継母の心得

トール

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第二部 第2章

378.妻子の思いを汲んで

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「ウィーヌスよ、もうその子を解放しなさい」
「きゃーぉう!」

大司教が落ち着いた声で枢機卿猊下に語りかけると、ぺーちゃんが怒っているぞ! という可愛い……いえ、凛々しい顔できゃーきゃー言っていて、緊迫感のある状況なのに、ほっこりしてしまいましたわ。

「私は見つけなければならないものがあるのです」
「それは、鍵とやらかな?」
「……わかっているのならば、話は早い。聖女はまだ、解放する気はありませんし、あなた方と話をする時間もありません」

枢機卿猊下は大司教の説得を拒否すると、わたくしたちからさらに距離を取る。

『アス、おもちゃばこから、みつけてきた!』
「うむ。アカ、よいこだ」
『アカ、いいこ!』
「「!?」」

後ろからそんな会話が聞こえてきて、皇后様と顔を見合わせ、振り返ると……

「このかぎを、すうききょうが、さがしているのだ」
「なんの、かぎかちら?」
「わからぬが、すうききょうのようすから、ねがいがかなう、かぎなのだろう」
「たまねぎ、おねがいしゅる?」

子供たちが、例の鍵を持って、独自の解釈をしておりますわ!

「うむ。わたしはかんりしゃだから、たまねぎにねがえば、おねがいがかなったが、すうききょうは、かぎがなければ、おねがいはかなわぬ」
「しょうなのね!」

まさかイーニアス殿下は、たまねぎが宝物庫で枢機卿猊下を足止めしてくれたと思っていますの?

「すばらしくポジティブな解釈ですね」

サリーがボソッと呟いた言葉は、おそらくこの場にいる皆が思っただろう。

そんな事よりも……っ

「イーニアス殿下、ノア、その鍵を隠してくださいませ」

慌てて枢機卿猊下に聞こえないよう諭すが、

「イザベルふじん、これはすうききょうが、さがしているから、かくしたらこまるのではないだろうか……」

ピュア!

イーニアス殿下は両手で鍵を握りしめ、わたくしたちを見上げて、眉を下げるではないか。

「イーニアス殿下、もしその鍵が枢機卿猊下に渡ってしまえば、何をお願いされるかわかりませんわ。フロちゃんが危険かもしれませんの」
「フローレンスが、きけんなのか……」
「アスでんか、かぎ、かくしゅ?」
「かぎをわたしたら、フローレンスをかいほう、してくれるとおもった……」

なんていい子ですの! 皇后様の子育ては、大成功ですわね。もちろんわたくしの息子も優しい子に育っておりますけれど。

「お嬢様の子育てというよりは、ノア様の素地がよろしいのではないかと思われます」

言われなくてもわかっていますわよ、サリー。それと、これまで幾度となく言ってきましたけれど、わたくしの思考を読まないでくださいましね。周りが戸惑いますから。

「……鍵を渡しても問題はないと思うが」

イーニアス殿下が落ち込んでしまっていると、ずっと黙っていたテオ様が呟いたのだ。

「テオ様、どういう事ですの?」
「話を聞いている限り、枢機卿の目的は、ポレットという女性を生き返らせる事と、己の子を見つけ出す事だ」

そうですわね。ルネさんもそう仰っていましたし、氷の棺で眠っているポレットさんも、テオ様とクレオ大司教が見たという事ですから、実在するようですし、嘘ではないでしょうけれど……

「鍵を開いた先に何があるのかは不明だが、おそらくはノアと殿下の言ったように、その二点のどちらかを叶えられるようなものなのだろう」
「そうね……テオ様の言うように、ルネや大司教、枢機卿の話から察するに、その可能性は高いわ。だからと言って、鍵を渡しても大丈夫だとは思えないのだけど」

テオ様の話に、肯定ではなく、やんわり難色を示したのは意外なことに皇后様だった。

「私は問題ない、と言ったのだ」

そういう事ですの。「大丈夫」ではなく、「問題ない」とは、何が起きても対処できるという意味でしたのね。

『それって、鍵を渡すって事?』

フロちゃんのそばにいた正妖精が、テオ様の話が気になったのかやって来て、不安そうに問いかけると、テオ様は無表情で言い切ったのだ。

「ここは、枢機卿に鍵を使わせ、フローレンスを手放した所で取り返す。これが一番安全だろう」

テオ様は、本当はいつでもフロちゃんを取り返す事ができますのに、わたくしとノアの思いを汲んでくださったのだわ。



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~ お知らせ ~

いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。

皆様の温かい応援と、コメントのお陰で、このように継母の心得を続ける事が出来ております。本当に感謝の気持ちでいっぱいです!

☆ご存知の読者様も居られるかもしれませんが、この度、ノベル【継母の心得4】が5月下旬頃に刊行予定です。

悪魔編完結の4巻ですが、隣国の事や悪魔とアベラルド様との契約のなど、かなり加筆しておりますので、お楽しみいただけるのではないかと思います。

また、書き下ろしもなど、皆様に楽しんでいただけるよう書かせていただきましたので、ぜひご期待いただけますと幸いです。

詳しい事は決まり次第、追ってご報告させていただきますので、よろしくお願いいたします。

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