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第二章 秘められた悪意
アダムの父――その闘いの記録
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――アダムの父の日記、か。
(なるほど。アダムが[爆弾娘事件]にやたら詳しかったわけは、この日記のせいか)
エフェルローンは、今までのアダムの不可解な言動に納得がいく。
だが――。
今、重要なのは、その日記が確たる証拠としてどれほどの力を発揮できるか、ということであって、事件の概要がどれだけ詳しく記載されているかということではない。
残念だが、日記は書いた人物を断定することが難しく、日記自体を捏造することも、内容を改ざんすることも可能なため、有力な証拠ではあるが、決定的な証拠とは言い難い。
申し訳なくは思ったが、エフェルローンはアダムにはっきりとこう言った。
「もし、その日記の原本が残っているなら、かなり有力な証拠となり得る。だが、あくまでも有力であって、決定的ではない。残念だが……」
エフェルローンのその答えに。
アダムは失意の溜息を吐くと、俯きながらこう言った。
「そう、ですか」
悔しそうにそう肩を落とすと、アダムはきつく唇を噛む。
(不正に悩み、自殺した父親の日記か。確かに、決定的ではない。だが――)
エフェルローンはそう心の中で呟くと。
項垂れるアダムをじっと見つめながら、意を決したようにこう言った。
「それでも。俺は、君のお父上が不正と戦ったその記録……無駄にするつもりはない」
そう、きっぱりと断言するエフェルローンに。
アダムが、驚いたように顔を上げる。
「え、でも決定的な証拠じゃないって……」
そう言って、呆けたようにエフェルローンを見つめるアダムに。
エフェルローンは鼻を鳴らし、不敵に笑って見せるとこう言った。
「証拠は使いようだ。何も、決定的な証拠じゃなくても、上手く使えば思った以上の効果を発揮することもある」
「伯爵……」
そう言って、瞳を潤ませるアダムに。
エフェルローンは、苦笑しながらこう言った。
「俺にとっては想定内のことだ。別に気にする程のことじゃない。安心しろ」
そんなエフェルローンの力強い言葉に。
アダムは感謝しつつこう言った。
「日記は近いうちにお渡しします。出来るだけ早く」
そう約束を口にするアダムに。
ダニーが心配そうな面持ちでこう言った。
「でも、もしアダム君が[爆弾娘]事件の有力な証拠を所持していると知れば、きっとバックランド侯爵はアダム君に何か仕掛けてくるんじゃ……」
その問いに。
アダムは平然とした顔でこう言った。
「でしょうね。現に僕は今、街中の宿屋を転々と渡り歩いている状況ですし」
「えっ」
驚くダニーに。
アダムはそう言って皮肉な笑みを浮かべて見せる。
「実は、伯爵にこのことを話す前に、別の人物にこのことを話してしまって……失敗でした」
そう言って、苦笑するアダムに。
エフェルローンはハッとした表情をすると、アダムに詰め寄る様にこう言った。
「別の人に話した? それは、何処の誰だ? 何を話した?」
矢継ぎ早にそう尋ねてくるエフェルローンに。
アダムは、少々たじろぎながらこう言った。
「た、確か……グラハム・エイブリーだったかと。フリーのジャーナリストです。一回会っただけなので、細かい話はしていません。ただ……」
「ただ?」
そう言って、眇め見るエフェルローンに。
アダムは、緊張した面持ちでこう言った。
「『[爆弾娘事件]の真相を知りたくはないか』とだけ、話しましたが、何か問題でも……」
そう不安そうに尋ねるアダムを前に。
エフェルローンは、顎に片手を当てると驚きも隠さずこう言った。
「グラハム・エイブリー。まさかこんなところで繋がるとは……」
アダムとグラハム・エイブリー。
思いがけなく掴んだ二人の接点に、エフェルローンの脳は新たな仮説の構築にフル回転し始めるのであった。
(なるほど。アダムが[爆弾娘事件]にやたら詳しかったわけは、この日記のせいか)
エフェルローンは、今までのアダムの不可解な言動に納得がいく。
だが――。
今、重要なのは、その日記が確たる証拠としてどれほどの力を発揮できるか、ということであって、事件の概要がどれだけ詳しく記載されているかということではない。
残念だが、日記は書いた人物を断定することが難しく、日記自体を捏造することも、内容を改ざんすることも可能なため、有力な証拠ではあるが、決定的な証拠とは言い難い。
申し訳なくは思ったが、エフェルローンはアダムにはっきりとこう言った。
「もし、その日記の原本が残っているなら、かなり有力な証拠となり得る。だが、あくまでも有力であって、決定的ではない。残念だが……」
エフェルローンのその答えに。
アダムは失意の溜息を吐くと、俯きながらこう言った。
「そう、ですか」
悔しそうにそう肩を落とすと、アダムはきつく唇を噛む。
(不正に悩み、自殺した父親の日記か。確かに、決定的ではない。だが――)
エフェルローンはそう心の中で呟くと。
項垂れるアダムをじっと見つめながら、意を決したようにこう言った。
「それでも。俺は、君のお父上が不正と戦ったその記録……無駄にするつもりはない」
そう、きっぱりと断言するエフェルローンに。
アダムが、驚いたように顔を上げる。
「え、でも決定的な証拠じゃないって……」
そう言って、呆けたようにエフェルローンを見つめるアダムに。
エフェルローンは鼻を鳴らし、不敵に笑って見せるとこう言った。
「証拠は使いようだ。何も、決定的な証拠じゃなくても、上手く使えば思った以上の効果を発揮することもある」
「伯爵……」
そう言って、瞳を潤ませるアダムに。
エフェルローンは、苦笑しながらこう言った。
「俺にとっては想定内のことだ。別に気にする程のことじゃない。安心しろ」
そんなエフェルローンの力強い言葉に。
アダムは感謝しつつこう言った。
「日記は近いうちにお渡しします。出来るだけ早く」
そう約束を口にするアダムに。
ダニーが心配そうな面持ちでこう言った。
「でも、もしアダム君が[爆弾娘]事件の有力な証拠を所持していると知れば、きっとバックランド侯爵はアダム君に何か仕掛けてくるんじゃ……」
その問いに。
アダムは平然とした顔でこう言った。
「でしょうね。現に僕は今、街中の宿屋を転々と渡り歩いている状況ですし」
「えっ」
驚くダニーに。
アダムはそう言って皮肉な笑みを浮かべて見せる。
「実は、伯爵にこのことを話す前に、別の人物にこのことを話してしまって……失敗でした」
そう言って、苦笑するアダムに。
エフェルローンはハッとした表情をすると、アダムに詰め寄る様にこう言った。
「別の人に話した? それは、何処の誰だ? 何を話した?」
矢継ぎ早にそう尋ねてくるエフェルローンに。
アダムは、少々たじろぎながらこう言った。
「た、確か……グラハム・エイブリーだったかと。フリーのジャーナリストです。一回会っただけなので、細かい話はしていません。ただ……」
「ただ?」
そう言って、眇め見るエフェルローンに。
アダムは、緊張した面持ちでこう言った。
「『[爆弾娘事件]の真相を知りたくはないか』とだけ、話しましたが、何か問題でも……」
そう不安そうに尋ねるアダムを前に。
エフェルローンは、顎に片手を当てると驚きも隠さずこう言った。
「グラハム・エイブリー。まさかこんなところで繋がるとは……」
アダムとグラハム・エイブリー。
思いがけなく掴んだ二人の接点に、エフェルローンの脳は新たな仮説の構築にフル回転し始めるのであった。
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