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第2章 仕事の仕方

18 初戦

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 拳を握りしめて、変な汗が背中を伝わるのがわかる。この時間は、本当に嫌だと思った。カサカサと紙のめくられる音だけが大きく聞こえた。

「そうだな。六十点かな」

 保住の声に、息を潜めていた他の職員たちは表情を明るくした。

「やったな! 田口」

「本当だ。係長のお眼鏡にかなったのなら安心だ」

「し、しかし。まだまだ合格ラインギリギリですが……」

 とは言いつつ、嬉しいのは嬉しい。

「十点からの進歩だぞ!」

 渡辺に喜ばれる。保住は、みんなにもみくちゃにされている田口を見ていたが、ネクタイを締め直した。

「係長?」

「田口、それ持って局長のところに行くぞ」

「係長?! 六十点で勝負するんですか?」

「結構、ギャンブラーですね……」

 矢部と谷口の言葉に田口は不安になった。

「えっと」

「企画書ができ上がったら、担当者が直々に局長にプレゼンするんだよ。OKないと話し進められないだろう?」

 谷口の説明に「確かに」と頷く。企画書を作るのが目的ではない。事業の実施が目的なのだ。

「六十点で大丈夫でしょうか?」

 不安そうな谷口の言葉に保住は笑顔を返す。

「例え九十点の企画書でもプレゼンがダメならダメです。田口、六十点でもお前のプレゼンしだいで九十にも百にも跳ね上がる」

 ——プレッシャー……。

 田口は胃が痛んだ。

「係長、それは励ましというよりプレッシャーですよ」

 渡辺は苦笑。

「そうですか? 励ましているつもりですが……」

 瞬きをする保住は悪気がないらしい。そのことはよくわかった。

「行けます」

 田口は深呼吸をして保住を見る。それを受けて彼は頷くと、廊下に出ていった。

「頑張れー」

「局長の目を見るなよ」

「うまく行ったら歓迎会してやるぞ!」

 励ましなのか、アドバイスなのか、意味不明な言葉に背中を押されて廊下に出る。澤井の部屋は廊下を挟んで向かい側だった。

「お前のやり方でやればいい」

 隣に並んだ保住の手が田口の肩に添えられる。緊張のドキドキが、別なドキドキに変わるのがわかった。

「了解です」

 田口の返事を聞いてから、保住はノックをして扉を開けた。澤井の返答など関係ないということだ。

「入りますよ。局長」

 ずかずかと入っていく保住の度胸には脱帽だ。田口も恐る恐る後に続いた。

「返答しておらん。勝手に入ってくるな」

「いいじゃないですか。どうせいるのは知っています」

「お前な」

 澤井は、保住に一瞥をくれてから田口を見た。



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