上 下
31 / 62

第31話「自分の使命、ミケの涙」

しおりを挟む
「ああ、うん……。あのさ、ミケ」

「……はい?」


 冷静にミケの目を見て話すと、やはり少し変な気分になってくる。御者はポルニア国に呪いが掛けられる前にはミケのような人物が半数いたと言っていた。こんな変なフェロモンを出すヤツがあと半分もいたら、この国は盛ってばかりになる。

 まあ、だから王父の相手は他のヤツに抱かれてしまったんだろうけど……


「その、ポルニア国ののろ……あっ……」


 言いかけてハッとした。
 馬車で話していたことを口外すると、御者は呪い殺されると言っていた。俺がミケに話をしてしまったら御者が呪い殺されてしまうかもしれない。あぶねぇ……


「……ポルニア国が……なんですか?」

「いや、なんでもねぇ。それよりおまえ今暇か?」

「暇……ではございませんが。レイ様がお戻りになられておりますので、色々とご支度の準備がございますし」


 あわよくば夕食の味見でもさせようかと思っていたが、その時間もないんじゃ仕方がない。


「一分でいい。そこ座って待ってろ」


 アクアニア国から買ってきた山のような食材の中からミケが今すぐ食べれそうな物を探し出す。無意識に手に取っていたのはりんごだった。レイは美味しいと言ってくれていたけどミケはどう言ってくれるだろうか。


 キッチンにはまな板、包丁、レンジ、オーブン、コンロ。ありがたいことに何でもあった。使われていないまだ新しい包丁を取り出しりんごを八等分のくし切りにして芯を切り落とす。皮の部分にV字に浅く切り込みを入れ、皮を剥いた。うさぎ形のりんごだ。綺麗に棚に直されていた小皿を一枚取り出し、三個ほど並べてミケの前のテーブルに並べる。


「手づかみで食べてみ」

「…………僕がレイ様を殺すよう仕向けたので、お出しになったのですか? それとも、僕が出した料理の嫌がらせですか?」

「ああ? 何言ってんだよ、俺がリンゴを剥いたのは味についてわかってほしかっただけだし、毒なんて入ってねぇ!」


 ミケの皿に乗っているりんごを一つ手に取り、俺も自分の口に運ぶ。


 ……よかった、味は美味いままだ。そんな俺の様子を見たミケは皿に乗っているりんごを掴み恐る恐る口に運んだ。しゃりしゃりと美味しそうな租借音が聞こえてくる。


 険しかったミケの表情が、りんごを食べて一変した。


「……こ、これは、なんでこんなに味が出ているのですか?」

「味が出ているんじゃなくて本来のりんごはこういう味なんだよ。てめぇが出す料理は全然味がしないって言ってた俺の言葉が分かったろ」

「は、はい……」


 涙ぐむミケ。料理が不味いと言ってしまったことを根に持っていたのかもしれない。でも、仕方ないだろ。俺はまだその時ポルニア国のことも、かけられている呪いのことも全然分かっていなかったんだから。と自分で自分を正当化しつつも、少しだけミケが可哀想になった。


「でも、おまえだけじゃないんじゃね? ポルニア国は……そのなんつーか、思いやりとか、大切にしたいとか、いろんな感情が欠落していると思う。だから、そのミケが追い求めてる運命の相手も……言ってしまえば王に限らず、自分が好きになった相手に身体捧げていいんじゃないかって俺は思うよ。まあ、散々悪行をしてきた俺が言うのも変な感じするかもしれないけど」


「王……じゃなくてもいい?」


「だってよ、王と結婚したいがためにレイを殺させてその幸せを手に入れたとしても、王になるヤツとレイ派の人物の間では絶対に争いは起きると思う。レイが王でいてくれているからこの国が争いなく過ごすことができているんだと思うけど……ミケはそうは思わねぇ?」


 尋ねると、ミケは「そこまでのことは考えておりませんでした。僕の役目は王と結婚して、王の子を孕むことなので」と、あくまで自分の目的しか考えていなかったようだ。だとしたら、ゲームのシナリオ事態の内容もだいぶ変わってくる。ミケは自分を好きでいてくれているそこそこ強いヤツとの結婚を決めただけであって、自分の気持ちは蔑ろにしているのかもしれない。


 そもそも呪いが解ければ、ミケのように子を孕むことができる人物が半数も出てくるんだ。ミケは自分の使命に駆られなくて済む。ミケがレイにしたことは今も赦せないけれど少しだけ同情してしまう。


「まあ、俺から言えるがあるとしたら、使命とかそんなんに捕らわれずに生きろよ。レイがおまえと結ばれる気がないんだから、おまえは自分の使命に駆られなくてもいい……と、俺は思う」


 「まあ、ゲームの内容はだいぶ変わってしまうけど」と、出そうになった言葉をひっこめる。今更ポルニア国のシナリオがという心配を俺にする資格はない。


「た、たしかに……そう言われれば……」


 ミケは食べかけていたりんごを見つめ頷いた。


「自分が好いたヤツと一緒になれるように頑張れよ。俺、おまえだったら本気出せばイけると思う」

「イける……とは?」

「成功するってことだよ!」

「…………分かりました。しばらく自分の気持ちとやらと向き合ってみます。あなた様が来て僕のレイ様に関しての業務も随分と減るでしょうから」


 ……うっ、なんかすげぇ嫌味言われたような気がする。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。 目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。 獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。 年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。 親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!? 言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。 入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。 胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。 本編、完結しました!! 小話番外編を投稿しました!

【R18・完結】ショウドウ⁈異世界にさらわれちゃったよー!お兄さんは静かに眠りたい。

カヨワイさつき
BL
20代最後の日、コンビニ帰りに召喚に巻き込まれてしまった、正道晴人(しょうどう はると)と 同時刻、ゲームを買いに来た岡真琴(おか まこと)は神子召喚されてしまった。 2人の神子は不吉とされ、正道は召喚場所から追い出されてしまった。 正道を中心に世界は動き出したかもしれない?! 衝動、正道の異世界物語! ☆予告なしにR 18入る場合入ります。 暴力や無理矢理なのは、なるべくボカした 表現にしてます。 大切なご意見ご感想、毎回うれしいです😆 読んでくださる皆様に感謝を込めて ありがとうございます❤️ 小さな幸せが たくさん降り注ぎますように❤️

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

騎士団長である侯爵令息は年下の公爵令息に辺境の地で溺愛される

Matcha45
BL
第5王子の求婚を断ってしまった私は、密命という名の左遷で辺境の地へと飛ばされてしまう。部下のユリウスだけが、私についてきてくれるが、一緒にいるうちに何だか甘い雰囲気になって来て?! ※にはR-18の内容が含まれています。 ※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

あなたの運命の番になれますか?

あんにん
BL
愛されずに育ったΩの男の子が溺愛されるお話

神子ですか? いいえ、GMです。でも聖王に溺愛されるのは想定外です!

楢山幕府
BL
ゲーム会社で働く主人公は、新しくNPCの中の人として仕事することに。 全ステータスMAXのチート仕様で、宗教国家の神子になったのはいいものの、迎えてくれた聖王は無愛想な上、威圧的で!? なのに相手からの好感度はMAXって、どういうことですか!? 表示バグかと思ったら、バグでもないようで??? ――気づいたときには、ログアウトできなくなっていた。 聖王派と王兄派の対立。 神子を取り巻く環境は、必ずしも平穏とは言い難く……。 それでも神子として生きることを決めた主人公と、彼を溺愛する聖王のあまあまなお話。 第8回BL小説大賞にエントリーしました。受賞された方々、おめでとうございます!そしてみなさま、お疲れ様でした。

大好きだった本の世界に迷い込んだようですが読了していないので展開がわかりません!

大波小波
BL
 相羽 倫(あいば りん)は、18歳のオメガ少年だ。  両親を相次いで亡くし、悲しみに暮れて雨に濡れた墓石の前に膝をついていた。  そのはずだったが、気が付くと温かなそよ風の吹く場所にいる。  しかも、冬だった季節が春に代わっているだけでなく、見知らぬ人間が次から次へと現れるのだ。  奇妙なことに、彼らは姓を持たずに名だけで暮らしている。  姓は、上級国民にしか与えられていない、この世界。  知らずに姓名を名乗った彼は、没落貴族の御曹司と決めつけられてしまう。  ハーブガーデンで働くことになった倫は、園長・和生(かずお)に世話になる。  和生と共に、領主へ挨拶に向かう倫。  北白川 怜士(きたしらかわ れいじ)と名乗るそのアルファ男性に、倫にある記憶を呼び覚ます。 (北白川 怜士、って。僕が大好きだった本の、登場人物だ!)  僕、もしかして、本の中に迷い込んじゃったの!?  怜士と倫、二人の軌道が交わり、不思議な物語が始まる……。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

処理中です...