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番外編:春
春の雨
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僕は、茫然としていた。
そう、自分の行動に、茫然としていたのだ。
今、起きていることを、ありのままに話そう。
僕は、電車に乗っている。
土曜日の午前中なので、混雑はしていないが、家族連れも多く、注目を浴びていた。
ヒソヒソ、と話す声も聞こえてくる。
そう、僕の右手を見ながら。
そう、僕の右手には、金属のケージが下げられていた。
そう、僕が返却に持って行ったケージだ。
そう、僕は猫を連れているのだ。
雪さんの時には、保証人とか家への訪問とか、いろいろあったのに、二度目実績アリ家確認済で、即日持ち帰り、となった。
都合よく、ケージも持参していた。
ケージには、目隠しと風避けにタオルがかけてあるから中は見えないし、中身もジッとしているので、何が入っているか、外見からは、わからない。
逆に、それが好奇心を刺激するのか、「箱の中身はなんじゃろな?」クイズの出題者、となっているのだ。
タオルがかけてあるとはいえ、ケージなので中身が、その隙間から手を出そうと思えばできるので、座席には座れず、立っていた。
猫が、こういう隙間から、肩まで出すのは、雪さんで体験済だからだ。
幼い女の子が母親に、「なかはとりさんかなー?きいてもいい?」などと聞こえる声で囁きながら立ち上がった。
これ、近づいたらビックリ箱よろしく中から攻撃が繰り出されて、ギャン泣きされるフラグだ。
傷害などの犯罪者、「娘を傷物に」とか言われる立場になりたくない。
この願いに猫の神様が、鳥類愛好家から守ってくれたのか、先ほどの幼女は、質問にくることなく、開いたドアから降りていった。
次で、僕が降りる駅だ。
電車とホームの隙間にプレートがおかれ、車椅子が入ってきた。
僕は邪魔にならないように、角に寄る。
「猫かしら?」
車椅子に座る老女が聞いてきた。
「箱の中身はなんじゃろな?」クイズへの回答者に、注目が集まった。
「はい、猫です。保護、」
「見せていただけないかしら?」
クイ気味に言われた。
「箱の中身はなんじゃろな?」クイズの正解者が出たが、、猫への興味の有り無しで雰囲気はプラスマイナスプラスっぽく、注目が集まっている。
できれば、中身を刺激したくない。
困惑気味に、車椅子を押す係の女性に視線を送る、と申し訳なさそうに頭を下げてきた。
僕は、タオルを少し捲った。
「黒猫ね、ウチにも黒猫がいたのよ」
ホームに降りた。
「もう会えない」という黒猫の話。
いろいろと寂しい話だった。
黒猫と出会った、という高揚感はなくなり、自分の衝動的な行動への戸惑いばかりが大きくなってきていた。
ケージを揺らさないように階段を上がって改札を抜け、出口へ向かう。
ようやく、「どうやって雪さんに説明しよう」と隠し子発覚みたいなことを考え始めた。
もちろん、適切な「説明」、いや「言い訳」は浮かばず、足が止まる。
ぼーっ、と空を眺めながら、現実逃避した。
駅を出入りする人々が、ケージを持って空を仰ぐ僕で、またもや「箱の中身はなんじゃろな?」クイズを始めていた。
それらを束ねたよりもずっと、極太で冷たいだろう雪さんの視線を想像してしまった僕は、凍りついていた。
そんな僕の視線の先で、みるみる空は暗くなり、激しい土砂降りが始まった。
雪さんの感情、機嫌を暗示するような雨。
不幸になるのは、「黒猫が前を横切る」であって、「黒猫を持って歩く」にも有効なの?
タクシーに乗るような距離ではないが、それでも乗り場を見る、と駅前待機分は、早速完売となっていた。
この雨の勢いは、そんなには続かないだろうけど、できれば子猫を外に出している時間を長くはしたくない。
タオルがかけてあるから、ケージは大丈夫だろう。
せっかくの記念に、「手回り品切符」を失くしてないか確認して。
深呼吸する、と僕は雨の中へ、ケージを揺らさないように歩き出した。
--------------------------------------------------------------------
番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)
「開店、の後」の番外編は、時系列とかバラバラですので、その辺を自己満足と忘備録的に解説です。
エピローグ直後のお話。
「この謎、どう思います? バーテンダーさん」でネタバレしてしまっていますが、エピローグのオチ伏線を回収してます。
この後は、雪さん嫉妬事件、雪さん激太り事件と続いていくのですが、、、
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編の醍醐味ですよね?
また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。
まみ夜
そう、自分の行動に、茫然としていたのだ。
今、起きていることを、ありのままに話そう。
僕は、電車に乗っている。
土曜日の午前中なので、混雑はしていないが、家族連れも多く、注目を浴びていた。
ヒソヒソ、と話す声も聞こえてくる。
そう、僕の右手を見ながら。
そう、僕の右手には、金属のケージが下げられていた。
そう、僕が返却に持って行ったケージだ。
そう、僕は猫を連れているのだ。
雪さんの時には、保証人とか家への訪問とか、いろいろあったのに、二度目実績アリ家確認済で、即日持ち帰り、となった。
都合よく、ケージも持参していた。
ケージには、目隠しと風避けにタオルがかけてあるから中は見えないし、中身もジッとしているので、何が入っているか、外見からは、わからない。
逆に、それが好奇心を刺激するのか、「箱の中身はなんじゃろな?」クイズの出題者、となっているのだ。
タオルがかけてあるとはいえ、ケージなので中身が、その隙間から手を出そうと思えばできるので、座席には座れず、立っていた。
猫が、こういう隙間から、肩まで出すのは、雪さんで体験済だからだ。
幼い女の子が母親に、「なかはとりさんかなー?きいてもいい?」などと聞こえる声で囁きながら立ち上がった。
これ、近づいたらビックリ箱よろしく中から攻撃が繰り出されて、ギャン泣きされるフラグだ。
傷害などの犯罪者、「娘を傷物に」とか言われる立場になりたくない。
この願いに猫の神様が、鳥類愛好家から守ってくれたのか、先ほどの幼女は、質問にくることなく、開いたドアから降りていった。
次で、僕が降りる駅だ。
電車とホームの隙間にプレートがおかれ、車椅子が入ってきた。
僕は邪魔にならないように、角に寄る。
「猫かしら?」
車椅子に座る老女が聞いてきた。
「箱の中身はなんじゃろな?」クイズへの回答者に、注目が集まった。
「はい、猫です。保護、」
「見せていただけないかしら?」
クイ気味に言われた。
「箱の中身はなんじゃろな?」クイズの正解者が出たが、、猫への興味の有り無しで雰囲気はプラスマイナスプラスっぽく、注目が集まっている。
できれば、中身を刺激したくない。
困惑気味に、車椅子を押す係の女性に視線を送る、と申し訳なさそうに頭を下げてきた。
僕は、タオルを少し捲った。
「黒猫ね、ウチにも黒猫がいたのよ」
ホームに降りた。
「もう会えない」という黒猫の話。
いろいろと寂しい話だった。
黒猫と出会った、という高揚感はなくなり、自分の衝動的な行動への戸惑いばかりが大きくなってきていた。
ケージを揺らさないように階段を上がって改札を抜け、出口へ向かう。
ようやく、「どうやって雪さんに説明しよう」と隠し子発覚みたいなことを考え始めた。
もちろん、適切な「説明」、いや「言い訳」は浮かばず、足が止まる。
ぼーっ、と空を眺めながら、現実逃避した。
駅を出入りする人々が、ケージを持って空を仰ぐ僕で、またもや「箱の中身はなんじゃろな?」クイズを始めていた。
それらを束ねたよりもずっと、極太で冷たいだろう雪さんの視線を想像してしまった僕は、凍りついていた。
そんな僕の視線の先で、みるみる空は暗くなり、激しい土砂降りが始まった。
雪さんの感情、機嫌を暗示するような雨。
不幸になるのは、「黒猫が前を横切る」であって、「黒猫を持って歩く」にも有効なの?
タクシーに乗るような距離ではないが、それでも乗り場を見る、と駅前待機分は、早速完売となっていた。
この雨の勢いは、そんなには続かないだろうけど、できれば子猫を外に出している時間を長くはしたくない。
タオルがかけてあるから、ケージは大丈夫だろう。
せっかくの記念に、「手回り品切符」を失くしてないか確認して。
深呼吸する、と僕は雨の中へ、ケージを揺らさないように歩き出した。
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番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)
「開店、の後」の番外編は、時系列とかバラバラですので、その辺を自己満足と忘備録的に解説です。
エピローグ直後のお話。
「この謎、どう思います? バーテンダーさん」でネタバレしてしまっていますが、エピローグのオチ伏線を回収してます。
この後は、雪さん嫉妬事件、雪さん激太り事件と続いていくのですが、、、
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編の醍醐味ですよね?
また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。
まみ夜
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