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兄妹でした

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 小屋に戻り、
「シウン、話せるか?」
「・・・うん。お父さん」

 卵から産まれた直後は、人の赤ん坊と同じで、ぼんやりとしていたようだ。
 そのうちに、意識がはっきりしてきて、自分の名前がシウンだと理解し、親ドラゴンに様々なことを習い、一年が経った。
 その日、百年以上も前に巣立ったという兄シランが、訪れた。
 初めて見る兄。
 初めて見る親以外の存在。
 初めて見る親が歓迎する姿。
 ただ、兄シランは、妹であるはずのシランを無視した。
 そんな日に、シウンは、親離れさせられたのだ。
「空で振り返ったら、シウンが追い出された洞穴に、親とお兄ちゃんが、楽しそうにしているように見えたの。本当に、悲しかったし、寂しかった」
 だからシウンは、極端な寂しがり屋になったのだろうか。

「・・・お姉ちゃん」
「・・・シウン姉様」
「もう。お姉さんは平気!お父さんだって、妹たちだって、いてくれるんだから」
「うん!」
「はい!」
「でも今日、お父さんの背中流すの、お姉さんがやっていい?」
「お姉ちゃん。それはズルイよ!」
「それは、別のお話です」

 さて、シランが、元ドラゴンで、シウンの兄なことはわかった。
 兄妹で、ほとんどお互いを知らなくて、人型で会ったのも初。
 あまり、シウンと違わない時期に、シランも人型になったのか?
 つまり、シランが魔王に会ったのも同時期。
 もしかしたら、俺が異世界転生してきたのと、同じタイミング?
 シランが、人型になったのは、魔王が『名づけ』たからだろう。
 俺みたいなチート能力者が二人も、しかも同時代に、この世界に存在するなんて、偶然があるか?

 そう、『チート能力』者だ。
 だからといって、俺と同じチート能力、レベルアップとは限らない。
 前に、野生動物並みの知性しかない魔物を束ねて軍勢にするには、『魔物を従える』能力が必要ではないかと考えた。
 もう一人の魔王は、そんなチート能力を持っているのかもしれない。
 少なくとも、『名づけ』られるのだから、魔素は操れるのだろう。

 しかし、どれもこれも推測だ。
 情報が足りない。
 だから、「協和か、敵対か?」を判断する材料がない。
 少なくとも、向こうは国を興している。
 こちらは、村レベルだ。
 そもそも、俺は世界統一とか、考えていないので、敵対する理由はない。
 だが、前世のイメージからか、『魔王』と名乗る存在に、底知れない恐怖を感じるのだ。
 それと協和して、前世の知識の戦国時代の武将のように、家族を人質にとられたりする可能性もある。

 なにより、俺が「もう一人の魔王」なのは、確定なのか?
 いや、確定なのだろうな。
 この世界の魔王とは、「チート能力者」のことなのだろう。
 チート能力者にとって、一番怖いのは、チート能力者だ。
 俺の存在を、「もう一人の魔王」は、許せるのだろうか。
 「もう一人の魔王」と、直接会って、話すしかないのかもしれない。

 今こそ、『白い部屋の管理者』に文句を言いに行きたかった。
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