68 / 127
第二章 秘められた悪意
隠された日記
しおりを挟む
べトフォードの、大量虐殺。
その黒幕が、バックランド侯爵。
予想だにしていなかったその事実に。
エフェルローンは冷静かつ慎重に、アダムに向かって改めてこう問い質す。
「アダム、お前が言うように、バックランド侯爵が事件の黒幕として。お前は、その事実を裏付ける何か決定的な証拠を持っているのか」
エフェルローンが一番気にかけていたこと、それは、この話の裏付けとなる物的証拠の存在の有無であった。
確かな証拠さえあれば、事件はどうにでも片付く。
だが、証拠がなければ――?
待っているのは、権力により貶められる悲惨な末路だ。
(あいつらは納得しないだろうが……)
エフェルローンは考えた末、アダムに向かってこう言った。
「もし、その部分に確実な証拠がないのなら。やはり、ダニーとルイーズには手を引かせる」
その一方的な発言に。
案の定、アダムとルイーズは顔を真っ赤にしてこう言った。
「先輩! 話が違いますよ!」
「そうです! さっきはいいって。そう言ってたじゃないですか!」
ダニーとルイーズが声を揃えて猛抗議する中。
エフェルローンは、二人の意向を完全に無視し、有無を言わせぬ強い口調でこう言った。
「アダムの話を聞いていて、これは冗談じゃなく危険だと感じた。もしこの話が本当で、俺たちが事実の証明に失敗したなら、俺たちに明日の命はないだろう。だが、今なら。今この事件から手を引くなら。少々の監視は付くかもしれないが、普通の生活を送ることが出来るだろう。わざわざ危ない橋を渡る必要はない。二人とも、悪いことは言わない、ここで降りろ」
エフェルローンのその言葉に、ルイーズが猛反発してこう言った。
「権力の犬に怯えながら生きるなんて。そんなの私、絶対嫌です!」
「僕も、嫌ですよ。毎日怯えならが過ごすぐらいなら、自分が正しいと思うことを貫いて死ぬほうがよっぽどいいですからね」
静かな怒りを言葉の端々に漂わせながら、ダニーもそう言って反発する。
あくまでも強情にそう言い張る二人に。
エフェルローンは深いため息をひとつ吐くと、こめかみに片手を当ててこう言った。
「そこまで言うなら、もう止めはしない。その代わり、俺の言うことは必ず聞いてもらう。自分勝手な行動も駄目だ、いいな!」
強情な二人を押しとどませるには至らなかったものの、かろうじて、釘を刺すことは出来たエフェルローンであった。
が、しかし――。
「隠された真実を探る。なんか、格好いいですよね。凄腕諜報員にでもなった気分です!」
目を爛々と輝かせ、ルイーズが軽いノリでそう言うと。
ダニーも、高揚する気持ちを抑えることなく、元々青白い顔を赤く染め、嬉しそうにこう言った。
「本当ですね! 国家の陰謀を暴くなんて、まるで本の主人公にでもなった気分ですよ!」
そんな、事の重要性を半分も分かっていない二人を尻目に。
エフェルローンは諦めにも似た深いため息をひとつ吐くと、目の前のアダムに尋ねて言った。
「こんな訳で、俺としてはこいつらを守るためにも形のある証拠が欲しい。バックランド侯爵を敵に回す以上、誰が見ても彼が[爆弾娘]事件の黒幕である事が分かるような、はっきりとした証拠が」
(このアダムの答えによって、俺たちの運命はほぼ決まる。殺されるか、はたまた生殺しか、晴れて自由の身か)
そう身構えるエフェルローンに。
アダムは少し弱ったような表情をすると、声のトーンを少し落として言った。
「日記が……」
「日記?」
エフェルローンはそう問い返す。
証拠とは日記なのだろうか?
そうだとするならば、誰の?
アダムか、それともバックランド侯爵――?
「私の父の日記に、そのことが克明に書かれています。今、手元にはありませんが、誰にも分からない場所に保管してあります。伯爵が言われる[はっきりとした証拠]に当たるかは分かりませんが……」
「日記か……」
エフェルローンはそう呟くと、何とも言えない難しい顔をして黙り込むのであった。
その黒幕が、バックランド侯爵。
予想だにしていなかったその事実に。
エフェルローンは冷静かつ慎重に、アダムに向かって改めてこう問い質す。
「アダム、お前が言うように、バックランド侯爵が事件の黒幕として。お前は、その事実を裏付ける何か決定的な証拠を持っているのか」
エフェルローンが一番気にかけていたこと、それは、この話の裏付けとなる物的証拠の存在の有無であった。
確かな証拠さえあれば、事件はどうにでも片付く。
だが、証拠がなければ――?
待っているのは、権力により貶められる悲惨な末路だ。
(あいつらは納得しないだろうが……)
エフェルローンは考えた末、アダムに向かってこう言った。
「もし、その部分に確実な証拠がないのなら。やはり、ダニーとルイーズには手を引かせる」
その一方的な発言に。
案の定、アダムとルイーズは顔を真っ赤にしてこう言った。
「先輩! 話が違いますよ!」
「そうです! さっきはいいって。そう言ってたじゃないですか!」
ダニーとルイーズが声を揃えて猛抗議する中。
エフェルローンは、二人の意向を完全に無視し、有無を言わせぬ強い口調でこう言った。
「アダムの話を聞いていて、これは冗談じゃなく危険だと感じた。もしこの話が本当で、俺たちが事実の証明に失敗したなら、俺たちに明日の命はないだろう。だが、今なら。今この事件から手を引くなら。少々の監視は付くかもしれないが、普通の生活を送ることが出来るだろう。わざわざ危ない橋を渡る必要はない。二人とも、悪いことは言わない、ここで降りろ」
エフェルローンのその言葉に、ルイーズが猛反発してこう言った。
「権力の犬に怯えながら生きるなんて。そんなの私、絶対嫌です!」
「僕も、嫌ですよ。毎日怯えならが過ごすぐらいなら、自分が正しいと思うことを貫いて死ぬほうがよっぽどいいですからね」
静かな怒りを言葉の端々に漂わせながら、ダニーもそう言って反発する。
あくまでも強情にそう言い張る二人に。
エフェルローンは深いため息をひとつ吐くと、こめかみに片手を当ててこう言った。
「そこまで言うなら、もう止めはしない。その代わり、俺の言うことは必ず聞いてもらう。自分勝手な行動も駄目だ、いいな!」
強情な二人を押しとどませるには至らなかったものの、かろうじて、釘を刺すことは出来たエフェルローンであった。
が、しかし――。
「隠された真実を探る。なんか、格好いいですよね。凄腕諜報員にでもなった気分です!」
目を爛々と輝かせ、ルイーズが軽いノリでそう言うと。
ダニーも、高揚する気持ちを抑えることなく、元々青白い顔を赤く染め、嬉しそうにこう言った。
「本当ですね! 国家の陰謀を暴くなんて、まるで本の主人公にでもなった気分ですよ!」
そんな、事の重要性を半分も分かっていない二人を尻目に。
エフェルローンは諦めにも似た深いため息をひとつ吐くと、目の前のアダムに尋ねて言った。
「こんな訳で、俺としてはこいつらを守るためにも形のある証拠が欲しい。バックランド侯爵を敵に回す以上、誰が見ても彼が[爆弾娘]事件の黒幕である事が分かるような、はっきりとした証拠が」
(このアダムの答えによって、俺たちの運命はほぼ決まる。殺されるか、はたまた生殺しか、晴れて自由の身か)
そう身構えるエフェルローンに。
アダムは少し弱ったような表情をすると、声のトーンを少し落として言った。
「日記が……」
「日記?」
エフェルローンはそう問い返す。
証拠とは日記なのだろうか?
そうだとするならば、誰の?
アダムか、それともバックランド侯爵――?
「私の父の日記に、そのことが克明に書かれています。今、手元にはありませんが、誰にも分からない場所に保管してあります。伯爵が言われる[はっきりとした証拠]に当たるかは分かりませんが……」
「日記か……」
エフェルローンはそう呟くと、何とも言えない難しい顔をして黙り込むのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる