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第一章
第37話:街のパン屋さん2
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翌日、いつもと同じ時間に起床したジルとエリスは、今日も仲良く手を繋いで歩いていた。
相変わらず手を繋がないと外に出られないジルだが、腕にしがみついてこない分、まだマシなのかなーと、エリスは考えている。無理に引きはがそうとは思わないけれど……、生まれた街くらいは手を繋がなくても歩けるようになってほしい、というのが本音だ。
そのまま歩き進めていくと、エリスの幼馴染、ブランクがいるパン屋さんに到着。最近はアーニャの家でジルが昼ごはんを作っていることもあり、少しばかりご無沙汰していた:街のパン屋さん2。
昔からの知り合いのため、ジルもブランクに会うことは嫌がらない。むしろ、楽しみにしているようにも思えるのだが……、自分でパン屋さんのドアを開けるような勇気を、ジルは持っていない。
仕方なくエリスが代わりに扉を開けると、ドアベルがカランカランッと鳴り響く。
奥から出てきたのは、相変わらず、パン屋さんにしては清潔さが足りない印象を受ける、髭を生やしたブランクだ。その姿を見たジルは、トコトコトコッとブランクに近づいていった。
「ブランクお兄ちゃん、おはよう」
「おう、ジル坊。最近は来てなかったが、元気そうだな」
「うん、全然元気ー! ブランクお兄ちゃんは、いつもおいしそうな香りがするね」
「気づいちまったか。良い男っていうのはな、体から溢れ出すフェロモンが香る男のことを言うんだよ」
おわかりだと思うが、ブランクの服についたパンの香りについての話である。決して、男のフェロモンは良い香りがする、という話ではない。
「すごーい! 僕も香るかな」
ジルは気づかず、自分のニオイをクンクンと嗅ぎ始めるが。
その姿を見たブランクは、ちょっとしたジョークが通じないことに、戸惑いを隠せない。そして、弟がいきなり自分のニオイチェックをパン屋さんで始めるという展開に、姉のエリスが黙っているはずもなかった。
「やめなさい、ジル。ブランクはパン屋さんだから、良い匂いがするだけだよ。本当は汗臭いんだから」
「おいおい、男の汗を侮辱するとは、エリスも喧嘩を売るようになったな。パンを焼く熱と戦う俺をバカにするのは、まだいい。だがな、他のパン屋さんで働くイケメンや鍛冶屋のおっちゃん、門兵の兄ちゃんまでバカにするのはやめろ」
汗臭いことを自覚しているブランクは、自分のことを否定しない。カッコイイことを言っているようで、誰もそんなことは言ってないよ、と突っ込みたくなる発言だった。だが、そんな突っ込みなど必要ないと言わんばかりに、エリスは昔の話を掘り起こす。
「奥さんと付き合いたての頃、初デートへ行くときに私にニオイチェックさせたこと、まだ覚えてるからね?」
「その節は本当に助かりました。自分のニオイに気づかないので、焦っておりまして……」
大変感謝しているブランクは、深々とお辞儀をした。合わせて謝罪もします、と言わんばかりの最敬礼である。
「だからって、普通は他人にニオイを確認させないよ? ちゃんと汗を拭いて、着替えてデートへ行けば済むことなのに。チェックする側の気持ちにもなってよね」
とんでもないほどのエリスの正論を聞いて、全く言い返すことができないブランクは、奥の手を繰り出す。
「すいませんでした。こちらお詫びとしまして、新作のミルクパンをサービスさせていただきます」
これ以上余計なことを言われる前に帰らせようと思ったブランクは、人間であれば気になってしまう商品、新作パンで乗り切ろうと試みる。急いでいつも買ってくれる食パンとバターと一緒に袋へ詰め込むのだが、ここで予想外の伏兵が現れた。
「ブランクのお兄ちゃん、もう二つサービスしてもらってもいい?」
ちゃっかりアーニャとルーナの分ももらおうとする、ジルである! 気づけば昼ごはんを担当するようになったため、意外によく見ていたのだ。
「追加サービスをねだるとは、ジル坊も恐ろしいことを言うようになったな。今日だけだぞ」
「うん、ありがとう!」
なんだかんだでブランクは、ジルに甘かった。
パンの代金をもらい、錬金術ギルドに向かって歩く二人をブランクが見送ると、コッソリ見ていた奥さんが近づいてくる。
「もっとちゃんとエリスちゃんに謝ってください」
「すいませんでした。今度会ったら、ロールパンのように体を丸めて謝罪します」
もう機会はないだろうけど、絶対にニオイを嗅がせるのはやめようと誓う、ブランクだった。
相変わらず手を繋がないと外に出られないジルだが、腕にしがみついてこない分、まだマシなのかなーと、エリスは考えている。無理に引きはがそうとは思わないけれど……、生まれた街くらいは手を繋がなくても歩けるようになってほしい、というのが本音だ。
そのまま歩き進めていくと、エリスの幼馴染、ブランクがいるパン屋さんに到着。最近はアーニャの家でジルが昼ごはんを作っていることもあり、少しばかりご無沙汰していた:街のパン屋さん2。
昔からの知り合いのため、ジルもブランクに会うことは嫌がらない。むしろ、楽しみにしているようにも思えるのだが……、自分でパン屋さんのドアを開けるような勇気を、ジルは持っていない。
仕方なくエリスが代わりに扉を開けると、ドアベルがカランカランッと鳴り響く。
奥から出てきたのは、相変わらず、パン屋さんにしては清潔さが足りない印象を受ける、髭を生やしたブランクだ。その姿を見たジルは、トコトコトコッとブランクに近づいていった。
「ブランクお兄ちゃん、おはよう」
「おう、ジル坊。最近は来てなかったが、元気そうだな」
「うん、全然元気ー! ブランクお兄ちゃんは、いつもおいしそうな香りがするね」
「気づいちまったか。良い男っていうのはな、体から溢れ出すフェロモンが香る男のことを言うんだよ」
おわかりだと思うが、ブランクの服についたパンの香りについての話である。決して、男のフェロモンは良い香りがする、という話ではない。
「すごーい! 僕も香るかな」
ジルは気づかず、自分のニオイをクンクンと嗅ぎ始めるが。
その姿を見たブランクは、ちょっとしたジョークが通じないことに、戸惑いを隠せない。そして、弟がいきなり自分のニオイチェックをパン屋さんで始めるという展開に、姉のエリスが黙っているはずもなかった。
「やめなさい、ジル。ブランクはパン屋さんだから、良い匂いがするだけだよ。本当は汗臭いんだから」
「おいおい、男の汗を侮辱するとは、エリスも喧嘩を売るようになったな。パンを焼く熱と戦う俺をバカにするのは、まだいい。だがな、他のパン屋さんで働くイケメンや鍛冶屋のおっちゃん、門兵の兄ちゃんまでバカにするのはやめろ」
汗臭いことを自覚しているブランクは、自分のことを否定しない。カッコイイことを言っているようで、誰もそんなことは言ってないよ、と突っ込みたくなる発言だった。だが、そんな突っ込みなど必要ないと言わんばかりに、エリスは昔の話を掘り起こす。
「奥さんと付き合いたての頃、初デートへ行くときに私にニオイチェックさせたこと、まだ覚えてるからね?」
「その節は本当に助かりました。自分のニオイに気づかないので、焦っておりまして……」
大変感謝しているブランクは、深々とお辞儀をした。合わせて謝罪もします、と言わんばかりの最敬礼である。
「だからって、普通は他人にニオイを確認させないよ? ちゃんと汗を拭いて、着替えてデートへ行けば済むことなのに。チェックする側の気持ちにもなってよね」
とんでもないほどのエリスの正論を聞いて、全く言い返すことができないブランクは、奥の手を繰り出す。
「すいませんでした。こちらお詫びとしまして、新作のミルクパンをサービスさせていただきます」
これ以上余計なことを言われる前に帰らせようと思ったブランクは、人間であれば気になってしまう商品、新作パンで乗り切ろうと試みる。急いでいつも買ってくれる食パンとバターと一緒に袋へ詰め込むのだが、ここで予想外の伏兵が現れた。
「ブランクのお兄ちゃん、もう二つサービスしてもらってもいい?」
ちゃっかりアーニャとルーナの分ももらおうとする、ジルである! 気づけば昼ごはんを担当するようになったため、意外によく見ていたのだ。
「追加サービスをねだるとは、ジル坊も恐ろしいことを言うようになったな。今日だけだぞ」
「うん、ありがとう!」
なんだかんだでブランクは、ジルに甘かった。
パンの代金をもらい、錬金術ギルドに向かって歩く二人をブランクが見送ると、コッソリ見ていた奥さんが近づいてくる。
「もっとちゃんとエリスちゃんに謝ってください」
「すいませんでした。今度会ったら、ロールパンのように体を丸めて謝罪します」
もう機会はないだろうけど、絶対にニオイを嗅がせるのはやめようと誓う、ブランクだった。
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