継母の心得

トール

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第二部 第1章

227.皇后の依頼

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パーティー開始から2時間近くたち、子供パーティーも終盤に差し掛かっているだろう頃。
お菓子の家は跡形もなく消えていそうだと想像しながら、お手洗いを済ませて廊下を歩いていると、子供パーティーの会場から楽しそうな子供たちの声が聞こえてきて足が止まる。

「あら、随分盛り上がっておりますわね」

お菓子の家を今、皆で食べているのかしら?

「わぁっ、おふねだー!!」
「おこなが、おふねになった!」
「なにそれー?」
「すごい! 欲しいっ」
「私もやりたい!」

あら、お船にお粉……これってもしかして、

「ノア様のプレゼントでしょうか」

後ろを歩いていたミランダが呟いた。

「お船ということは、イーニアス殿下がグミパウダーの知育菓子を開けたのでしょうね」
「不思議なパウダーですから、取り合いにならないとよろしいのですが」
「そ、れは……きっと大丈夫ですわよ」

パウダーも多めに入れておりますし、大丈夫ですわよね……? イーニアス殿下は独り占めをする方ではないから、皆で楽しむと信じましょう!

「ノアがプレゼントを渡したということは、そろそろパーティーもお開きですわね」
「そのようです」
「では、わたくしも大人の皆様にプレゼントをお渡ししましょうか」
「かしこまりました」

ミランダが、皇宮のメイドに預けてあったプレゼントを持ってきてもらうよう話している。

このプレゼントは、皇后様に依頼され用意したものだ。

「今回の子供パーティーは初の試みでしょう。不安になる親御さんもいると思うの。だから、来て良かったって、親子でほっこりできる何かがほしいのよ!」

と言われ、色々考えてみたのだけど……、きっと子供たちは、来て良かったと、殿下たちの主催したパーティーを楽しんでくれるはず。となると、親側が問題だ。何しろ親はパーティーには参加せず、隣の部屋でお茶を飲みながら待っている。つまり、いつもと同じお茶会なわけで、来て良かった、というのはなかなか思い難いだろう。

となると、帰ってから親子で楽しめるものはどうだろうか、と考えたのだ。

「間に合ってよかったですわ。『炭酸ハーブパウダーの入浴剤』」

どうせなら、無味無臭の炭酸が出るハーブのパウダーを、お菓子以外にも何か使えると一石二鳥ではないかと考えついたのが、炭酸の入浴剤だった。

ただ、最初は安易に考えて粉のまま浴槽に入れていたのだが、はかりのスプーンがあるにも関わらず、量を入れ過ぎてしまうという問題が起こったのだ。どうするべきかと頭を抱え、ふと、ネチャネチャ草で作った接着剤を使って、組立式模型の子供用のものを作っていたノアを見て、ネチャネチャ草って、お湯で溶けるのよね……と何となしに思って、ハッとしたのよ。

『ネチャネチャ草の接着成分でパウダーを固め、お風呂に入れるのはどうかしら』って。

それが見事に上手くいったのだ。しかもネチャネチャ草には肌に良い保湿成分が入っていたらしく、しっとりしているという副産物も付いてきた。

 固形の入浴剤の完成ですわ!!

と思ったのもつかの間、入浴剤に重要な香りがね……無味無臭なものだから足りなくて。皇后様からの依頼でしょう。さすがに無臭の炭酸入浴剤をお渡しするわけにはいかないわけで……。そこからが大変でしたのよ!
香油を混ぜると相性が悪いのか、炭酸の出が弱くなって、入浴剤として使い物にならなくなったの。どうやら油脂が問題だったみたい。

「わたくし、精油と香油は同じものだと勘違いしていたから、頭を悩ませましたのよね……」

皇后様が精油は油脂ではないのよって教えてくださって……。まさか精油が油脂ではないなんて……っ。精油って名前ですのに!

「悩んだあの時間は何だったのかしら、と思うほどあっさり完成しましたわ」

その後は自分で試して、炭酸の血行促進効果と、ネチャネチャ草の保湿効果、そして良い香りのリラックス効果を実感し、皇后様にもお渡しして、やっとプレゼントにする了承を得たのよ。

「大変でしたわ。でも、この世界の植物って万能すぎないかしら……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


イーニアス視点


「アスでんか、わたち、ぷぜじぇんと、あるのよ」
「プレゼント?」

ノアが、パーティーのおわりに、はずかしそうに、おしえてくれた。

「あのね、でんかみーんなに、パーティ、しゅ、しゃい? おちゅかれさまでちた! のぷぜ、ぷれ、じぇんと!」

やさしいノアは、わたしたちに、プレゼントをもってきてくれたのだ。

「カミラ、あれ、もってきてほちいのよ」
「はい、ノア様!」

カミラが、わたしたち、きょうだいのかずの、はこをノアのよこに、もってきて、すこしうしろから、ノアにさしだした。

「これ、おーじでんかと、こーじょ、でんかに、ぷれ、じぇんと、でしゅ!」
「うむ! ありがたく、いただく」

きょうだいみなが、ノアからてわたしてもらい、ドキドキしながらあけると、おふねのかた……? と、おこながはいっていたのだ。

「ノア、これはどういうもの、だろうか??」

ノアがプレゼント、してくれたのだから、ただのおこなではないはずた。

「あのね、このうつわにね、おこないれて、おみじゅ、ちょっとたらしゅのよ!」
「うむ。やってみよう」

さっそく、じじょに、おみずをよういしてもらう。まわりには、きょうみしんしんのものたちが、あつまって、「何を、しているのですか?」ときいてくる。

じじょから、おみずをうけとって、ノアのいうとおりにやってみると……

「いろがかわって……かたまったのだ!」

おふねのかたちに、おこながかたまった!!

「わぁっ、おふねだー!!」
「おこなが、おふねになった!」
「なにそれー?」
「すごい! 欲しいっ」
「私もやりたい!」
「朕もやりたいのだ!」

すごい! まほうの、おこなだ!!

「しょれ、おいちぃのよ」
「たべられるのか!?」
「グミよ」

ぐみというなの、たべものだったのか……。

おそるおそる、くちにはこぶと……

「おいしい!!」
「朕もっ、朕も食べたいのだ!」
「おこなもまだあるから、みなでやってみよう!」
「朕のイーニアス……っ、やさしすぎるのだぞ」

さっきから、ちちうえのこえがするけど、はんのうしたらだめなのだ……。だってちちうえは、かくれんぼしているのだから。

「アスでんか、おちゅかれさま、でちた!」
「ノア、ありがとう!」

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