28 / 231
第2章 仕事の仕方
18 初戦
しおりを挟む拳を握りしめて、変な汗が背中を伝わるのがわかる。この時間は、本当に嫌だと思った。カサカサと紙のめくられる音だけが大きく聞こえた。
「そうだな。六十点かな」
保住の声に、息を潜めていた他の職員たちは表情を明るくした。
「やったな! 田口」
「本当だ。係長のお眼鏡にかなったのなら安心だ」
「し、しかし。まだまだ合格ラインギリギリですが……」
とは言いつつ、嬉しいのは嬉しい。
「十点からの進歩だぞ!」
渡辺に喜ばれる。保住は、みんなにもみくちゃにされている田口を見ていたが、ネクタイを締め直した。
「係長?」
「田口、それ持って局長のところに行くぞ」
「係長?! 六十点で勝負するんですか?」
「結構、ギャンブラーですね……」
矢部と谷口の言葉に田口は不安になった。
「えっと」
「企画書ができ上がったら、担当者が直々に局長にプレゼンするんだよ。OKないと話し進められないだろう?」
谷口の説明に「確かに」と頷く。企画書を作るのが目的ではない。事業の実施が目的なのだ。
「六十点で大丈夫でしょうか?」
不安そうな谷口の言葉に保住は笑顔を返す。
「例え九十点の企画書でもプレゼンがダメならダメです。田口、六十点でもお前のプレゼンしだいで九十にも百にも跳ね上がる」
——プレッシャー……。
田口は胃が痛んだ。
「係長、それは励ましというよりプレッシャーですよ」
渡辺は苦笑。
「そうですか? 励ましているつもりですが……」
瞬きをする保住は悪気がないらしい。そのことはよくわかった。
「行けます」
田口は深呼吸をして保住を見る。それを受けて彼は頷くと、廊下に出ていった。
「頑張れー」
「局長の目を見るなよ」
「うまく行ったら歓迎会してやるぞ!」
励ましなのか、アドバイスなのか、意味不明な言葉に背中を押されて廊下に出る。澤井の部屋は廊下を挟んで向かい側だった。
「お前のやり方でやればいい」
隣に並んだ保住の手が田口の肩に添えられる。緊張のドキドキが、別なドキドキに変わるのがわかった。
「了解です」
田口の返事を聞いてから、保住はノックをして扉を開けた。澤井の返答など関係ないということだ。
「入りますよ。局長」
ずかずかと入っていく保住の度胸には脱帽だ。田口も恐る恐る後に続いた。
「返答しておらん。勝手に入ってくるな」
「いいじゃないですか。どうせいるのは知っています」
「お前な」
澤井は、保住に一瞥をくれてから田口を見た。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話
こじらせた処女
BL
網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。
ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?
男の子たちの変態的な日常
M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
赤ちゃんプレイの趣味が後輩にバレました
海野
BL
赤ちゃんプレイが性癖であるという秋月祐樹は周りには一切明かさないまま店でその欲求を晴らしていた。しかしある日、後輩に店から出る所を見られてしまう。泊まらせてくれたら誰にも言わないと言われ、渋々部屋に案内したがそこで赤ちゃんのように話しかけられ…?
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる