正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第二章 秘められた悪意

消えた証拠

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 執務室に戻ったエフェルローンは、すぐさま手元の資料に目を通した。
  ダニーから受け取った遺留品リストと予めキースリーから渡されていた捜査資料を見比べる。

「…………」
「先輩、どうしたんです? そんな怖い顔をして……」

 ルイーズが訝しそうにエフェルローンを見る。

「無い……」

 何処を探してみても。
 キースリーから渡されていた資料に、[日記]というフレーズが何処にも見当たらない。

「何が無いんです?」

 同じように、ルイーズも資料に目を通しながらそう尋ねる。
 エフェルローンは神妙な面持ちで腕を組むと、机に両足を乗せてため息を一つ吐いた。

「[日記]だよ、[日記]って単語がどこにもない」
「えっ、本当ですか? でも、昨日までは確かにありましたよね?」

 驚いたようにそう言うと、ルイーズは自分の机から立ち上がる。
 そして、エフェルローンの前まで来ると、その手からリストの資料を引き抜いた。

「これがダニーさんが持っていたリストですか……」

 そう呟きながら自らの席に戻ると、ルイーズはエフェルローンから奪った資料と手元の捜査資料とを見比べ始める。

 そして、数分後――。

「確かに、見当たりませんね。でも昨日までありましたよね、[日記]っていう単語」

 ルイーズはそう言って眉をしかめると、資料を机の上に置いた。

「…………」

 消された証拠品。
 差し替えられた捜査資料。

 嫌な結論がエフェルローンの脳裏に過ぎる。
 
 ――内部の人間の犯行、か。

 考えたくは無かったが、その可能性は十分高い。

(それも、唯の内部犯って訳じゃない。これだけ用意周到となれば、かなり上の人間、それも上層部の人間が絡んでいる犯行と見るべきだろう)

 もしそうだとするならば、この事件―—只の殺人事件から、かなり危険な案件に跳ね上がる。
 下手をすれば、される可能性も出て来るだろう。

「なるほど。キースリーの奴、それを分かっていて俺に振ったって訳か」

 エフェルローンは苦々しくそう言い放つと、手元の資料を机の上に乱雑に放り投げた。

(あいつ、どれだけ俺のこと殺したいんだ……)

 おもむろに腕を組み、じっと宙を凝視するエフェルローンなのであった。
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