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第二部 第2章
377.宝物庫 〜 イザベル視点/ウィーヌス枢機卿視点 〜
しおりを挟む「ぅう……っ、フローレンスぅ」
テオ様に助け出されたドニーズさんは、意気消沈して泣き出してしまった。
愛娘が攫われたのだもの。それは心配でたまりませんわよね。しかも罠があるせいで誰も枢機卿を追えなかったのですもの。ドニーズさんには申し訳ないことをしてしまいましたわ……。
『みんな! 今フローレンスと枢機卿は宝物庫の前にいるよ!』
その時、正妖精から報せが入った。
宝物庫にある鍵を探していると聞いていたから、宝物庫に向かっているのはわかっていたけれど、こんなに広い建物内で、こんなに早く宝物庫を見つけ出すなんて……
「枢機卿猊下は、もしかして神殿内の地図を持っていますの?」
急ぎ宝物庫へ向かいながらルネさんに聞くと、彼女は頷き教えてくれた。
「ウィーヌス様の手元には、焔の神殿を管理していたご先祖の、日誌があります。そこに、神殿内の地図も書かれているようです」
「やっぱりそうですのね……。そういえば、ルネさんは枢機卿猊下が探している鍵が、何の鍵か知っておりますの?」
「詳しくは存じ上げません……が、姉を蘇らせる事が出来る何かか、姉の子を探し出す事が出来るものではないかと……」
ルネさんもはっきりとはわからないようだ。
「しんだものを、よみがえらせることができる……。そんなにすごいものであれば、あかいとりさんも、おぼえているのではないだろうか?」
「あかいとりさん、なにのかぎか、わかりゃないって、いってたのよ」
「イーニアスの言う通り、死者を復活させるアイテムか魔法か知らないけど、そんなものがあるなら、鳥も今頃大騒ぎしているはずよ」
皇后様の仰る通りですわ。だけど……
「聖女であるフロちゃんを連れて行ったという事が、引っ掛かりますのよ……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ウィーヌス枢機卿視点
お腹が空いたと騒いでいた聖女は、眠気が勝っているのか、宝物庫の扉の前にやって来た時には、自分の親指を口に咥えて、すっかり大人しくなっていた。
「ここが宝物庫……」
扉のそばには恐ろしげな表情をした像があり、まるでこちらを睨んでいるかのようで、今にも動き出しそうな迫力だ。
知らず知らずに喉が鳴り、そこで初めて、自分が緊張していたのだと気付いた。
「はぁ……私らしくありませんね」
息を吐き出し、深呼吸をすると、宝物庫の扉に手をかける。
『証』は持っている。だから大丈夫だ。
罠が作動することなく、扉がゆっくりと開くと、ホッとしたのも束の間、目が眩むような光景に息を呑んだ。
大広間の床には金貨や宝石が溢れ、黄金の山をいくつも作っているではないか。
しかも点々と、どこの名匠の作品だというような、立派な剣や鎧が転がっているのだ。
「ここが、不死の神殿の宝物庫……」
「ぴかぴか、まぶち」
「この中から、鍵を見つけなければならないのですね……」
骨が折れそうだ、と溜め息を吐きながら探索を開始した。
しかし、鍵は一向に見つからず、とうとう───
「見つけましたぞ。ウィーヌス」
「にゃ!」
大司教たちに、追いつかれてしまったのだ。
「とぅたぁ」
「フローレンス!」
涙を浮かべ、こちらに駆けて来ようとしているのは、聖女の父親だった。
面倒な……
「止まりなさい! それ以上近づかないでくださいね。自分の娘を傷つけられたくないでしょう……」
「そんな……っ」
「とぅたぁ、にぃに、よーてーたん!」
「フロちゃん!」
父親とシモンズ伯爵家の後継者、ディバイン公爵夫人に手を伸ばし、必死に名を呼ぶ聖女は面倒だが、この子供は絶対に必要だ。聖女こそが、聖女の能力が───なのだから。
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