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第二部 第2章
357.ちょっと無理がありますわよ
しおりを挟むイーニアス殿下の可愛らしい発言に、一瞬その場を沈黙が支配したが、枢機卿猊下は動揺を隠し、にっこりと笑った。その笑みに、背筋に冷たいものが走る。
「殿下、ピクニックなどと、外は大雨ですよ」
「うむ。だから、ここであまやどりを、している!」
胸を張るイーニアス殿下の後ろでは、ノアがキラキラした目を向けて、小さく拍手していた。カミラが「ノア様、柱の影から出てはいけません」と慌てているこの緊張感のなさ……。
「……そうですか。では、奥の部屋を用意させましょう。そちらで暫く雨宿りなさるとよろしい」
「いや、ここでよい。そのようなごめいわくを、おかけするのは、こころぐるしい、からな」
イーニアス殿下ったら、心苦しいなんて五歳の子が使いませんわよ。
「よーてーたん、ちょこ、いく」
その時、フロちゃんがわたくしの所へ行きたいと、枢機卿猊下の腕の中でバタつき始めた。
フロちゃん、少しだけ大人しくしていて……でないと、危険ですのよ。隣に刃物を持った人がいるのですから。あら、刃物をいつの間にか仕舞っていますわ。
「よーてーたん」
必死に伸ばしてくる手を、本当は今すぐ掴んで抱っこしてあげたい。
「フロちゃん……っ」
「すうききょう、フローレンスが、こちらにきたがっているようだ。おろしてあげてくれないか」
イーニアス殿下が、凛とした顔つきで言えば、枢機卿はアルカイックスマイルを浮かべ、表情が一切読めない。
「ふぇ……っ」
「申し訳ありませんが、これから聖女に必要な儀式を礼拝堂で執り行うのです。これは外部の方にはお見せ出来ない決まりがございます。殿下方には奥の部屋を案内しますので、そちらへ移動をお願いいたします」
などと、先ほどの事がなかったように話しているのだけれど、イーニアス殿下が幼いからって、無かった事に出来ると思っているのかしら……。
「ルネ、ご案内してあげなさい」
「!? ですが、ウィーヌス様……っ」
「ルネ、私は聖女の儀式を行いますから、あなたに任せましたよ」
「……承知しました。皆様、お部屋にご案内いたします」
いえ、あなた先ほど、刃物をわたくしたちに向けましたわよね!?
枢機卿は何かに追われているかのように焦っている。わたくしたちを礼拝堂から追い出そうとしているようだ。
「すうききょう、わたしは、フローレンスをおろしてほしいと、いったのだぞ」
当然、イーニアス殿下は流されなかった。
五歳の子供の威圧に、緊張感が走る。
さすが皇子殿下ですわ。幼くとも、この威圧感……。将来が楽しみですわね。
柱の影からは、ノアの「アスでんか、かっこいーのよ!」と言う声が聞こえてくるのが大変可愛らしい。
「いくら殿下であっても、聖女の儀式に口出しなさる事はあってはないりません」
「おさなごが、ないているのだぞ。そのぎしきとやらは、こが、なきやむこともまてぬような、ものなのか」
イーニアス殿下のもっともな言い分に、枢機卿も反論が出来ないのか、黙ってしまった。
「……ルネ、もういい。行きますよ」
「ウィーヌス様、この者らはいかがいたしますか?」
「どうせ追って来れません。ディバイン公爵がすぐそこまでやって来ています。急ぎますよ」
突如計画を変更したらしい枢機卿は、ルネと呼ばれた女性と、フロちゃんを連れたまま、礼拝堂の裏側へと姿を隠したではないか!
「フローレンスが、さらわれた!」
「フロちゃん、たしゅけなきゃ!」
イーニアス殿下の声に、ノアが柱の影から飛び出してきたから驚いた。
「イーニアス殿下っ、ノア! 一旦落ち着きましょう」
子供たちに、刃物を突き付けてくるような輩の後を追わせるわけにはいかない。
先ほど枢機卿も言っていたように、テオ様がすぐそばまで来ているのであれば、待っていた方が良いだろう。
「正妖精はフロちゃんのそばにいて、居場所をわたくしに教えてくださいまし」
『わ、わかった!』
居場所さえわかれば、なんとでもなる。
彼らはフロちゃんを傷つけるつもりはなさそうでしたし、テオ様さえ来れば、きっと大丈夫ですわ!
「奥様、このような時に申し訳ないのですが」
マディソンが、未だ震えているぺーちゃんを抱っこしたまま、そばにやって来ると言ったのだ。
「イーニアス殿下と奥様、ノア様が消えたと、皇宮で騒ぎになってはいけませんので、すぐに皇后陛下にご報告いたしましょう」
あ……
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いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。
三日間お休みいただきましたので、リフレッシュする事ができました。お陰様で、新鮮な気持ちでこのお話に向き合っていける気がします。
本日より、毎日更新を再開いたします。
今後ともよろしくお願いいたします。
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