停止した先にあったのは……

「な、なんですの、これ……」
「お、お、奥様!? 何かの間違いでしょうか……っ、こんな、ゾンビが棲みついていそうな所が、子育ての支援センターですか!?」

カミラの的確な表現に共感しながら、もう一度支援センターがあるとされる建物を見る。

「……お化け屋敷ですわ」
「おかぁさま、おばけ、でりゅ?」
「ぉにゃ!? ぺぇちゃ、こぁい……」

ノアはきょとんとした顔でわたくしを見上げ、ぺーちゃんはふるふるとチワワのように震え始めた。

「だ、大丈夫ですわ! おばけは出ませんっ」

何を隠そう、子供たちよりも、わたくしこそが、お化けが怖い。半分自分に言い聞かせるように、ぺーちゃんとノアを安心させようと必死の形相で否定していたら、余計ぺーちゃんを怖がらせてしまった。

「ディバイン公爵夫人!」
「ヒェ!?」
「にゃ!?」

戸惑っていた所に、わたくしを呼ぶ声で、心臓が止まりそうになる。

「おかぁさま、ぺーちゃん、だいじょぶ?」

我が息子は、お母様の心配をしてくれる優しい子に育っている。

「だ、大丈夫。大丈夫よ……」

見覚えのある顔が数人駆けてきて、馬車の外から「公爵夫人!」と叫んでいるのは、子育て支援センターのスタッフだった。

「あなたたち、一体なにがどうなっておりますの?」
「それが───」
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