上 下
62 / 62

最終話「レイと一緒に始まっていく」

しおりを挟む



「レイはその……産んでくれた親ってのは生きてるんだよな?」

「ああ。どこで暮らしているのかは分からないが、別のところで暮らしているとは聞くな」

「そのさ……会いたいとかって思ったりしないのか?」


 レイは戸惑った表情をしていた。
 聞いたらいけなかったかもしれないと思ったが、もう聞いてしまったことの記憶は戻せない。レイの言葉を静かに待つ。

「会いたいという感情はとうの昔に捨て去った。私はエダがいればそれでいい」

 レイの心の声は何故か聞こえてこないけれど、そんなのはあまりにも寂しすぎる。だって俺は会えないから。今までウザったく思った親を、舞を、俺は残して先に死んでしまった。


「俺さ、もっと親孝行をしてあげればよかったとか、舞にも、俺が先に逝ってしまうことが分かってたらカフェで舞が食べたがっていたケーキくらい買ってあげたら良かったなとか、未練ばかりがタラタラと出てきてしまうんだよ。だからレイにはそういう後悔はしてほしくないと思ったんだ」


 もう、永遠に会えない。会いたくても会えない。そんなモヤモヤをレイには背負ってほしくない。この先もレイが幸せならそれでいいと思うし、俺もその道を一緒に歩いていける。けれど、何か一つでも納得していないことがあったら、それは俺が解決する方へ導かなくちゃ気が済まない。


 そんなことをひたすら心の中で考えていると、【エダには偽っていてもしかたないな】というレイの声が聞こえてきた。レイの顔に視線を向ける。すると、レイは懐かしい記憶を辿るように話し始めた。


「王父が無くなって、あまり産んでくれた親のことを思い出すことはなかったが、ここにきて、随分と昔のことを思い出すように感じる。それも、全てエダという大切な存在に出会えたからだと思う。今から私が覚えている記憶だけを話そうと思うが……聞いてくれるか?」

 俺はレイの手を握り「うん」と大きく頷いた。


「私を産んだ親もミケのようなフェロモンを身にまとっていたと思う。色んな人に言い寄られてはいたが、それでも、王父だけを愛していた。リリックがミケの元に夜這いをしに行っていたみたいに、私の親も王父ではない他の者に夜這いをされて、その現場をたまたま目にした王父が激怒していたと聞いている。まあ、噂程度の話を盗み聞きしてしまっただけだが」

「そっか……」

「ああ。だから私はミケを好いてやることができなかったのかもしれない。それは多分、無意識に産んでくれた親の面影をミケに重ねてしまっていたからだ」

「…………話してくれてありがとうな。それなら、レイの親は悪くないだろ。だって、絶対嫌な気持ちになってたと思うし、怖かったと思うんだ」

「…………そうだな」


 俺から見てレイの目は涙で滲んでいるように見えた。

 ーー俺に話したことによって、少しはすっきりしてくれただろうか。


「なあ、レイ。近いうちに産んでくれた親に会いに行こうか。どこにいるか分からないけどさ、頑張って探して、いろんな人の情報を頼りに探せば、絶対きっと見つかると思うんだ」


 そう提案すると、レイから一筋の涙が零れた。後悔と懺悔と希望に満ち溢れている涙だ。


「エダ、貴様はお人よしにも程があるんじゃないか?」

「お人よしでいさせてよ。親もさ、今が幸せだったら全然いいと思うんだけどさ、でも、絶対レイに会いたかっただろうなと思うし、今が幸せじゃないならここで一緒に暮らそうよ」

「……一緒に?」

「うん。俺、もう自分の親や家族に親孝行できないからさ。せめてレイの親は幸せでいてほしいんだ」

 綺麗事ではなく、心の奥からそう思うから。これが俺の前世でのせめてもの償いだ。

 レイは俺の言葉に「そうだな」と頷いた。


「私も会いたくないわけじゃなかった。ずっと心の奥底には想っていた。だが……本当に一緒に探してくれるのか?」


 不安そうに俺に問うレイ。俺はそんな不安をかき消すようにまた大きく頷いた。


「俺もレイの親に会ってみたい。だって、レイに能力を引き継がせてくれた人だしな! ここで一緒に生活したらさ、レイのケガとか病気とか治してもらえるし、レイも親のケガや病気治せるだろ!?」


 『いい案だろ!?』的なテンションで身を乗り出して聞くと、レイは「ハハッ」と俺に笑顔を見せた。俺もつられて笑う。


「貴様らしいな……こんなときまで私の心配か」

「当たり前だろ。仕方ねぇから俺にキスしていいよ」

「なんでそこでキスの流れになるんだ。私が堪えていること分かってるのか? これでも一応エダの身体のこと心配してるんだぞ」

「わ、分かってるよ。だから、ほら……頬にキスで許してやるってば」


 ほれほれ、と、自分の頬を指指すと、レイは俺の頬に顔を近づけてきた。

 やべぇ、なんか変にドキドキしてきた。一人で心の中で騒いでいるとレイの唇は俺の頬ではなく、「エダ、こっち向け」と、何故か俺の頬を向けさせられてしまった。そして、レイの唇が俺の唇へと触れる。


 優しく包み込むように、唇からレイの熱が伝わってくる。


「エダ、好きだ」


 突然、愛の言葉をささやいてくるレイに、俺も、

「うん、俺も、レイが好きだ」

 と、つられて返す。レイは俺をぎゅっと抱き寄せ、俺の肩に顔を埋める。

 かわいすぎる。ああ、今のレイの表情、どんな顔してんのか見てぇ! ちょっとだけ……俺も少し下にズレたら見れるかも、と、そっと動いてみると、俺の下半身がレイの足に触れてしまった。


「……おい、貴様、なんだこの股間の膨らみは。こっちがどれほど我慢してるのか分かってるのか」

 鬼のような形相で俺を見るレイ。

「だってレイがあんまりカワイイことするから……こ、これは不可抗力だ!」

「フッ、分かってる。私は欲情まみれたエダの顔が好きだからな」

「ーーっ、んなことわかってんだよ!」


 ひょんなことから異世界に転生しちゃった俺だけど、やっぱし前言撤回、前世に後悔はないです。なので、舞も俺の家族も、俺の友人も、俺のことは記憶の片隅にでもとどめておいて幸せになってください。


 俺の今後の幸せはレイと一緒に始まっていくんだから。



【完】


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

ぽち
2023.12.19 ぽち

一気読みしてしまうくらい面白かったです、、、受けが不憫とか辛くなるからあまり好きではないのですが、一途でノンストレスで読めて最高に萌えましたありがとうございます、、!!!!!ハチミツ可愛すぎる良いキャラすぎてめちゃくちゃ好きでした!!!!

神代シン
2023.12.20 神代シン

ぽち様

嬉しすぎる感想ありがとうございます!!ぽち様の感想に嬉しすぎて頬がニマニマしっぱなしです♡
本当にありがとうございます!主人公は絶対ブレない性格にしたかったので、最高だと言っていただけて嬉しくて涙が止まりません…!
ハチミツ好きだと言っていただけてとても嬉しいです😊🌟ハチミツ回は書いてて楽しかったです♡

長編に関わらず、読んで頂けて素敵な感想までいただいて、本当にありがとうございました!!🥲❤️

ゆっくりおめめを休まれてくださいね💕

解除
ma2sa2
2023.12.01 ma2sa2

最高でしたあああ👏👏
はじまりにあら?思ってた関係性じゃないのかな?からの最高じゃーんとなりました!彼らのその続きも読めたらいいなぁって思いました!

神代シン
2023.12.01 神代シン

ma2sa2様

初めまして!お時間を割いて私の小説を一読下さりありがとうございます!初めての感想でとても感激しております😭
長々書きすぎたかなと思ったりしていたのですが、「最高」との言葉をいただけて嬉しいです😭✨
番外編的なものを公開できたら良いなと思ってましたので、少し遅くなりますが、コンテストが終わり次第投稿させていただきますね🤗

素敵なコメント、本当にありがとうございました🙇♡
ゆっくりお目を休まれてくださいね🙇✨

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)

サイ
BL
目が覚めたら、裸で見知らぬベッドの上に縛られていた。しかもそのまま見知らぬ美形に・・・! 右も左もわからない俺に、やることやったその美形は遠慮がちに世話を焼いてくる。と思ったら、周りの反応もおかしい。ちょっとうっとうしいくらい世話を焼かれ、甘やかされて。 そんなある男の異世界での話。 本編完結しました よろしくお願いします。

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。