サトり、サトラれ。

B介

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サトリ

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「奏多!起きなさいー!今日から高校でしょー!!」

目覚ましより、威力のある母の声が一階から2階の部屋まで響き渡る。


....後10分は寝れる予定だったのに...。

「かなたー!!」

「...わかったよー!!おきたー!!」

朝から大声を出して、頭に響く。これを15年間繰り返しているが、慣れない。

暖かい布団から渋々と身体を出し、一階へ重い足取りで向かう。


「奏多おはよう!目玉焼きは半熟?固め?」

フライパン片手に振り返る母に目擦りながら、半熟と答え、洗面所へ向かう。

冷たい水で顔を洗い、そのまま、髪を濡らす。
すげ~寝癖...。


ダイニングのいつもの席に座ると、既に父が新聞を読んでいた。

「おはよう奏多。」

「おはよう...。」

新聞から一瞬視線を奏多に向け、また新聞へと戻す。

『....奏多も今日から高校生か..小遣いアップした方がいいのだろうか...』

「アップして。流石に二千円じゃ辛い。」

トーストにバターを塗りつつ答えると、父達也はムッと眉を寄せる。

「聞いてたのか。」
「聞こえたんだ。」

「ほら、目玉焼き!何をアップ?」
母、麻里子は半熟の目玉焼き皿を置きながら、父を見る。

「....奏多の小遣いの事を考えてたんだ。」

「あーそうねぇ。私も調べてたんだけど、高校生の平均は五千円らしいのよ。だけど、お隣のヨウちゃんママは四千円にするって!」

「五千円がいい!」
  
『でも、奏多、遊ぶと言ってもヨウちゃんくらいだしー...』

「.....お金は関係ないじゃん...。」

「高校一年生だし、最初は四千円にしましょ!友達とか増えて、無駄遣いせず、足りなかったら、増やす!!」

「えーー!!」

麻里子は同意を求める様に達也を見ると、達也も小さく頷く。

『高校では、沢山友達作って欲しいのよ。』

「.......ヨウちゃんだけでいいし。」

ムッと、眉をよせてパンを齧ると、父と母のため息が聞こえてくる。


俺、入江奏多(いりえかなた)は特別な能力を持っている。
一億人に一人と言われるサトリという存在だ。他人の考えが聞こえる能力。

サトリは気づいた時点で国に申請しなければならない。
何故なら、知っては行けない内容も簡単に聞いてしまうからね。
そして国の保護対象となる。
サトリの存在事態は知られているが、サトリだと言うことは機密事項とされ、知った人物は誓約書まで書かされるのだ。

今俺がサトリと知っているのは、まあ、でっかく言うと国、後は父母。隣の幼馴染のヨウちゃん家。(ヨウちゃんママは母麻里子の親友なんだよね)

そんな感じで、俺がサトリだということは、社会的に秘密。
まあ、誰だって...考えなんて聞かれたく無いし、そんな人物がいたら怖いもんね。



「カナー!!遅れるぞー!」

ブホォッ!!
飲んでた牛乳が、テーブルに滴る。

「あら、そんな時間!?早く着替えてきなさい!」

外から響く、いつもの賑やかな声に、麻里子は時計を見て、奏多を急かす。

「....たくっ、いつもインターホン鳴らせって言ってんのに...」

奏多はぶつぶつ呟きながら、二階へと急ぐ。


新品の白いシャツ、紺のブレザー、グレーのチェックパンツと、慣れないエンジ色のネクタイを締め、小遣いで買った、新品のリュックを背負い階段を降りると、ソワソワと落ち着きなく、玄関で待つ山西陽一ことヨウちゃん。
生まれた日も3日違い、病院から始まり、高校も一緒だ。

唯一俺が家族以外に心許せる存在だ。

「おはよー!遅えよ!行くぞ!」

俺を見た瞬間、ニカッと八重歯を見せ、扉に手を掛ける。

「やっぱり、入学式顔出そうかしら。」
見送りに現れた母麻里子はいそいそとエプロンを外す。

「いいよ!!高校生にもなって!行ってきます!」

母が準備し始めない様、釘を刺して慌てて玄関を出る。

「麻里子ちゃーん!行ってきまーす!」

「だから、人の母親にちゃん付けやめろよ!!」


「ヨウちゃーん、奏多をよろしくねー!行ってらっしゃい!」

ヨウちゃんも、母も何故あんなに声がでかいのか。恥ずかしい。


「あれ?ヨウちゃん。髪染めたの?」

ヨウちゃんは元々水泳やってたせいか、少し髪が茶色が、いつもより明るめな短髪になっている。

「へへっ。高校デビュー!!なーんてな。」

照れたように新しい髪型を触るヨウちゃん。
『似合ってるかな?自分でやったから、あんま自信ないんだけど...』

「すげーいいじゃん!なんか、ヨウちゃんの感じにめっちゃハマってるよ。」

「おー!サンキュー。」

嬉しそうに、八重歯を見せながら笑うヨウちゃんに、俺も釣られて笑う。

「カナも髪型変えればいいのに。かっけー顔してるのに勿体ない。前髪だって切ればさぁ。」

「俺はこれでいいんだよ。」

かっけーかは別として、確かに伸び過ぎたかもしれない前髪も指でいじるが、このままでも良いと思っている。

サトリの特徴として、何もせずとも心の声が聞こえてくるが、目を合わせた方が余計聴こえてくるのだ。

だから、あまり人と目を合わせたくも無い。
政府から、心の声を防ぐ装置というものを、透明なピアスとして付けられているが、雑音を抑えるレベルにしかならない。

簡単に言うと、ピアスを外すとクラブレベルの騒音。つけると町並みレベル。
気持ちの強さにより、聞こえてくる音量が違うので、小さい声を省く程度だってこと。

それだけども助かるけどね。

「でもさ!政府バンザイやな。カナとは同じクラス!ってわかってるから、なんか安心!!」

「そうだね。ヨウちゃんいて俺も助かる。」

政府から文部科学省にも俺がサトリとは伝えられ、もちろん学校サイドも保護対象として動いてくれてる。
その一つとして、サトリと知ってるヨウちゃんは俺のサポートとして同じクラス。
そして必ず、サトリ特殊対応処置監察官が教師として配属される。

小学、中学の時もそうだった。
しかし、教師達があまりよく思っていないのも俺にはわかってる。誓約書を書いたとしても気持ちまでは、、隠せない。

だから、俺は高校入らず、働こうと思ってたんだ。
サトリは望めば、普通の仕事もできる。
一般人として働ける。
その他、政府の機密保持的仕事もある。
これに加入すると、もう家族やヨウちゃんにも会えなくなるけどね。

だけど、ヨウちゃんや両親に勧められ、高校生となった。

両親は俺に、普通の日常を楽しんでもらいたいみたい。

普通に出来ない、俺には難しいことだけど。


学校が近づくにあたり、はしゃぐ声が、耳と頭に響く。
浮立つ声に、逆に沈むこの気持ち。

そんな俺の気持ちに気づいたのか、ポンッとヨウちゃんは、肩に腕を回して、強引に門をくぐらす。

「また!3年間よろしくな!相棒!」

『大丈夫!俺が守ってやるから!』

ニカッと笑うヨウちゃんに、俺は少し、気持ちが弾んだ。

「うん。よろしく。」


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