継母の心得

トール

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第二部 第2章

373.性別 〜 ウィーヌス枢機卿視点/イザベル視点 〜

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「───姉を凍らせたウィーヌス様は、取り憑かれたように、死者の復活方法と、娘を探し続けていました。そして、この神殿の事を知ったのです」

謎の女性は、ルネさんと言って、枢機卿猊下の義理の妹さんにあたるらしい。

まさか、大司教の仰っていた氷の棺に、枢機卿猊下の奥様が眠っていたなんて、驚きすぎて言葉が出てきませんでしたわ。

「氷の魔石の効力が弱まり、棺が溶けかかっているのはご存知だと思いますが……」
「やはり、ウィーヌスが焦っていたのは、その為じゃったか……」

大司教は神妙な面持ちで頷くと、大きく息を吐き、腕の中にいるぺーちゃんの頭を撫でた。ぺーちゃんは気持ち良さそうに目を閉じて、大人しく撫でられている。それがだんだんと猫のように見えてくるから不思議だ。

「姉の氷が溶けてしまえば、遺体は腐敗してしまいます。だから……」

ルネさんはノアに視線を移し、申し訳なさそうに目を伏せた。

「ノアを拐って、氷の魔石に魔法を補充しようとしましたのね」
「……はい」

ディバイン公爵家の公子が、祝福の儀を受ける前から魔法が使える事は、調べがついていた、とルネさんは言うのだ。そんな我が家のトップシークレットを調べる事が出来るルネさんは何者なのか。

「ディバイン公爵は無理でも、公子なら……と。本当に申し訳ありません」

頭を下げるルネさんを、許せるかといえば、正直許せそうにない。ノアはまだ誘拐された時の夢を見て、うなされている。ぺーちゃんだって、枢機卿を見て震えているのだから。

だけど……

「あのね、わたち、ゆーかい、こわいのよ」

膝をつき、泣きながら謝罪するルネさんに、ノアが近付き言ったのだ。

観念して、素直に話し始めたとはいえ、ナイフを突き付けてくる危険な人物だ。近付く事は容認出来ないと、止めに入ろうとしたのだが、わたくしがテオ様から止められた。

「わたち、ぺーちゃん、しゅっごく、こわい、かったの」

ノア……っ

今すぐ抱きしめたかったが、息子がルネさんに何かを伝えたがっていると理解し、このまま見守ろうと、肩を掴んでいるテオ様の手に手を重ねた。

「おねがい、しゅるときね、おめめあわせるのよ」
「ぇ……」
「しょれでね、どうちて、おねがいちたいのか、おはなちしゅるの」
「公子……?」
「さいご、おねがいちます、ってちたら、いいよってできるのよ」

ノアは、誘拐を指示した人だと理解しているのに、攫うのではなく、お願いをしてくれたら良かったのだ、と諭しているではないか。

誘拐された時は、とっても怖かっただろうに、悲しかっただろうに、なのに、この子は……っ

「ぅ……っ、あぁ……っ」
「だいじょぶよ。わたち、おねぇさま、たしゅけるの」

英雄と言われたあのノアが、そこにいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ウィーヌス枢機卿視点


「聖女フローレンス、聖女の能力は、どれほどの事が出来るのでしょうか」
「ぅ……? ちぇーじょ?」

このような幼子に聞いた私が悪いのだろう。聖女は何もわからない様子で、首を傾げるだけだ。

不死の神殿にだけある『───』。それが手に入れば、聖女に……しかし、死者を蘇らせる事が可能なのだろうか……。それならば私が……

「くそ……っ」

私は、未だ選択出来ずにいる。ポレットか、娘か……

「いや、まずは鍵を手に入れる。全てはそれからだ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「ちょっと思ったんだけど、ウィーヌス枢機卿の情報網って、ノアちゃんが祝福の儀を受ける前から魔法が使えるって知れるほどのものなのよね……」

ノアの言葉に感動していた所に、皇后様が高級自転車で事件現場にやって来る刑事並の鋭さで、呟いた。

「ディバイン公爵家のトップシークレットを知れるような情報網を持っていながら、娘の行方がわからないって、おかしくない?」
「確かに、それほどの情報網をお持ちなら、養子先ぐらいすぐに探し出せそうですわね」

皇后様の仰る事はもっともだ、と頷きルネさんを見ると、

「しかし、いくら探しても一歳と少しの、女の赤ん坊を養子に取った者は現れなかったのです……」

一歳ちょっと……ぺーちゃんと同じくらいかしら。

「ねぇ、赤ん坊が産まれてから実際接した人って、もしかして辺境伯だけ?」
「いえ、産婆も……それに、私も辺境伯が抱き上げて、去って行く時の一瞬は見ています」
「つまり、実質きちんと見たことがあるのは、その二人だけって事よね」

皇后様はルネさんに、何やら確認して、確信を深めたような顔をしてわたくしたちを見たのだ。

「赤ん坊の性別は、女の子ではなく、男の子だったんじゃないかしら」


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